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[展覧会]NADA House in Governor's Island

NADA(New Art Dealer's Alliance)は、ニューヨークの若手ギャラリストが現代アートに関わる団体・個人による情報交換を目的に、2002年に立ち上げた非営利団体。草の根的に広まり、現在は欧米を中心に気鋭ギャラリー、キュレーター、コレクターが登録しており、ニューヨークとマイアミでアートフェアも開催するなど、類似団体の中ではメジャーな存在です。ギャラリーが登録するには会員の推薦が必要ですが、個人は年会費150ドルで誰でも入会でき、イベントや交流会に参加できます。

NADAが主催するグループ展「NADA House」がニューヨークのガバナー島で開催されており、見に行ってきました。

ガバナー島はマンハッタンの南端からフェリーに乗り、10分程度で到着する小さな島です。アメリカ革命戦争の時代から軍事拠点として使用されてきましたが、今はのどかな観光地。広い公園にレンガの建物が並び、夏には音楽イベントが行われたり、ニューヨーカーにとっては近場にある避暑地のような場所です。

Photo from collecteurs.com

NADA Houseは、NADAに所属するギャラリーが選出した現代アーティスト45名が参加するグループ展です。会場は、かつて軍人家族の居住として使われたコロニアル風の邸宅三棟。長く放置されていたようで、中はあちこちペンキが剥がれ、床も擦り切れててボロボロ。リビングルーム、キッチン、ベッドルームなどかつての日常的な空間が廃墟にされて異空間の様相を呈し、そこにアート作品が間借りしているというような、面白いキュレーションでした。

気になった展示をいくつか紹介します。(一部を除き、アーティスト名のみ。カッコ内は所属ギャラリー、団体)

Joseph Hart (Deep Color)

NY在住の作家 Joseph Hart による、リネンにアクリルペイント、布、紙などをコラージュし、エネルギーあふれながら知的さも感じる平面作品です。田中敦子や白髪一雄の作品を思い出しました。ペンキが剥げた壁に同化しているような、そこから出てきた異物のような、絶妙なバランスで存在感を放っていました。

Tony Pedemonte (Creative Growth Art Center)

カリフォルニア州オークランドにある、知的障害者のためのアート施設 Creative Growth Art Centerで制作するTony Pedemonteの立体作品。廃材で作った支持体に毛糸や糸をぐるぐると巻きつけてつくられています。子供の頃読んだ絵本の「バーバパパ」のキャラクターのような形ですが、絶妙なところで「かわいい」だけに落ち着かず、静かな存在感を持ちながら、がんじがらめでちょっと怖さもあるような作品です。三面が窓になったサンルームの部屋にもよく合っていました。椅子の形の作品では、陽のよく当たるこの部屋で、かつて編み物や繕い物をしていたのかもしれない女性たちに思いを馳せました。

"House Arrest" Paintings 
Billy Jacobs (False Flag)

ドナルド・トランプの選挙コンサルタントで、トランプ陣営とロシアの共謀疑惑に絡む罪などで実刑判決を受けたポール・マナフォートをテーマにした平面のシリーズ。ニューヨーク州が誕生した地でもあり、司法手続きが行われたり監獄もあったガバナー島の歴史を踏まえて作られた作品で、タイトルは「自宅監禁」。扉が外されたキッチンキャビネットは、まさに監獄の檻のようにも見え、場所で作品の意味が補完され、部屋全体がインスタレーションになっています。

Erik Frydenborg (The Pit)

LA在住の作家による、軽石素材で作られた彫刻作品。素材はフォークアート彫刻への目配せと、また一部が石で埋め立てされているガバナー島の文脈を組んだ作品との解説がありましたが、背景をもう少し調べて見ないと、見ただけではちょっと理解できません。リノリウムの剥がれたキッチンの床に置かれている様子、キャビネットとの色のバランスが絶妙でした。

全45作家が参加しているため、これらはごく一部です。個性のある、アクの強い会場にバランスよく作品が配置された、さすがNADA主催の展示でした。作品はCollecteurs のサイトでも見ることができます。

NADA House on Governor's Island
金、土、日 11am-5pm
2019年8月4日まで
www.newartdealers.org



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