社会情勢と世論が反映される巨大な映画産業――イスラムが悪か? アメリカが悪か? ハリウッドが描いたムスリム

――表面化はしづらいものの、9・11以降、アメリカ人によるイスラム教徒への視線に変化はあっただろう。では、こうした中、社会情勢や世論が反映されやすい映画産業では、イスラム教、そしてムスリムはどのように描かれてきたのだろうか?

新版 オサマ・ビンラディンの生涯と聖戦』(朝日選書)

「すべてのイスラム教徒のアメリカへの入国は禁止すべき──」。そんな政策を唱えて物議を醸した実業家・ドナルド・トランプが、共和党の大統領候補指名争いで注目を集めている。この発言はアメリカ国内でも非難の大合唱を浴びたが、それでも彼の支持率が高い数字で推移しているのは、ひそかに溜飲を下げているアメリカ国民が多く存在することの証しだろう。

 昨年11月13日に発生したパリの同時多発テロ以降、欧米とイスラムの対立はますます深刻さを増しているように見えるが、依然として世界情勢の鍵を握っているアメリカは、イスラムをどのように捉えてきたのだろうか? 本稿では、アメリカの代表文化であるハリウッド映画を中心に、イスラムがどのように描かれてきたのか検証してみたい。

「アメリカ映画において敵といえば、もっぱら旧ソ連や旧ナチス。そんな中でイスラムはどうかというと、世界にいる16億人のムスリムのうち、アメリカの同盟国もあれば、宗派対立や世俗化の違いもある。つまりは広がりがありすぎて、一面的に敵にはしにくいのではないでしょうか」

 そう話すのは、映画批評サイト『こんな映画は見ちゃいけない!』を運営する、映画ライターの福本ジロー氏だ。純然たる娯楽映画でイスラムを敵役にしているハリウッド映画は、実は決して多くはないのだが、そのひとつがジェームズ・キャメロン監督、アーノルド・シュワルツェネッガー主演の『トゥルーライズ』【1】だ。94年製作のこの映画には、アメリカの都市を核兵器で攻撃しようとするイスラム過激派のテロリストたちが登場する。だが、映画の流れは、家族に隠れてエージェント生活を送る主人公のドタバタコメディとド派手アクションのミックスが主軸。シュワルツェネッガーの圧倒的強さの前にコテンパンにやられるテロリストたちには哀れさすら漂う。この映画、続編を作る予定もあったが、2001年の9・11テロで立ち消えになったという。映画をはるかに凌駕したあの事件のあとでは、能天気にイスラム系テロリストを撃ちまくる映画を作るのも難しくなったということか。

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中東・イスラム 新文化論【2016年3月号第1特集】

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