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知っているようで知らない「マスタード」の世界|#59-61

ホットドッグ、美味しいですよね。

コンビニのジャンボフランク、マクドナルドのチキンマックナゲット。「マスタード」は小さい頃から慣れ親しんだスパイスの1つ。
スパイスマニアじゃなくても冷蔵庫に常備している人もいるでしょう、ですがあなたはマスタードをどのくらい知っていますか?

知っているようで知らない「マスタード」の自由研究結果を発表します。


基礎情報

\基礎情報は、音声でも聴けます/

マスタードは環境への適応が早いので、雑草よろしく野生での交雑がしやすく爆発的に繁殖するため、厳密には膨大な種類があるようです。
今回はカレーに使われる代表格ブラック・ブラウン・イエローマスタードを研究しています。

・名称
英語マスタード( Mustard )
日本語:カラシナ(特に調味料の場合「からし」)

・語源
ラテン語 mustum(ムスツム)「新ぶどう液」という意味
→マスタードシードを挽いたり砕いたりし て酢や新ぶどう液(発酵前だったり発酵中だったり)を加えて芥子ペーストが作られたことから名づけられたと言われる。

・属性
・アブラナ科(十字花科:花のガクが十字架の形だからと言われる。有毒なものが無いと言われる)

・生育環境
基本的には一年草。品種によって、秋に種をまいて冬を越せる冬型一年草もある。

【カレーに使われる代表格 三種類】
「ブラックマスタード」
学名:Brassica nigra /ブラシカ ニグラ
和名:クロガラシ
原産地:中東(フランスとかイタリアとかに伝統的な産地がある)
三種の中で一番辛いと言われているが、草丈が高めで機械化農業に適さないため、農業が機械化されるに連れて、どんどん次に紹介するブラウンマスタードに取って代わられているようです。

「ブラウンマスタード」
学名:Brassica juncea /ブラシカ ユンキア
和名:カラシナ(セイヨウカラシナ)
別名:インディアンマスタード、チャイニーズマスタード
オリエンタルマスタードも同種らしい(同じものの呼び方が違うだけなのか、厳密に言うと品種が違うのか、気候とか土壌で違いが出るだけなのか、わからない)
原産地:様々言われていて、インド、中国、ヨーロッパ(これまた厳密には違う種類なのかもしれない)
ブラックマスタードと非常に似ているけど、辛味の点ではブラウンマスタードの方が少し穏やからしい。

「イエローマスタード」
学名:Sinapis alba /シナピス アルバ( 別名 Brassica alba )
和名:シロガラシ
別名:ホワイトマスタード
原産地:地中海
俗に「洋からし」とも言われるやつ 


マスタードは辛いのか辛くないのか

粒マスタード・からし、マスタードは辛いイメージがあるものの、マスタードを使っているのに辛くないカレーもある。それは何故なのか?

・辛さの仕組み

マスタードシードに含まれるシニグリンが、酵素ミロシナーゼと水によって、アリルイソチオシアネート(=辛味成分)が生成される。
逆に、加熱すると酵素は失活して辛みが消えていく。

ツーンとする辛味は、揮発性の成分が鼻にぬけるため。(大根おろしの辛さとか、ワサビの辛さと同じ)

マスタードの種を圧縮して作る、マスタードオイル。ここには、イソチオシアネートが含まれているので、辛い油になる。


マスタードの歴史

\歴史回は音声でも聴けます/

古代

4000年前のギリシャの遺跡から、袋に入った状態のマスタードが発掘されている。同時期のエジプトでも第12王朝のお墓から大量のマスタードシードが発掘されている。農業として計画的に作られていたようだ。

紀元前530年頃。古代ギリシャの有名な数学者ピタゴラスが、「マスタードほど、脳髄と鼻を刺激するものは、他に見当たらない」と言ったという記録がある。日常的に食べていたことがわかる。
当時は、この中東や地中海沿岸に、胡椒はまだ伝わっておらず、辛いスパイスの象徴だった。しかも大量に収穫できるので値段も安かった。もっと時代が下ってから胡椒がめちゃくちゃ高額で取引されていた頃は、マスタードを混ぜて水増しして商売をしていた人がいたそう。

ヨーロッパのマスタード

ヨーロッパでは食用以外に、いろんな効能の薬として使われていた。
紀元前530年にピタゴラスは「サソリの刺し傷の解毒剤として効果を発揮する」と言っていた。

古代から栽培されていたのは、ヨーロッパではなく地中海沿岸だったが、中世以降、とくにフランスでの栽培が広がる。その背景にあったのが、キリスト教の修道院。
パリ郊外で、修道士がサイドビジネスで、マスタードを育てたことが、儲かっちゃって広がっていく。スペインがあるイベリア半島には、イスラム教徒が北アフリカから攻めてきた際にマスタード栽培が普及していき、徐々にヨーロッパ全体に広がったマスタード栽培。
12世紀には、イングランド、ドイツに栽培技術が広がる。

簡単に育てられて収穫量も多いから安い。肉に合わせると美味しい。ペーストは日持ちもする。好条件のマスタードは「万能ソース」としての地位を確立したぞ。

インドのマスタード

インドではカレー以外に使われていた記録がたくさんある。
たとえば、紀元前4世紀の外科医スースルタ1世という人が、手術前の病室を白い芥子を使って、蒸気で燻蒸(つまりバルサン)をしたという記録がある。ちなみに、マスタードのバルサンはピリピリする刺激臭なのだが。虫やばいきんを駆除するのではなく、悪霊退散の意味だそう。


