見出し画像

放送室と、給食。

お昼時の放送室は週に1度、小学5年生3人だけのラジオブースになる。

各学年から寄せられたリクエストペーパーを読み上げて曲を流す。選ぶ基準は音源がすぐ見つかるかどうかだ。

曲を流している間、マイクはもちろんオフになる、その時を見計って同じクラスの誰かが給食を運んでくる。

ノックされたドアを開け、デリバリーされた食事を受け取る。
デリバリー係は「同じ班」の誰か。その光景は3人分繰り返される。その都度、給食の生温かい香りが冷たい機械室に混ざり込む。
なんてことのないその瞬間は「小学生の日常」とは違う特別な時間に思えて、ちょっとした特別な空気が「放送委員」の醍醐味だった。

放送室はいつでも少しひんやりとしていて、凛とした空気が漂っていた。
スイッチとツマミだらけの卓は「校舎の中でも特別な場所」だとでも言いたげな顔で僕らを出迎える。もちろん自分たちが「意味」のわかるスイッチなんて2.3個しかない。

そんな絶対に媚びない機械たちの前に座ることがかっこよかった。スイッチの英語も読めないのに、それだけでさっきやったばかりの嫌いなマット運動の苦々しい記憶も爽やかなスポーツの思い出に塗り変えられるくらいに。

それぞれなんとなく並んで座り、役割を決めながら曲を流したりちょっとしたトークをしたり、リクエストがある時は本の朗読までやった。

放送室は職員室と脆弱な壁で仕切られていて、神秘的な機械の秘密基地はドアひとつで現実とつながっている。
それでも先生たちがその聖域に入ってくることはほとんどなかった、間違えて卒業式の退場曲をかけた時以外は。

#コラム #エッセイ #思い出 #放送室 #給食  

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?