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人間中心の起業家としてのデザイナー

 意味論的転回 デザインの新基礎理論 クラウス・クリッペンドルフ(The Semantic Tern A New Foundation for Design, Klaus Krippendorff)の第2章『人間中心のデザインの基本概念』のメモです。

人間中心のデザイン(Human-Centered Design)へのパラダイムシフト

 Human-Centered Designは、工業化の時代に主であった主観的、客観的、非論理的、論理的、人間的、機械的、創造的、非創造的といった2項対立から脱却し、"事物個々の、そして文化的な意味”を基本的な原理とする。事物の形態、構造、機能という物理的な特性に反応する機能主義から脱皮し、人々や人工物を含む交互に関連した概念のネットワークのデザインへのパラダイムシフトを目指す。

 イメージでは、以下の図(kindle version p29)の工業化の時代(右側)からポスト工業化の時代(左側)への変化だ。このデザインのシフトにおいて重要なのは、デザインの日々の生活への埋め込みだ。それは、図のhuman-centeted designから日々の生活のデザインへのリンクによって示されており、デザインに関わるステークホルダーによって、社会的構造物としてのディスコース(discourse)を通じて行われる。

 デザイン活動は、日々の生活に埋め込まれ、デザインの成果はそのシステムの要素となり、それらは切り離すことができない。デザインによって世界が作られ、その世界の選択は、そこでの心地よさの感覚、目的が達成できるかによる。つまりデザインには、実践的、使用可能なことが織り込まれているのだ。

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デザインは人間であることの一部をなす

 クリッペンドルフはデザインの中心は、「意味」であるという。今人間が感じる「感覚」は、主観的であり、その人にしか理解できない。"意味は、感知されたものと、起こっているように見えることの、知覚された差異を修復する”。”意味は、感覚によって引き起こされる”。”現在の感覚は、それが意味するもの、特に、その現象化において人ができることの換喩である”。

 意味は指向性を持ち、それが行動を促す。”意味は、単に、人間中心のデザインの中核を占めるだけではなく、デザイナーに新しい種類の「理由」づけを提供する”。 (kindle version p53)

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 人間中心のデザインは、エンドユーザーだけではなく、ステークホルダーのネットワークやコミュニティを対象に含める。それは、特定ユーザーのための技術的・道理的な問題解決活動から、多様なステークホルダーの間主観性を育む社会的なプロセスへと、デザイン概念をシフトする。(kindle version p62)

 ここでは、2次的理解が重要になる、個々人の主観的感覚である「1次的理解」は、他のステークホルダーには理解できない。それを理解しようとして、得られる洞察・仮説が「2次的理解」である。それらの解釈は、個々人のアイデンティティに基づく。それらを対話し、理解するための活動がデザインであり、それはつまり人間の活動の基本として位置づけられる。

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日本の企業にとっての示唆

 クリッペンドルフのいうhuman-centered designerは、サービス化した経済におけるイノベーター、起業家だ。起業家は、社会との共創によって、新規事業を創る。そのイノベーションは、人のために役に立つ価値提供が基礎にある。企業に新規事業開発の仕組み導入する際、その起業家は、基本的にHuman centered entrepreneurであることが見過ごされ、プロセスや仕組みのみに注視するとうまく行かない。

 一方、企業のイノベーションは、元来R&Dが中心に行う技術ドリブンであった。イノベーションというと、専門的知識+技術が中心だと考えていた。その技術開発の仕組だけでは、うまく事業化できないため、マーケティング、社会からのインプット、社会との共創の仕組みを企業は模索している。技術的なものを作るのみを目指すのではなく、企業内外に広がるシステムによって価値提供するためのサービスシステムのデザイン、サービスデザインと拡張することが重要だ。

 この変化は、彼のいうように、パラダイムシフトであろう。大きな変化と捉えることが必要で、その意識なしにその変容はなしえない。

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