インドの料理での使い方

ヨーロッパでは、もっぱらペースト調味料として使われていたが、インドでは、ホールスパイス・ペースト・マスタードオイルと多様な使い方がある。どれも、肉をお美味しく食べる調味料ではなく、料理の食材の一つとして使い分けている。

・南インド料理
ホールのまま、油で加熱をするテンパリングで香りを抽出するのに使う。辛さよりも、香ばしさが強く感じられる。

・インド東部(ベンガル地方)
マスタードシードもたくさん使うけど、種をすりつぶしたペーストや、マスタードオイルも使う。パンチフォロンというミックススパイスにも入っている。(マスタード、フェンネル、フェヌグリーク、クミン、カロンジ)

・ベンガル地方
マスタード推し推しのカレーが多い。特に魚、黄色くてマスタードをふんだんにつかった「ショルシュ・マーチ」が代表的。
ツーーんとした辛さと苦旨さが特徴的でトマトや唐辛子を使わないレシピもある。

・北インドやパキスタン
マスタードの種はあまり使わないが、かつて、マスタードオイルを多用していた。他の植物油が普及してからは、少しずつその使用量が減り、今では一部のカレーとアチャール(オイルの漬物)の材料として使われている。

・ネパール
マスタードオイルを多用する。アチャールや炒め物に使ったり。ネパールのマスタードオイルは、「トリコテール」というが、ネパール独自の焙煎したマスタードシードから圧搾して作る「ブテコトリコテール」というオイルがある。

アジア

中国では、周の時代 (紀元前 1046 ~ 256 年) に、マスタードシードを粉砕してペーストにしていた記録がある。

食用以外の使い方として、お寺の中の祭壇で火を燃やして祈祷をする「護摩」の際にマスタードの種を燃やしていた。
それが中国に渡り、現在の日本でも真言宗や天台宗の護摩祈祷の際には、マスタードを使っている。ちなみに護摩祈祷に使うマスタードは、白芥子と決まっている。

【まとめ】
スパイスの歴史といえば、アジア原産で、ヨーロッパからそれを求めて大航海時代に…という歴史が多いが、マスタードは逆。
ヨーロッパやアジアで簡単に栽培できて、値段・価値が低いため広く普及している。そして、ツンとくる辛さには神秘性があり、宗教をこえて、今でもいろんな場面で使われるアイテムでもある。ちょっと変わったスパイス。


経済学

\経済回は音声でも聴けます/

ここでのマスタードはブラック、ブラウン、イエロー、オリエンタルを含むマスタードシードを対象としています。

マスタード上位生産国(2020年データ)

1位 ネパール 39.61%
2位 ロシア19.06%
3位 カナダ 18.28%
4位 ミャンマー 7.14%
5位 アメリカ 6.86%
6位 中国 3.41%
7位 ウクライナ 2.60%
8位 カザフスタン1.99%
9位 エチオピア 0.49%
10位 セルビア 0.45%

マスタード上位輸出国(過去5年の総合データ)

1位 カナダ 33.7%
2位 ロシア 13.48%
3位 インド 10.72%
4位 ドイツ 8.08%
5位 ポーランド 5.63%
6位 ウクライナ 4.56%
7位 アメリカ 3.87%
8位 チェコ 3.32%
9位 オランダ 3.31%
10位 ウルグアイ 2.67%

マスタード上位輸入国(過去5年の総合データ)

1位 アメリカ 19.23%
2位 ドイツ 17.42%
3位 フランス 15.97%
4位 ネパール 7.50%
5位 ポーランド 5.48%
6位 オランダ 4.35%
7位 カナダ 1.84%
8位 ルーマニア 1.52%
9位 日本 1.50%
10位 ハンガリー 1.26%

【考察】

・マスタードシードの生産はネパールが1位だが、輸出ではベスト10に入っていない。むしろインドからネパールに輸入までされている。たしかにマスタードオイルが通常の油に匹敵するくらいの使用頻度の国ではあるものの、バングラ、ベンガルほどではないはず。そんなにネパールって国内消費が高いの?って感じ…謎です。

・インドは2022年11月に遺伝子組み換えマスタードを承認。インドは、年間数百億ドルを費やす世界最大の食用油輸入国であり、需要の70%以上をアルゼンチン、ブラジル、インドネシア、マレーシア、ロシア、ウクライナから得ている。つまり、マスタードオイルで国内需要を満たそうという考え。マーケットが揺れる可能性がある。


実験:マスタードをふんだんに使ったカレーは美味しいのか?

実験用カレーのレシピ (4人分)

マスタード(パウダー) --- 大さじ1
マスタード(ホール)--- 小さじ1
コリアンダー --- 大さじ1
ターメリック --- 小さじ0.5
チリ --- 小さじ0.5

鶏肉(モモ) --- 300g
玉ねぎ --- 1個(300g)
生姜すりおろし --- 小さじ1
ニンニクすりおろし --- 小さじ1
トマトピューレ(6倍濃縮) --- 大さじ1

【 食べた感想 】
・ツーン(香り)が強い。
・実験のスパイス量だと、香りの良さよりも苦味が強かった。
・入れすぎたらヨーグルトやキャベツで緩和させるのがよいかも。

実験結果まとめ

マスタードを入れすぎると苦くなる。
香りを楽しむには入れすぎ注意!


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カレーにまつわる事(食・歴史・カルチャー等)に対する気づきや疑問などを、楽しく研究して解決していく、という番組です。
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[出演者]
長男|南場四呂右
次男|福岡裕介
三男|竹中直己(タケナカリー)
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[制作]
ディレクター|ヨーコ・ビンダルー
編集・BGM制作|南場 四呂右
ジングル制作|老師
カバーアートデザイン|中屋 辰平
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[提供]
CHANCE THE CURRY

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