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現代に生きる木挽き職人の技

             (葛飾北斎『富嶽三十六景』の「遠江山中」)

 東京・銀座に木挽町という町があります。東銀座の歌舞伎座から京橋にかけてのあたりで、江戸城築城のおり、木挽き職人が多く住んでいたことからそう名付けられたといいます。職人の技能の凄さを物語る一つが木挽き職人の技です。
 
日本の住宅建築・土木資材として、木材はなくてはならない基本的な素材です。温暖で湿度が高く、照葉樹林が覆っている日本ですが、建材として使われる針葉樹もまた豊富にあります。しかし、どんなに素晴らしい木材でも、そのまま使うことはできません。
 
 いまでは、製材所で電動の製材機を使って、お望みの板厚にあっという間に切り分けてくれますが、電動製材機が使われるまでは、手作業でノコギリを引かざるを得ません。
 細い物であれば素人でも削れますが、直径が1メートルを超えるような素材になると、材木として均一の厚さでまっすぐ切り分けるのは至難の業です。
 その至難の業を専門に行うのが木挽き職人です。
 
 古い寺などの大きな建物になると、幅2尺×長さ30尺×厚さ1寸などという巨大な1枚板が使われていたりしますが、1本の丸太から、大鋸(オガ)一本で切り出していく作業は、まさに高度な技術が求められる職人技です。オガで木材を切り出す際に出てくるくずをオガクズと呼びました。
 
 30尺などという長さの板を、板厚も狂わさず、曲げずに均一に切り出すには、それなりの技能と、なによりも根気が求められます。気持ちが動けば鋸先も曲がります。倦まずたゆまずに、日がな一日、同じ気持ちで、のこを引き続け、1枚の板を正確に切り出す胆力は鍛えられたプロのものです。幅の広い大鋸は、刃先が曲がらないための工夫から生まれた形です。
 
 チェーンソーや製材機が導入されて、木挽き職人の出番はないと思われがちですが、いまや、数えるほどですが、まだ現役で活躍されている木挽き職人がいらっしゃいます。
 
 ノコギリは刃先がノコギリの板厚よりも左右に出ていて、切り進む際に、ノコギリの歯先以外の部分が木肌に触れて擦れるのを避けるようになっています。この歯先の左右幅をあさりと言います。あさり幅は漢字で書くと「歯幅」と書きます。厚板を薄く切って何枚かを切り出す際に、1枚切り出すごとにアサリ幅だけ板の厚さが減っていくことになります。

 高価な銘木など、天井板に使う厚さ2分3厘(約7ミリ)の板を切り出す場合、ノコギリならアサリ幅は1分5寸(4.5ミリ)で切れますが、チェーンソーだとどんなに少なく見ても7-8ミリは必要で、何枚か切り出すと、鋸で挽けば1枚多く切りだせるため、需用があるのです。機械では実現しない人間技がまだ幅を利かせているのです。

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