見出し画像

「日本一勤勉なチーム」はいかにして作られているのか ~ レバンガ北海道 小野寺龍太郎 interview vol.1 ~

「日本一勤勉なチームを作る」その言葉を聞いた時、いかにしてそのチームを作るのか。その方法論が気になった。今回はその疑問を紐解くべく、小野寺龍太郎HCに話を伺っていく(インタビュー : 2月25日 インタビュー・文・写真 宮本將廣)

ルール設定はシンプルに、かつ明確にする

宮本 今シーズンは、「日本一勤勉なチーム」を目指しているというお話をさまざまなところでされています。39試合が終了した時点で、その成果がすごく表れていると感じていて、どのようにして「日本一勤勉なチーム」を作り上げているのかを紐解きたいと思い、オファーさせていただきました。僕の見方になりますが、簡単にまとめると、この39試合でディフェンスがすごく整理された。そしてオフェンスのパターンが確立されてきたと感じておりますが、小野寺HCはどのように感じられていますか?
小野寺 まず、昨シーズンの得点源だったショーン・ロング、中核を担っていたブロック・モータム、そして橋本竜馬が抜けて、はっきり言えばチームとしてのタレントレベルは下がったと捉えられると思います。だからこそ上位チームと戦っていく、そして安定的に勝ちを積み重ねていくためには、チームをディフェンス重視にしていくことが必要でした。そもそもディフェンスマインドの選手が多くいるので、サイズは小さいかもしれないけど、できることはたくさんある。もちろん、まだまだ足りない部分はありますが、ディフェンスに関しては一定の評価ができると考えています。
宮本 僕も外から見ていて同じような感覚を持っていました。小野寺HCはチームにおける原理原則を大事にされていますよね。
小野寺 そうですね。正直、選手が好むかはわかりませんが、とにかく原則に基づいてプレーすることを求めています。チームの原則の中で、要素ごとのルールが存在します。たとえばトランジションディフェンス、ハーフコートのピックアンドロールディフェンスで言えば、ハンドラーディフェンス、スクリーナーディフェンス、それ以外の3人のルール。ここは絶対にやられてはいけないとか、ここに関しては許容するなどを提示しながら、それらの手法とそれをやる目的を整理しています。ルール設定をシンプルにして、かつ明確に行えるようにすることが今シーズンのスタートでした。
宮本 一見複雑そうに見えるので、シンプルにしているというのはちょっと意外です。
小野寺 もちろんチームによっては複雑なルールを作っているところもあると思います。僕は複雑にしてしまうことでの迷いだったり、不必要な混乱を生まないためにディフェンスのルールはとにかくシンプルで明確にしています。あとは例外を作らない。自分たちのルールに該当する現象が起きた場面で、決められた方法でアジャストしていきます。それもルールの中で決められていることなので、「こういう場合は選手間で判断しましょうね」ということは一切伝えておらず、全てが言語化されたルールの中でプレーをする。もちろん、それが合う合わないというのは選手によってあります。ただ外国籍選手にもしっかりとルールの遂行を求めていますし、そういうことも含めてある程度の成果を導き出せているとは感じています。
宮本 「外国籍選手にもしっかりとルールの遂行を求めている」というところが、個人的にはこの39試合で見えていて、ひとつの成果だと感じています。個人名を挙げると、ラモス選手とウィリス ジュニア選手はすごくディフェンスマインドが強くなった印象です。シーズン序盤はブルックス選手はショーディフェンスをしているのに、ウィリス ジュニア選手はしていないというシーンもありました。ラモス選手に関しても、ヘルプポジションが曖昧でちょっと遅れてからオフェンスに移行していたシーンがありましたが、ちゃんとポジションを取ってから走るようになった。どのようにアプローチをしたらそのような成果を導き出せるのか。個人的にすごく気になっていたんです。
小野寺 なるほど。面白い視点ですね。これは本当に難しかったです。今シーズンもドワイトが残ってくれると決まって、まず最初に「求めるものが昨シーズンとは違うよ」という話をしました。今シーズンの序盤では足りない部分もあったんですけど、おっしゃる通りですごく向上しています。ダラルに関しても同じことが言えますね。外国籍選手は日本人選手よりもムラがある傾向にあります。そんな彼らにより賢くバスケットボールをすることを求め続けました。何より求めていることは、対戦相手が違うからできないことではない。どんな状況でも、対戦相手がどこだったとしても、僕たちのルールはしっかりと遂行できます。彼らが真面目な性格だということも成果につながった大きな要素だと思いますね。別の視点で言うと、僕は選手として結果を出してきた人間ではないので、説得力を持たせるためにも視覚的に理解をしてもらうアプローチを多くしています。あとは矛盾がないことが大切だと考えていて、求めるルールであったり、現象はしっかりと整理してすべてが文字で書けるようにしています。僕が求める以上は、僕自身が言語化できていることが最低条件だと考えています。
宮本 バスケットボールにはカオス的状況もあったりして、「言ってることと違うじゃん」と感じる場面も存在すると僕は思っていますが、それらもすべて整理して言語化しているということですか?
小野寺 そうですね。それが最初の段階では、理解しつつもコートで表現できていませんでした。だからこそ、しつこく言い続けてきました。「また同じことを言うのかよ」って思うだろうし、「うるさいな、わかってるよ」って思うだろうけど、それでも同じことを言い続けます。もちろん、今でも言っています。映像に関しても一緒で、同じ映像を何度も見せます。特に土曜のゲームが終わって、日曜日の朝はとにかく視覚的に理解することを重要視しています。そうすれば、あとは言語化されたものをそこに埋め込んでいくだけになるので、「君の役割はこれだからこれを求めているよ」というシンプルな声かけに徹するという感じですね。
宮本 先ほど話していた混乱を生まないという部分が、落とし込みでもしっかりと順序立てられているんですね。
小野寺 そうですね。「今、君たちに求めているのはこんなレベルのディフェンスではないよ」ということを常に言い続けていますね。一方で、改善点の映像だけはなくて、「これは良かったよ」という場面をしっかりと評価する。自分たちのルールから逸脱せずにどれだけ選手が精度高くできたのか。自分たちのルール通りにやれば、咋季王者である琉球でも勝てるチャンスはあるし、逆にそれができないのであれば、どのチームにも負ける可能性はある。「僕たちはそういうチームだよ」とチーム全体に伝えています。

