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コラム・エッセイ「特筆すべき点P」(無料)

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脈絡のない思いつきを長々と書いているシリーズです。
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2019年1月の記事一覧

そしてハンガーは落ち続ける

2018年6月のまんがくらぶに掲載したコラムに加筆修正を加えたものです。  ハンガーにコートを着せて壁にかけたら、ハンガー本体とハンガーのフックを接続していたネジがすっぽぬけてしまった。  コートは自由落下して座敷席の床にクシャッと着地した。どこか安い居酒屋の座敷席で起こった、事件にもならない出来事だ。  僕は落ちたコートを拾い上げ、何度か埃を払い、コートの中のハンガー本体を取り出した。このハンガーは木製で、フック部分だけが金属製になっている。フックの下部がネジになって

バンクシーを評価する人もしない人も「落書きを消すべき」と言える理由

東京都がバンクシーの「落書き」を評価した?「バンクシーが描いたかもしれない落書きが港区で発見されたそうです」 「バンクシーといえば、イギリスを中心に風刺的ストリートアートを描いて注目されている正体不明のアーティストだな」 「東京都知事の小池百合子さんがツーショット写真を撮っていますね。どうでもいいけど服の柄がすごい」 「この行動に対して苦言を呈している人が多いな。バンクシーという世界的アーティストだったら例外的に落書きという器物損壊を許すのは、公権力を持つ側の態度として

脳に電極挿したらダメなのか

2015年のブログ記事に加筆修正を施したものです。 ピクサー映画は面白い。面白すぎる。という話を聞いた。 作り方が特殊なのだそうだ。 まず複数人に脚本を何本も書かせ、それぞれの面白い部分を抽出して一つにまとめているらしい。構成もたくさんの人で練りに練って、最高のものを出す。一人のひらめきに頼らなくても、大人数で面白い話を確実に作れるシステムができているわけだ。 「そんなん客をくすぐってるのと同じじゃないですか。ズルい」 と僕はその話を聞いて冗談交じりに言った。 でも

【短編】ピッチ・ドロップ

「では、これから撮影の方を始めさせていただきます」  ディレクターはせわしなく動くスタッフたちを横目に据えながら、これまで何度も繰り返してきた言葉を述べた。 「映像はこちらで後に編集しますから、ゆっくり思いつくままにお話しいただければと思います。雑談をするつもりで」 「はいはい。雑談のつもりで、ね」  車椅子の老人は力なく繰り返し、それを見たディレクターは撮影のスタートを命じた。  老人の下に「岩永亮介さん(74)」というテロップが表示される。 「あの日からもう、週