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旬杯リレー小説B結の後日譚1

コンサートのあと

武道館で彼女の素晴らしいコンサートを観た。
1曲1曲に彼女の凄さが込められていた。
途中で5年前あの街で作った「夏に駆けろ」が出てきたので自然と涙がこぼれた。

終演後僕は差し入れの男山という地元のお酒と連絡先と俳句書いた紙を花束に忍ばせて係の人に渡した。
他にも大勢の観客が花束や差し入れを渡していたので埋もれて気づかれないかもしれない。
というかマネージャーが全部チェックして個人情報を書いた紙は処分するのかも。
「会えるかも」という淡い期待は実ることなく誘導員に従って渋々武道館を出た。
後ろ髪を引かれる思いで地下鉄に乗りホテルまで帰った。
その夜は色々な事を考えて中々眠れなかった。
5年前のあの日あの時、海辺へ行かなければ彼女と会うこともなかったのだ。
一風変わった、少年のような感じのあるかわいらしいお姉さん。
あの夏僕はあざみさんを案内して町を巡り、彼女の不思議な楽しい話に耳を傾けた。
でも二十歳そこそこの女性が家を出て歌を作りながら旅をするっていうのはとても大変なことだ。
きっと何か大きなものを抱えていたに違いない。
でもその当時の僕にはそれを察することができなかった。
恋をしてることに気づかないほど幼かったのだから。
そんなことを考えながらウトウトしてると夢を見た。
あざみさんはなぜか浴衣を着て防波堤の上を歩いている。
あの灯台の下まで。
そうだ、彼女のアルバムのジャケットには、あの日描いた灯台と金の海が載っていたっけ。
彼女はふとこちらを振り向くとにっこり笑った。
そして何か言ったようだけどよく聞こえなかった。
僕は彼女の声を聞こうとして近付こうとするけどなぜかずっと離れたまま辿り着くことができない。
もしかしたらずっと彼女に会うことはできないかもしれない。
そう思うと胸がぎゅっと締め付けられるような気がした。


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