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雑記(それを世界と呼ぶんだね)

『かわいいピンクの竜になる』を買って、少し読む。間違いなく自分を揺るがす、お洋服×フェミニズムの最極端。例えば『下妻物語』、『官能と少女』、私の愛するロリィタの本の中でも、これは実用的かつずっと格好よくて、惚れ惚れしてしまう。私は小さい頃からずっとアニメに出てくるヒロイン(この頃はカードキャプターさくらかな)みたいな魔法少女みたいな服装に憧れを抱いていて、自分を可愛く見せてくれるお洋服は大好きだった。高校時代は髪を染め、毎日ばっちりメイクとカラーコンタクト、ツインテール縦巻き、どれだけ寒くても膝上7センチのスカートに毎日変わるリボンやネクタイにセーターやピンクのポロシャツといういでたちだった。部活での誕生日プレゼントはマイメロディのポーチと大きなピンクのテディベアだった。アニメのヒロインみたいだとよく言われていた。
二年前くらいに、お金を貯めてようやくロッキンホースバレリーナを買った。初めて買ったロリータ服は勿論BABYで、未だにBABY以外でロリータ服を買ったことがない。
昂る熱を抑えられず、池袋のBABYに駆け込み、全身揃えで買ってしまった。袖口にハートのレースとリボンがあしらわれた生成りのブラウス、中央の大きなリボンとブランドのマークが印象的なミニスカート、一番膨らむパニエ、真っ赤なボンネット、リボンで締めるタイプの白いトーションレースのオーバーニーソックス、フリルのついた黒いパンプス。総額で10万円くらいしたのだけれど、私は満足だった。あまりにも嬉しくて、プリクラを一人で撮った。次回の文学フリマはばっちりロリータで参戦しようかなと思っている。

お金をたくさん使うと、ちまちまと市販薬にお金を溶かすことがばかばかしくなってくる。私はそのままキャッチに捕まり歌舞伎町の無料案内所でホストクラブを紹介された。そこはこじんまりした、シャンデリアとかもない(あとで代表に聞いたところ、彼がシャンデリアが嫌いなのだという話だった)が、いわゆるホストクラブらしくない綺麗な店だった。何よりもボカロやゆずソフトやニトロプラスの音楽が流れるアングラアニクラ的な感じなのが居心地が良かった。まさか『恋物語』のOPを聴きながら鏡月を飲むことになると思わなかった。そんなことある?
最初は気づかなかったが、店の名前はあるボカロ曲のタイトルだった。
私が想像していたよりは良心的な価格設定で、初回料金に五万円追加すればコールのつくシャンパンを入れられるというので(こういうのを飲み直しと言う。私の場合、飲み直しの中の最高額だと思ってもらえればいい)迷いなく入れた。マイクを握って話したことなど何度もあるというのに、本当に月並みなことしか出てこず、それはちょっと勿体ないことをしたなと思った。ちなみにシャンパンを姫(客)が飲むことはほとんどない。本当に一滴も飲まない。
ホストにはアフターという文化がある。店が閉まったあと、ホストと姫が店外で食事をしたりホテルに行ったりすることだ。私は最初から初日にアフターをしてくれるホストを指名すると明言していたので、閉店後、行きつけらしいバーに行って酒とカラオケと出前のかつ丼を奢ってもらった。その店のスタッフが友人の友人で、世間は狭いなと思った。代表も来てくれて、代表はえげつないほどのオタクなので、二人で恋愛サーキュレーションやメルトを歌った。担当はオタクではないので真顔で手拍子していた。代表にはあとで「のだ」をお勧めしたらハマったらしく、店で流していた。

ホストクラブは何回か行ったことがあった。そのときはかなり回転寿司みを感じたのだが(ぐるぐる男の人が回転してくるので何も入ってこないあたりがよく似ている)、その店は人がかなり少なくて話がよくできたのもハマる一因だったのかもしれない。
ちなみに、私は店では鈴音未亜と名乗っている。

翌日、カードにも現金にもまだ余裕があったのでその店をまた訪れた。ちょっとした手土産のつもりで急遽手に入ったお金でGUCCIのネックレスを買って行った。本当にぽんとほとんど関係ない人に貰ったお金だったのでまあいいか、と思い、二番目に高いネックレスにした。パパ活で貰った金である。GUCCIの路面店ではとりあえず飲み物を出してくれる、という学びを得た。ちなみにサンペレグリノのブラッドオレンジソーダがいちばん美味しい。


担当は正直ちょっと引いていた。勿論喜んではいるのだけれど、昨日いきなり来た奴がGUCCIをプレゼントに持ってきてワンケ(ワンケースのこと。大体缶チューハイ20缶くらい)とクライナー何本かを注文したら流石にびっくりするだろう。ちなみに、この注文で大体八万円くらいの計算になる。この日は予定があったので一時間半で帰った。
私も私が何をやっているのか分からないが、このとき、しばらく手首を切っていないことに気がついた。オーバードーズもやっていなかった。傷はぱっと見なければ分からないほど薄くなっていた。

