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君に届け 番外編 龍と千鶴 春の恋バナ祭り



 K大学在学中野球部の4番でキャッチャーでキャプテンを務めた真田龍は大学野球でMVPを獲り、その年のプロ野球のドラフト指名で4球団からオファーがかかった。
しかし龍はその誘いを蹴りメジャーのスカウトから誘いに乗ってアメリカへ渡ってメジャーリーグに挑戦することを決意する。
といっても最初はマイナーリーグのトリプルスリーでプレーして好成績を収めたらメジャーリーグに挑戦する権利が与えられるというものだった。年俸も日本のプロ野球よりも低い。
龍はアメリカへ渡る決意をした夜、幼なじみで恋人である吉田千鶴にそのことを伝えた。
「千鶴。オレアメリカへ渡ってメジャーリーガーになるって夢を叶えたいんだ」
「え~何でだよ龍。大学卒業したらずっとこの街で一緒に暮らすって約束したじゃん。せっかくおっちゃんと龍が大学卒業するで徹龍軒守ってきたのにさ」
徹龍軒とは龍の父親が経営しているラーメンショップである。高校を卒業後千鶴は地元の大学に通いながらずっとここで看板娘を務めてきた。
「…ん。千鶴には感謝してる。だけどオレ決めたんだ。今しか出来ないし」
「もう~何でそんなに頑固なんだよ~。どうせなら日ハム受ければいいじゃん。うちからギリギリ通える距離だしさあ」
「ごめん。選手に球団の選択権はないんだ。それにメジャーリーガーになれるチャンスなんてそう多くないと思う。まずはマイナーで頑張りたい。千鶴にはオレが夢を叶えるまで日本で待っていて欲しい」
「ふん、やなこった。4年も散々待ったのにまた待つなんてごめんだね」
「…そうか」
その夜はそのままケンカ別れとなった。

千鶴、あやね、風早、爽子、龍


 むしゃくしゃした千鶴は久しぶりに高校時代の親友、矢野あやねと黒沼爽子にLINEで連絡を取るとタイミングよく繋がったのでZoomで悩みを聞いて貰うことにした。

「ち~す。久しぶり~。爽子とやのちん」
「久しぶりですちづちゃん」
「ちづ、その様子は何かあったのね」
「そうなんだよ~。聞いてよ二人共。龍が野球しにアメリカ行くって言って聞かないんだよ~。せっかく大学卒業したら一緒に暮らせると思ったのにさ~」
「あらそう。ちづ、あんた龍と結婚したいんでしょ?だったら龍の夢応援しなきゃ」
「え~ん💦やのちんまでそんなこと言うのかよ~。だったら徹龍軒はどうすんのさ~?」
「まあ龍の親父さんが頑張れる内だよね~。龍の兄貴は継ぐ気ないんでしょ?」
「あ~徹は遠くで仕事してっからさ~。てかおっちゃんにあたしが継ぐって言っちゃたのよ」
「そっか~色々大変だねちづちゃん。真田くんの夢の応援もしたいしね」
高校1年の頃から4番を張る龍は先輩からのプレッシャーもあってか人一倍練習する姿を4人(風早を入れて)で見てきた。なのでみんな応援したい気持ちはいっぱいある。
爽子も夜ジョギングする龍とよくすれ違ったものだ。
風早との関係で悩んでいた爽子は龍に話を聞いて貰ったこともある。
3年の夏、龍がキャプテンを務める北幌高校は快進撃を見せ北北海道大会ベスト4まで勝ち進んだが準決勝で惜しくも破れてしまった。千鶴を甲子園に連れて行くと日頃語っていた龍は夢が断たれ男泣きに泣いたのだった。
「あ、爽子は今度念願の小学校の先生になるんでしょ?」
「うん、今初任者研修で市内の小学校に通ってるけど覚えることいっぱいで大変だよ~」
「そっか。頑張ってんな。風早と離れて寂しくない?」
「うんありがとう。たしかに風早くんと離れて寂しいけど時々電話くれるし月に一度は風早くんのアパートに行くことにしてるから。…それに風早くんが頑張ってるって思うと私も負けずに頑張ろうって思うんだ」
「いいね~。通い妻だね~」
「か、通い妻?」
「ま、爽子と風早は色々あったから最早熟年カップルみたいなもんだよな~」
「じゅ、熟年カップル!?」
「ちづ、龍はあんた一筋だから向こうでパツキンの女作ったりしないだろうけど、そんなに不安ならあんたも向こうへ行けばいいじゃん」
「ええ~!やのちん本気で言っての~!」
「だって最初はマイナー契約なんでしょ。結果出なきゃすぐ帰ってくるかもしれないし、まずは1年ぐらい向こうで頑張ってみれば?」
「仕事はどうすんのさ?」
「色々あんだろ?向こうには日本人街もあるだろうし」
「だって…だって…アタシ…3年間ずっと英語赤点だったんだよ~💦」
「あははは。な~んだあんたそんなこと気にしてたの。英語ぐらいなんとかなるって」
「そうかな~」
「あの…ちづちゃん…もし私でよければ英会話教えるよ」
「お~優しいな~爽子は。あたし爽子を嫁にする~」
「…あ、ごめんちづちゃん。私には心に決めた人がいるので…」
「わ~ってるって」
「あはは。ちづ爽子にフラれてやんの~」
「やのちんてば…」


 翌日の夜

 ジョギングから帰ってきた龍にタオルを渡す千鶴。
あれから一言も口を聞いてなかった。
「龍……あのさ。昨日は反対して悪かったよ……あたし…決めたんだ。龍と一緒にアメリカ行くって」
「ん…そうか。ありがとな…千鶴」
「英語は爽子が教えてくれるって言うし」
「ああ、黒沢か」
「黒沼だってば。それにあたしけっこうコミニケーション、あれ?違った、コミュニケーション能力あるからって…え?」
千鶴に急接近する龍。
「多分大丈…」
千鶴がすべてを言い終わらない内に強引にキスする龍。
(……ん、たっく龍め。強引なんだから~)

「……千鶴」
「な、なんだよ」
「オレと結婚……な」
「お、おお。分かったよ龍」
真っ赤になった千鶴を龍が優しく抱き締めた。


空には春の三日月が輝いていた。

※君に届けのパロディです




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