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「センスはどうやって身につけるのですか?」

先日、某デザイン専門学校で講義をさせていただいた時、学生の方にこんな質問をいただきました。

たき工房には100名以上のデザイナーがいて、それぞれ得意なデザインカテゴリーを持っています。ブランディング、UI/UX、グラフィック、ムービーコンテンツといった領域別に力を発揮するだけでなく、創作文字が上手いとか、イラストが得意とか、スポーツ系が得意とか、女子的デザインは安心して任せられるとか、などなど。

そういったデザイナーは、最初からそういったデザインテイストを持っていたのではなく、外部から様々な影響を受けながら、多くのデザインを経験していく中で、徐々に自分のデザインの色を身につけてきました。「デザイナーは誰が好き?」とデザイナーたちに聞くと、様々な有名なクリエーターの名前が上がります。


あこがれから生まれるもの

私のデザイナーになりたての頃は、多くのスーパーアートディレクターの方が活躍されていました。サイトウマコト氏、戸田正寿氏、井上嗣也氏、奥村靫正氏、葛西薫氏などの多くの有名なアートディレクターが次々に素晴らしい作品をつくられていて、その大きな波から生まれるデザインに大いに影響を受けました。

あこがれのクリエーターたちの作品を何百回と真似てデザインすることに没頭したり、実際の仕事もそれっぽく作ったりの毎日。ビジュアルの作り方、写真の見せ方、キャッチコピーの書体、ロゴとキャッチコピー・ボディーコピーの位置関係やマージンなど、あらゆる表現を模倣していたことを覚えています。それに彼らが影響を受けた先人のアーティストについて勉強したりなど、アマチュアのミュージシャンが好きなバンドのコピーをするのと同じですね。

もっとも自分が手掛けている案件に彼らのデザインを当て嵌めようとしても内容が違うため、あたりまえですが、同じにはなりません。そうすると、書体を変えてみたり、配色を変えてみたり、レイアウトを組み換えてみたり、彼らのデザインの一部を活用したりすることで、何とか実際の案件に適用してみようとします。

自分の中で影響をアレンジすることになるのですが、他者のデザインをそのまま真似るのではなく、煮たり、焼いたり、炒めたり、ラードで揚げたりして、自分がつくるデザインに活用するようになりました。

そのようにして繰り返し何度もデザインを作っていったのですが、しばらくして自分がつくったデザインを見てみると、上記したアートディレクターのような作風が直接は感じられないように思えました。徐々に自分で考えて作れるデザインスキルを身につけることができたのではないかと思います。そうしてつくったデザインがクライアントに評価されるとようやく自信を持つことができました。

つまり、
→ あこがれを持つ
→ 真似てみる
→ アレンジする
→ カスタマイズする
→ 仕事に活用する
→ 評価を得る
このプロセスでつくられるのが「センス」なのではと思います。

デザインは社会との関係軸において成り立ちますので、自分のデザインセンスは自分で口にするだけでなく、誰かが認識・評価する必要があります。クライアントワークの中で評価されると、それがデザイナーとしての自分の価値になります。

デザイナーになる前やデザイナーの初期は、様々な表現に触れることが、将来に向けた自分の価値のベース作りに役に立つのは周知の通り。「ピンタレスト」や「Behance」に載っているようなデザインに触発を受け参考にしているデザイナーは多いですね。そういったサイトからは多くの表現テクニックを学べるので、多くのデザイナーたちの情報インフラになっています。

そして前述したように、特定のあこがれのクリエーターを持つこともデザイナーとしての基礎作りには有効だと思います。好きなクリエーターがいると、自分がデザインを考える際に、そのデザイナーの作品だけを目標にするのではなく、特定記事やインタビュー記事なども読むことによって、その人の考え方や人となりを知ろうとします。そうすることで、そこで語られている「言葉」によって、モノの捉え方、大切にしていること、感性の磨き方、自分へのプレッシャーの掛け方など、つまりは「心のありかた」を学べるようになるため、作品を見る以上にデザインをより一層深く理解することにもつながります。

このような思考が、デザイナーの考え方や観察眼の指標のひとつになってくれます。デザインを単なるカタチだけで捉えるのではなく、しっかり意図と目的を理解する力を育てるためにも、デザイナーになる前後の時期には、あこがれの対象を持つことは大切なのではないかと思います。


評価を得てこそセンス

そうすることによって、客観的に自分のデザインへの向き合い方がわかるようになります。デザイナーとしての言語化能力(これは必須)も身につくでしょう。市場、クライアント、ユーザー、メディアを同時に見ることによってデザインの考え方が複眼的になります。そのような力を持ったデザイナーはコミュニケーション能力も高く、仕事を共にするパートナーとしても頼もしい印象を相手に与えます。

カッコいいレイアウトや、かわいいロゴをつくるだけなら、それほど難しくありません。自己作品をつくるだけでもそれなりにスキルアップします。必要なのは身につけたデザインスキルによって人の思いをカタチにすること。デザインは人のために表現するのであって、自分を満足させるためではないのは事実。(とはいってもデザイナーは好きなデザインができれば楽しいですよね。これがちょっとやっかい。)他者によろこんでもらえる自分の価値、それが「デザイナーのセンス」だと考えています。

デザイナーの育成についての情報を発信します。
                                     たき工房には115人のデザイナーが在籍しており、日々さまざまな仕事で自己研鑽をしています。また、キャリアと適性に応じた研修・育成制度が、個々の能力向上に活用されています。
デザインには、一気に上手くなるような一発必中の魔法はありません。繰り返し反復することにより、少しずつ、デザインクオリティが上がっていきます。
このコラムでは、たき工房のデザイナーたちがどんな方法でスキルアップをしているのかをご紹介しますのでご覧いただければと思います。


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