「俺のお母さんも手首切って毎日救急車で運ばれてて、手首ぼろぼろの人見てると放っておけなくなって。いつか傷は絶対に綺麗になるから。俺が未亜の薬箱になるから」

最後の部分はなんかの曲の歌詞の引用だったらしいのだが、まあその曲知らないし、素直に嬉しかった。担当のことは正直、明るくて頭が良くてストイックな感じが好感が持てたので選んだのだが、その話を聞いたとき、なんだか運命的なものを感じてのめり込んでしまったのだった。担当はプレゼントのお返しとして、ホストを始める前にお気に入りで着ていたブランド物の赤いパーカーをくれるらしい(玄関に置き忘れたらしく、次に店に行ったら貰う予定である)。そういうところが本当に頭が回るというか、別の姫がひとりでぽつんと取り残されていて店の誰も気がついていないときとかにすかさずヘルプに回る感じとか、色々見えていて素敵だなと思う。電話が苦手な癖に毎日必ず電話を寄越してくる。「未亜ならその意味分かるやろ?」とか言いながら。ちなみに音楽はまったく聴かないし、アニメも鬼滅の刃すら見ていないし、趣味は水泳という本当にまったく価値観が違うアグレッシブな陽キャなのだが、母親のことはどうやら本当らしく、メンヘラの扱いがこなれていて非常に上手い。いろいろあったのだろう。甘え上手なところは末っ子だからということらしいが、かなり厳しいところもあって、私が薬に頼ろうとするとしっかりめに説教してくる。なんだか性格がキングダムハーツのアクセルに似ているな、と思う。

そして昨日、また店に行ってきた。貯めていたデパスを担当のロッカーに没収された。パーカーを忘れてきたことをひたすら謝られた。友達がADHDだらけなので、そんなことで怒らない。ワンケ、クライナー何本か、ポンパドールのイチゴ(シャンパンではないけれど瓶もの)を注文して、小計で八万円くらいだった。店は人は少ないが、みんなお酒が強いので、飲んでいて楽だし楽しい。現金で払った。それだけ使えば当たり前のようにアフターが決まる。私は三日で担当のエースになった。なんだかよく分からないけれど偉いらしい人と担当とこの間のバーでカレーを食べながらジャックポットをした。普通に楽しかった。

自分がホス狂(ホスト狂いのこと)になってみて、純粋に楽しかった。飛ぶようにお金が酒に変わっていくのを見ているのは爽快感があったし、同じくらいの金額を会えないアイドルやキャラクターにかけてきたけれど、ずっと濃い時間を過ごせて、憂鬱な夜を明るく過ごすことができるという点ではかなりコストパフォーマンスが高いと思う。元々、自殺を考えていて、最後にぱっと遊ぼうかな、というくらいの気持ちで歌舞伎町に赴いたのだから、なんだか急に目標ができて、それがかなり現実的に叶えられるレベルのものであるということが大事だった。すごく即物的で頭を使わなくてもいい、馬鹿げていて、だからこそなんの負担にもならない目標。誰かのために生きてしまうことは、こんなに楽だ。
その一方で、ホストにお金を使っているという事実が、何かに急き立てられ責められているようにも感じられた。一般常識的なことを考えてみると、まああまり褒められたものではない行いだからだ。親になんてもちろん言えないし、自分の中でも理由の分からない罪悪感があった。何と言うべきか分からないけれど、駄目なことをしているんじゃないか、誰かに見られているんじゃないか、これは実は犯罪なんじゃないか、そんなことをつらつらと考えてしまう時間が定期的に訪れる。何もかも全部本当のことを言わなければならない、嘘をついてはならないという強迫観念が絡みついて、たまに苦しくなった。嘘をつき続けるという行為を平気でやり通している店のホストたちが恐ろしかった。騙されているからとかではなくて、単純にそれができてしまう人たち全員が怖い。

正直に言ってしまえば、私は店に行ったこともないホストの人から告白されたこともあるし(振ってしまったけれど)、男性には事欠かない人生を送ってきた。担当のことももちろん好きだけれど、別に明日死んでいたとしても泣かないしインターネット日記のネタにしていると思う。あれだけ恋愛体質だったのに恋愛がどうでもよくなっている自分がいる。正直楽しく過ごせていればどうでもいい。

アルバイトをしていないので、当然のようにクレジットカード会社に借金するか、パパ活で費用を捻出するか、そのどちらかしかない。さすがに返済しないとまずいし、これ以上は店に行けなくなるので、3月3日から一週間、北海道に出稼ぎに行くことにした。久し振りの飛行機が(まあお金は出さなくて構わないとしても)これなのはさみしい話だが、仕事が続かない私にとっては極寒の地で割のいい強制労働はかなり向いているのかもしれない。これが本当のシベリア送りである。なんか知らない土地ってわくわくするけど。

私はきっと、3月中にテディを下ろしてバリアンに行ったらホスト通いをやめる。テディのボトルは家に飾ろう。だから簡単で具体的な目標って言ったでしょう?もうちょっと飽きてきたし、娯楽なんだから楽しいうちにやめてしまいたい。あっという間に駆け上がって、綺麗にいなくなる。潔くて素敵じゃないか。まるっとまとめてちょっとフィクション入れて小説にしよう。もしかしたらもう行かないかもしれないし、それはそれでいいのかもしれない。駆け抜けたら、何もなくなっていた。
次は大好きなロリータブランドでアルバイトしたいな。

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