フェアリーズ「HERO」

2011年、僕が高校1年生の時にでた曲には今でも忘れられない曲がいくつかあって、以前紹介した東京女子流のLiarと、もう一曲フェアリーズの「Hero」という曲がある。これは2011年12月にリリースされた。More kissでデビューしたフェアリーズが、2枚目に出したシングルであった。フェアリーズのデビューは華々しく、日テレの番組で名前を公募し、デビュー前の厳しいレッスンの様子がドキュメンタリー放送されるなど相当注目されていた記憶がある。デビュー前にラゾーナ川崎で行われたフリーライブでは3000人もの観客が詰めかけたという。ラゾーナはアイドルがよくCDのリリースイベントを行う場所でおなじみだが、そこに3000人も入ったのなら相当盛況だったんだろうと思う。もっとも、会場自体が開放系であるため、3000人という数字が本当にフェアリーズを見に来た人たちだけなのかはわからないが。

当時のこの記事にも書いてあるように、同じ事務所の先輩である安室奈美恵やSPEEDといった若いながらもアーティスト志向で大成功した彼らと同じ路線で、彼らの2010年代バージョンとなるような活躍を期待されていたのだろう。全国からレベルの高いメンバーが集められ、地上波では試練の合宿の様子も放送されたのもそれだけかかる期待、飛躍の未来の大きさ故にであろう。そんな猛プッシュと注目のなか、9月にMore kissとともにデビューし、3カ月後の12月にこのHeroがリリースされたという流れであった。Heroリリース時の勢いはデビュー当時程で強くはなかったにせよ、グループとしては同年末のレコード大賞の新人賞にもノミネートされていたし、これからどんどん大きくなっていくという期待の熱はまだまだ残っていた。クリスマス近くに何かの用事で渋谷に行ったとき、ハチ公口前の大型ビジョンでMVが流れていたのも思い出す。More kissの勢いに押されるまま、Heroがリリースされた、といったところだろうか。それだけMore kissのインパクトは大きかったので、比較するとHeroの人気、知名度が劣る部分はどうしても否めなかった。この年のレコード大賞では結局最優秀新人賞を受賞したのだが、この時のパフォーマンスも当たり前のようにMore kissであった。しかし個人的には、この陰に隠れがちな名曲、Heroを推したい。好きが高じて、More kissではなくHeroがデビュー曲でもよかったとさえ思ってしまうのだが、これは傾倒しすぎなのだろうか。

まず冒頭、レコードの針が落ちる音からこの曲は始まる。楽曲についての情報があまりに不足しているので何の楽器を使っているのか、耳だけではわからないが、メロディーに合わせて裏打ちしている音がまた心地よい。パーカッションでもないのだろうが、吹奏楽をやっていた身としては聴きなれない音での裏拍が新鮮さをもって聞こえてくる。つい足でリズムを取りたくなるようなダンスミュージックである。何よりMVをみても自信にあふれた曲であった。同い年くらいの女の子たちが不安などまるでないといった感じでキレキレのダンスを踊り歌う様子が、我々にも伝染し、自信をつけさせてくれるような、と言ったほうが正しいか。

誰もがみんな名もなきSUPER STAR
羽ばたけ BOYS&GIRLS
Let me go, Flow like a Hero

この歌詞なんかはまさそういった部分を象徴している。弱気な、投げ出しがちな自分との決別をこの曲で果たそう、という応援歌にさえ聞こえてくる。

この当時の音楽シーンとしては、女性韓流アイドルがブームでもあった。もちろんフェアリーズの曲は韓流とは違うテイストではあるのだが、そんな中で、英語をちりばめた歌詞を統率されたダンスとともに歌うさまは、どこか当時の潮流と親和性も良かったように思える。

その、歌詞にしばしば挟まれる英語も、メンバーの発音が必ずしも完璧でないところがまた自然な感じを受けて良い。例えば、LとRの発音の違いや、Sを吸うように発音するなど、どうしても日本人が発音で躓きがちな部分である。彼女らくらいの若さであまりに完璧に仕上げられても、同じ日本人としての親近感をあまり感じられなかったかもしれない。特にフェアリーズは、曲もさることながらダンスでも若さを感じさせないくらい洗練されたパフォーマンスを見せていたため、アイドルがみせがちな不器用さがなかった。もちろんそれはすごいことなのだが、英語の歌詞のところでは少し不完全な発音というのは、愛嬌というか、親近感はわいてくる。発音に際しては指導なり入った上でのことかもしれないが。これがあったほうがいいのかないほうがいいのかは観る人しだいだとは思うが。


当時は音楽アプリのサブスクがまだ一般的ではなかった頃で、手軽に音楽を楽しめる環境が今より少なかった。貧乏な高校生時分ではシングル曲のCDを買うお金も惜しかったため、Youtubeの公式チャンネルからアップされるMVをひたすら待っていた。More kissはデビュー当時にもうフルバージョンがアップされていたのだが、Heroのほうはどういうわけかアップされておらず、まだかまだかと待つ気持ちは結局CDリリースの1年後まで引き延ばされた(MVの公開は2012年11月)。思い返すと、しかし、どうも1年以上待っていたような気もする。別に毎日毎日チェックしていたわけではないが、たまに検索しては、やっぱりないか…と残念がっていた期間は1年では短すぎるような気がしていたのだ。この感覚のずれは、首を長くして待っていた分実際の時間より長く感じたのか、まだ高校生と若かったため、1日1日が新鮮で長く感じていたためなのか、いずれにせよ感覚の問題なのでよくわからない。

そんなフェアリーズ、メンバーの脱退もありながらこれまで9年間にわたって活動を続けてきたが、今年の6月に3人が脱退し、ついに事実上活動休止となっている。2018年にリリースされた2ndアルバムの「JUKEBOX」は、1stアルバムとは異なる、アーティストとしての色がより濃くでた良いアルバムであったし、アルバムをひっさげたツアーもダンス・ボーカルの洗練され具合は素晴らしかった。なにせ10年間近く、大きな活動休止もなくやってきたわけだから、経験値としては段違いだろう。これから大人なフェアリーズがみられる、これ以上の上積みがあるのかというくらい、パフォーマンスは相当高みに到達したのではないか、そんな予感をさせていたツアーであった。しかし、そのツアーが終わって1年半くらいで、あっという間の終幕となってしまった。結局ぼくはHeroも生で聴くことはできずに終わってしまった。Hero以降も、アイドルっぽい曲から、到底真似できないようなダンスミュージックまで、良い楽曲が多かったのでHeroはそこに埋もれてしまった感もあるが、僕の記憶のインパクトは大きかったし、楽曲として突出もしていたと思っていたので残念だ。

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