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「文芸部分を強化するコースでお間違いご座いませんでしょうか?」#シロクマ文芸部

文芸部分を強化するコースでお間違いご座いませんでしょうか?」
「はい、間違いありません。」
「承知いたしました。どうぞ、お座りになって下さい。」
「それでは、この後は、医師による患者様のご希望と、これからの診察の流れの確認なります。もうしばらくお待ちください。」と言いのこし看護師はカンファレン室を出ていった。

次に、医師が入って来て、これからの診察などの流れの確認を始めた。


「これよりカンファレンスを始めたと思います。よろしくお願いします。」
「患者様のご希望は、より自然な閃きひらめきをあたかも自分が綴り出した感覚と、決して人には知られないようにと言うご希望ですね。
コースで言えば、開頭により芸術を司る右脳に小指の先ほどのAIチップを埋め込む手術になります。患者様は、文芸部分をより強化するコースをご希望と言うことなので、改めて確認を進めていきますね。」
「文芸とは、言語によって表現される芸術の総称ですね。」

「はい、そうです。」

「患者様の手術による目的は、既存の文学作品を研究すること自体が目的の文学する力の強化ではなく、
あくまでも新しい文章表現を創造するという目的のために、わたくしどもの病院を選ばれ、手術を希望されたと言うことで間違いないでしょうか?」
 
「はい、間違いありません。」

「そして、患者様ご自身の目指すゴールは、自分自身が創造した表現手段を用いて、芸術作品の完成を目指すと言うことですね。」
 
「はい、そうです。」

「それからですね、芸術を司る脳は、右脳なのですが、文芸は、言葉によるものなのです。実は、言語を司る脳は左脳なんですよ。だから、AIチップを右脳と左脳の両方に埋め込むのが、一番効果が発揮されると思うんですが、そちらでよろしいですか。」

「はい、構いません。」

「あとは、開頭手術のあとは、頭蓋骨が陥没しやすくなりますので、
部分的にチタンのプレートで覆います。覆うと言っても、内側から覆うので、術後はちゃんと皮膚を戻しますので、外見は変わりません、安心して下さい。」「それから、開頭手術になりますので、万が一のこともあるかも知れませんので、今日は、ご家族様に同席していただきました。
奥様でよろしいですか。」

「はい、妻です。」

「初めまして、ご主人様の手術を担当させていただきます、渡辺と申します。当病院の院長でもあります。よろしくお願いいたします。
わたくし、開頭手術は、年間100ケースほど担当しております。
もちろん、ご主人様の様なケースだけではなくて、病に倒れた方や、事故に遭われた方の手術も合わせた数字となります。
ご主人様の手術も、細心の注意を払って行いますが、脳は人の臓器の中でも大変デリケートな部分なので、万が一の際には、こちらが責任を負いかねることをお伝えしなければなりません。
奥様、それでもご主人様は手術をなさると言うことでよろしいでしょうか?」

「はい、大丈夫です。全て主人の希望に合わせます。」

「失礼ですが、他の家族の皆様も同じご意見で間違いないでしょうか?」

「はい、間違いございません。」

「承知いたしました。それでは、こちらに奥様とご主人様のサインをお願いいたします。」


「わたしは、これで失礼しますが、この後、入院までの流れと、
全て保険適用外になりますので、診察代、治療代、入院費用などを必ず
ご確認してからお帰り下さい。
備えのための生命保険のオプションもあったかな?あっ、それは任意ですから、ご希望があれば後から来る者にお伝えて下さい。」

「いよいよ明日から入院ですね。手術は明後日に行います。
それでは、わたしは失礼します。」

医師は、挨拶をしてからカンファレン室を出て行った。



医師はカツカツと靴音を響かせながら、
白く長い廊下を歩く。
そして、いつもの様に思い返す。





この医療技術は、『脳に刺激を送ることで、動かない四肢が動くようになるのでは』と言う大学の研究が発展して行われてきた治療。

保険適用外ではあるが、より高度な医療をより高度な科学と結びつけて治験されてきた。

これらの治療は、先天的に障害を負った人や中途で障害を負った人の希望の光。
それと並行して、国が後押ししたのは、知識的著名人が、志半ばで研究を断念することがないように、長寿とは別の視点から、潜在能力を引き出すと言う概念に着目し始まったプロジェクト。

AIチップは外部とも繋がっており、潜在能力を引き出すこととプラスし、
より高度な発想や技術が、短時間で創造されることに期待してのことだった。
しかも、体内に埋め込むAIチップが、軽量化したことはもちろんだが、
側から見ても、あたかも本人の能力としか見えないところがまた良いと話題になった。ちなみに、X線を通すと金属なので、一目瞭然なのだが。

障害を負った方の治療としての研究が、一般の方に届く日も近いだろう。
もちろん、保険適用で診察できるように。

そして学問、芸術、思想を引き出す種となることも否定はしないが、
保険適用外のことなので、一部のお金持ちのみに使われることとなるのは否めない。
そして、平和のためだけに使われます様にと心を籠めて願う。

その反面、
すべての表現は、壁に頭を打ちつけても
『もう出ない』と嘆きながら
それでも血の汗を流すように思考する先に、
見出す光なのではないだろうかとも想っている。

医師自身が、医療をする上で、
相手の心に寄り添うことが、どんな治療よりも一番大切であることを
想い知らされた経験を積んできたせいだろう。

もがいて、苦しんで、悩んで、暗闇を彷徨う先に見る一筋の輝き。

医師は世の中の矛盾を思いながら、
今日も丁寧に仕事をこなしていく。





最後までお読みいただきありがとうございました。
こちらの作品は、
小牧幸助様のサイト
シロクマ文芸部の今週のお題に参加させていただきました。
素敵な企画、素敵な出会いをありがとうございます。


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