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コーヒーと、親の老いと

実家では毎日、父がコーヒーを淹れる。
帰省する時のお土産は、いつもコーヒー豆。

来週に帰省するため、父に、コーヒーの銘柄の希望を聞くと、
「モカがいいかな。豆は挽いてもらって

いつもコーヒーを淹れる直前に必要な分だけ、豆を挽いていた父。
ミルで挽くのがしんどいのだろう。
コーヒーが好きな父も老いには勝てないのか…。
少し切ない。

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物心ついた頃、家にはサイフォンと電動のコーヒーミルがあった。
熱せられて水が上がっていき、箸で上からかき混ぜ、アルコールランプを外すとコーヒーが降りてくる。見ていて飽きなかった。

小学生の頃、父の仕事が忙しくなり、サイフォン式からドリップ式に変わった。
私が電動コーヒーミルで豆を挽き、フィルターをセットすると、父が喜んでくれた。

中学生の頃、母と父が交互に店へ立つようになり、コーヒーメーカーが登場した。
私のカフェオレの分だけ豆の量が増え、
そして土曜日は、私がコーヒーを淹れた。
店にコーヒーを運ぶと、父が喜んでくれた。

大学になり、家を出た。
自分だけにコーヒーを淹れるのが好きではない。
もっぱらミスドで、本のページをめくりながら、コーヒーをおかわりした。

コーヒーは、相手のことを想いながら美味しく淹れたいし、できれば私のためにコーヒーを淹れて欲しい。
プロポーズの言葉が「毎朝、君のために美味しいコーヒーを淹れたい」だったら、即OKだ。
他は目を瞑る。

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翌週、挽いたモカともに、100gだけ、キリマンジャロを豆のまま持ち帰った。
今日は、私が豆を挽いてコーヒーを淹れよう。

帰省すると、一人暮らし用の冷蔵庫が廊下に立っていた。台所の大きい冷蔵庫は健在だ。

なぜ廊下に冷蔵庫…。
不思議に想いながら扉を開けた。
中には、ビール、カルピス、炭酸水…
そして、挽いたコーヒーを入れた密閉ガラス瓶が数個。

父の好きなもの専用の冷蔵庫か…。
父は、妥協なんてしてないし、老いてもいない。
楽しめてるなら何よりだ。

ま、今日は私が挽いたコーヒーを飲んでよ。
心を込めて挽くから。

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