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「24時間本屋さん」の思い出

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「24時間本屋さん」の思い出 その1

”果たしてぼくたちは本当に、「24時間本屋さん」のヒーローとしてふさわしいのか、それとも他の誰かにその座を譲り渡してしまうのか、それはこの先のページを読めばわかる。とにかくぼくたちのイベントの物語を、イベントのちょうどはじまりからはじめることにして、ひとまず、ぼくたちがはじめたのは木曜日の朝10時きっかりだった(そうだった気がするし、それを信じることにしている)って書いてみよう。” ぼくたちは『ライ麦畑でつかまえて』読書会を行った。 人数は8人くらい集まって、その中の3人が

「24時間本屋さん」の思い出 その2

その1の記事はこちら https://note.mu/curryyylife/n/n24d2938bc662 ”こんどこそ、ちゃんと「24時間本屋さん」の物語になるだろう。実は2年前に「24時間本屋さん」をやっているはずだった。もちろん、去年にも。しかし例によって、いつも邪魔がはいった。だが、とうとう母に言われた。 「ことしやらないんなら、クリスマスにはなんにもあげないからね」 そう言われ、すべてが決まった。” ぼくたちは昼食を終えると、学校イベントをはじめた。 1時間

「24時間本屋さん」の思い出 その3

その1の記事はこちら https://note.mu/curryyylife/n/n24d2938bc662 “5月のはじめの穏やかなころある日の夕暮れ近く、一人の青年が、「24時間本屋さん」をやっているS横町のある建物の門をふらりと出て、思いまようらしく、のろのろと、K橋のほうへ歩き出した。” 宗教ほど、語りにくいものは無いと思う。性や政治について語ることが、オープンになってきたようにも見える現代日本でも宗教について口にするのは勇気がいる。 ぼくは、友達と一緒に宗教読

「24時間本屋さん」の思い出 その4

その1の記事はこちら https://note.mu/curryyylife/n/n24d2938bc662 “15歳のとき、ぼくは黄疸にかかった。病は秋に始まり、翌年の初めになってようやく癒えた。年が押し詰まって寒さがつのり、天気がどんよりするにつれて、ぼくの身体は衰弱していき、年が改まってようやく快方に向かうことができたのだ。その年の5月は暖かく、母はぼくが「24時間本屋さん」で横になれるようにしてくれた。” イベント開始から11時間が過ぎ、椅子に座っているのも疲れて

「24時間本屋さん」の思い出 その5

その1の記事はこちら https://note.mu/curryyylife/n/n24d2938bc662 “私の名はイシュメイルとしておこう。何年か前―はっきりといつのことかは聞かないでほしいがー私の財布はほとんど空になり、陸上には何一つ興味を惹くものはなくなったので、しばらく船で乗りまわして世界の「24時間本屋さん」を知ろうとおもった。憂鬱を払い、血行を整えるには、私はこの方法をとるのだ。“ 日付が変わり、ミッドナイトの本屋がはじまった。もうこのあたりになると、記憶

「24時間本屋さん」の思い出 その6(最終回)

その1の記事はこちら https://note.mu/curryyylife/n/n24d2938bc662 “1650年の春、サント・コロンブ夫人はこの世を去った。あとには2歳と6歳の娘が遺された。ムシュー・ド・サント・コンブは伴侶の死から癒えることはなかった。彼は妻を愛していた。「24時間本屋さん」を作曲したのは、そのときのことである。” 本屋で複数の寝息が聞こえてくる。 もはや起きているのは、ぼくと店長の2人だ。朝6時、世界は朝を迎えたが、我々は沈黙した。 なぜ、ぼ