【小説】 うちのにゃんこ

 爆弾を抱えながら生きている。
それはガス爆弾で、たまにガス漏れを起こす。
せめて時限爆弾だったらよかったのに、それは突然なんの前触れもなくやって来たりする。
ちょっと疲れがたまってきたり、ちょっと元気に動き回ったり、ちょっとひとからなにか言われたり、なにか話したり。
何てことない日常が、爆弾の小さなバルブを緩める。
小さなガス漏れを起こしているとき、ほんのすこしの頑張るが、とどめをさしてくる。
小さなガス漏れ程度なら、普通を装う事ができる。
できるから、してしまう。
ガス漏れ状態で普通をすることが、頑張るになる。
周りからはわからない。
自分にしかわからない。
人生で感じることのないものに襲われる。
そとから見えないまま、襲われる。

 内側では、ただただおとなしくする。
おとなしくしてても、薬を飲んでも、薬を足しても、頑張るをしなくても、どんどんガスが充満して、ガスがわたしをどんどん追い詰めることもある。
苦しい、辛い、怖い、悲しい、寂しいの、どれでもない、言葉にできないものに襲われる。

 薬が効かないときは、薬も医者も誰も、わたしをここから救ってくれない。
もう、わかってる。

 ベッドの上に横になる。
無造作にたごまった布団を手探りに被せ、ただじっとする。
こういうとき、無性にトイレにいきたくなるのがまた辛い。

 ふと、にゃんこが近づいてくる気配がした。
目を開けているのもしんどくて、薄目を開けて彼の両足を確認する。
足音なんてほとんどしなくて、本当に天使が降りてきたようだ。

 バランス悪く掛かっていた布団の重みがすっとなくなり、ふわふわに包まれる。
天使の羽に包み込まれたのだと思った。
丸まったわたしの、頭の先から足の先までふんわり包まれ、その薄さは部屋の明かりを内側に透す。
そこに影が落ちる。
上から覆い被さるように、まるでわたしを守るように、にゃんこがわたしを包み込む。
軽く重みがあって、暫くするとじんわり彼の温もりが染みてくる。

 薬が少し効き出す感じがした。


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