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サンタなどいないと両親は言った

 久しぶり。うん、元気だよ。いや、いいよ。気を遣わなくて。もう立ち直ってきたから。いま暇? よかったら茶でもどう?


 いやあ、どこもかしこも人だらけだな。イルミネーションが眩しくて仕方ないよ。あと、コンビニの店員がサンタのコスプレさせられてるのってさ、なんか嫌じゃない? やらされてる感っていうか。



 ……へえ。高学年になるまで? 純粋だったんだなあ。

 俺はぜんぜんだったよ。むしろ両親がよく言うんだよね。「サンタクロースなんかいない。信じるな」って。はは。子ども相手にひどいだろ? そんなバカバカしいものを信じてるとバカな大人になるっていうのが親の持論だったんだ。いつだったか、夜中に目を覚ましたときにおじさんを見たって言ったら親父が「それは俺だ!」ってキレてたしね。リアリストにしてもあんまりすぎるよ。


 いや、クリスマスプレゼント自体はもらえるんだよ。むしろ、普段から俺が少しでも欲しがったものは買ってくれた。おかげで甘やかされて育った自覚あるよ。その反動なのかな。今は物欲がぜんぜんないんだよね。一回、うちに遊びに来たことあるだろ。ミニマリストって感じだったでしょ。


 サンタを信じなくなった時期?

 ほとんど最初からだよ。幼稚園くらいのときにさ。飼ってた黄色いインコが死んじゃったんだ。ピーちゃんって呼んで、すごいかわいがってたから子ども心にショックでずっと大泣きしたよ。その何ヶ月かあとにクリスマスがあったんだけど、目が覚めたら、ピーちゃんにそっくりな黄色いインコが枕元にいたことがあった。

 大喜びしたよ。サンタクロースがピーちゃんを贈ってくれたんだと思って、両親のところに連れて行ったら、ふたりともインコを見て急に怖い顔をして。「サンタクロースなんているわけないだろう。その子はペットショップで代わりに買ってきてやったんだ」って言うんだよ。ひどい親だと思わない? どうしてわざわざ子供の夢を壊すようなことを言うんだろ。

 それでも俺はそのインコがピーちゃんだと思ってまたかわいがったよ。そのあと、幼稚園に行ってる間にカゴから逃げちゃって、また大泣きしたけどね。それ以来、ペットは飼わせてもらえなかったな。


 だから、普通の家の子みたいに素朴にサンタを信じられるのって、俺からしたら結構うらやましいんだよね。あんなのは大人の嘘だって言われ続けてきた身からすればさ。少しでも欲しいと思ったら言いなさいってクリスマス関係なく言われ続けてたし、小遣いもたっぷりもらってたけど、夢を見させてもらったことは一度もないっていうか……。

 え? 自慢? 違うよ違うって。本気で言ってるんだよ。持つものの悩みは持たざるものには逆にわからないんだよ。それになんか、そういうときの両親って怖かったんだよ。ふだん優しいぶん鬼気迫るっていうのかなあ。

 そうだな。いつか子どもができることがあったら俺はサンタ信じさせてやりたいけどね。

 え。

 いやいや、別に謝らなくていいよ。気にしてないから。早く立ち直ったほうが、天国のあの子のためだと思うし。

 いや。

 気にしてないっていうのは、少し嘘だけどさ。

 やっぱ未だに悔しいし、顔を思い出さない日はないよ。一緒にクリスマスを迎えたかったし、この窓の外の夜景だって、あの子と見れたらもっと綺麗だったんだろうなって思う。もう、遅いけど。

 いや、ゴメン。こっちこそ気を遣わせちゃってんな、これ。久々に話せてすげえ気が楽になったよ。いやこれは本当。

 じゃあ、そろそろ行くわ。またなんかあったら気軽にLINEしてよ。


 メリークリスマス。

 サンタ、本当にいたらいいな。

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