【金融工学】なぜ対数収益率が使われるのか
1.はじめに
金融工学では、金融資産(株式など)の収益率(return)という概念がよく扱われるが、その際、対数をとった収益率が用いられることも多い。
本記事では、収益率の対数をとるモチベーションについて直感的に解説する。
2.収益率と対数収益率[1]
時刻$${t}$$における金融資産$${S}$$の価格を$${S_t}$$とする。
このとき、時刻$${t}$$における収益率$${R_t}$$は、$${R_t=\frac{S_{t+1}-S_t}{S_t} }$$で与えられる。
また、時刻$${t}$$における対数収益率$${LR_t}$$は$${R_t=\log \frac{S_{t+1}}{S_t}=\log S_{t+1}-\log S_t}$$で与えられる。
ここで、収益率という素朴な定義がある一方で、なぜ対数収益率という概念が必要になるのか、その意味を考えよう。
前提として、金融工学では、利回り計算において連続複利($${e^{rt}}$$)を用いることが多い。そして、自然対数は連続複利で用いられる指数関数の逆関数であることから、収益率の自然な考え方と捉えられる。
また、絶対値が十分小さい$${x}$$であれば、近似的に$${\log x≈x-1}$$であるため、価格のジャンプがないときには、収益率$${R_t}$$と対数収益率$${LR_t}$$の差は小さい。
これらを踏まえたうえで、収益率$${R_t}$$の問題点について具体的に見てみよう。
ある株式の価格が表1の通り与えられたとする。
このとき、$${t=3}$$時点で、$${t=1}$$時点の価格に戻っているのにもかかわらず、収益率$${R_2}$$は$${-7.4}$$%となっていない。
一方で、対数収益率$${LR_2}$$は、価格が戻れば合計が$${0}$$%になっている。
要するに、収益率では価格の上昇や下落に対する対称性が成り立たないのに対し、対数収益率においては対称性が成り立つことから、我々の感覚にも合っている。
実際はもう少しテクニカルな話もあるのだが、直感的に言えば対数収益率が好まれる理由には上記のような事情があるのである。
参考文献
[1] 木島正明ほか, ファイナンス理論入門-金融工学へのプロローグ-, 朝倉書店(2013).
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