見出し画像

バンカラ女子②~君のいた季節 創作タイム

 私は冬休み中あざみ先輩が応援団の練習や筋トレで登校したら一緒に学校に行って帰ってくるのを待つようになった。
図書室で勉強してから昇降口で先輩が帰ってくるのを待つ。
待ってる間もなぜか楽しい。
そして色んな話をしてからバイクで家まで送って貰うようになった。
まだ付き合ってないけどそれだけでうれしかった。
私はお礼に時々お弁当を作ってあげることにした。先輩ロクなものを食べてないようだから。

「よっ、みさきちゃん。待っててくれたんだ」
そう言って片手を上げるあざみさん。
「あれ?先輩今日は学ランじゃないんですか?」
いつもボロボロの学ランで来る先輩が今日は女子の制服を着ている。まるで普通の女の子だ。
「さすがにさぁ。臭いからクリーニングに出したよ」
「え?いいんですか?先輩たちから受け継いだ伝統なのに…」
「いいのいいの。だって恥ずいもん。臭いと」
先輩は相変わらず面白いしかっこいい。
「ふふっ、面白いですね先輩」
「あぁもう先輩って言うのはやめていいよ」
「え~!じゃあなんて言えばいいんですか?」
「う~ん、あざみだからあざみょんでいいよ」
「ふふふ、あざみょんちゃん!」
「あ、笑ったな~。やっぱ今のはなし」
そう言ってあざみさんは私の頭をコツンと叩いた。
何だかとてもうれしい。
「あ、そうだ。弁当おいしかったよ。ごめんね~気を使わせちゃって」
「いえいえ~。食べて貰ってよかったです」
「ところで冬休み…どこか行きますか?」
「う~んそうだね。初日の出見に行こうか?海へ」
「いいですね。それに初詣も」
「うんうん、雪降らなきゃいいね~。バイク乗れなくなるから」
「そうですね。あの~先輩」
「ん?」
「手、繋いでもいいですか?」
「いいよ~。ほれ」
そう言って差し出された先輩の手をそっと握った。
こうして手を繋ぐとなんだか恋人になったようでうれしい。
でもふと気づいた。
「先輩、手荒れてますね」
「うん、ラーメン屋でバイトしてるからね~。やっぱ洗い物するから」
「だめですよ先輩、女の子なんだから」
そう言って私はスクールバッグからハンドクリームを取り出すと先輩の手のひらに入念に塗った。
「ありがと。あたしガサツだからさ~。ハンドクリームなんて塗ったことないや」
「先輩ちゃんとすればきれいなんですから」
「みさきちゃんは女子力高いよね」
「そうですか~?今度お化粧の仕方教えますよ」
「え?いいの。あたし百均で買った日焼け止めしか使ったことないや」
「駄目ですよそれじゃ。そうだ!今からドラッグストア行きません?」
「お、いいね~。行く行く」

 それから私は先輩のバイクに乗せられて近くにあるドラッグストアに行った。
店に入ってふたりで化粧品を色々眺めていると化粧品担当の店員さんに声をかけらたのであざみさんにお化粧して貰うことになった。
ファンデーションを付けてマスカラとアイシャドウを塗った先輩ははっとするほどきれいだった。
「先輩とてもきれいですよ」
鏡を見ながら先輩は言った。
「う~んなんかあたしじゃないみたいだね。でも気に入った。今度バイトの金入ったら色々買ってみるわ。ありがとうみさきちゃん」
「どういたしまして。ところで…」
「ん?」
「ちょっと気になったんですけどあざみさんの髪の毛けっこう痛んでません?」
「ああこれ?なんか面倒臭くてさ。ストーブで乾かしたらこうなった」
あざみさんの髪の毛を手に取って櫛で解かしてあげる。せっかく長くてきれいな黒髪なのに。
「駄目ですよ。ちゃんとドライヤーで乾かさなきゃ」
「うん、そうする~」
そう言ってあざみさんは私の頭を優しく撫でてくれた。
なんだかとても幸せな気持ちになった。

 それから私たちは店の外へ出て自販機でホットレモンを買うとベンチに座って一緒に飲んだ。

空には一番星が光り出している。

 私はポッケからスマホを出して「一緒に聴きましょ」と言ってあいみょんのマリーゴールドを流した。
ひとつのイヤホンをふたりで分けて。
ずっと一緒に聴きたいと思ってた曲。
「あぁあいみょんね。あたしそんな似てないって。むしろ小松菜奈?でもこの曲は好き」
「私も大好きですあざみさん」


「……ねぇあたしたちさ。ちゃんと付き合うことにしよっか?」
「え、いいんですか?」
「うん、あたしもみさきちゃんのこと好きだし」
「うれしい」
幸せで胸がいっぱいになる。

このまま時が止まればいいのにってそっと願った。

永遠を願うのは、怖かったから。

こんなにそばにいたいと思っていたのに、きっと叶わないことをどこかで知っていた。

来年、卒業しちゃうんだよな。
あと3ヶ月しかない。
そう思ったら急に寂しさが込み上げてきた。
私はあざみさんの手をぎゅっと握った。

【続く】



この記事が参加している募集

#忘れられない恋物語

9,041件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?