スペシャルな選手がいなくても再現性は高められる

宮本 ヨーロッパサッカーのように、予算規模の小さいクラブがどうやったらレアル・マドリードのようなビッグクラブを倒せるのか。そのために小野寺HCは原則に沿ったルールを設定し、設計図を作られていると思います。一方で、バスケットボールはサッカーのように弱者が強者に勝つことがあまりないスポーツだと僕は考えています。でも、アップセットは必ず起こせる。だからこそバスケットボールは面白いし、そのためにクラブの予算、在籍する選手、地域性などを総合してそのクラブにあったバスケットボールを目指していく。それが最大化される戦術、戦略が必要だと考えています。気になっていたのは、小野寺HCはレバンガ北海道だから今のやり方をされているのか、それともそもそもコーチとしてのフィロソフィーがそうなのか。どちらなんでしょうか?
小野寺 面白い質問ですね(笑)。結論から言うと後者です。はっきり言ってしまうと僕はタレントのいるチームにあまり興味がありません。僕の思うコーチの仕事、魅力は極端に言えば、戦術、戦略で戦力差を埋めて持続的に勝利することができるチームを作ることです。だからこそ、宮本さんが仰ったように地方クラブがレアル・マドリードやバルセロナに勝つということは論理的に可能だと思っていますし、どの状況においても必ず答えがあると考えています。オフェンスもディフェンスもロジカルに考え、根拠を持って遂行していく。いつも選手に言うのですが、再現性のあることをやろう、と。もちろんスペシャルな選手というのは存在しますが、そういった選手がいなくても再現性は高められると考えています。僕はいつ、誰がやっても同一の結果が生まれることを再現性が高いと定義していて、それは科学的なことに近いと捉えています。科学の実験でもこれとこれを混ぜたらこういう物質ができることは、エビデンスから導き出されていて、同じ方法と手順を踏めば、誰がやっても同じ結果が得られる。バスケットでも同じことが言えると考えていて、この選手がいないからできないということはない。しっかりとプロセスを踏めば、同一の結果が得られる。そういうバスケットをしようと選手たちには常日頃から伝えています。
宮本 今のお話を聞いて、予算規模の大きくないレバンガ北海道が今シーズンはいいバスケットボールを積み上げられている理由がすごく見えてきました。ただ、イレギュラーなことも起こり得ますよね?
小野寺 もちろんエラーがあることもある程度想定しています。たとえばシーズン序盤のようにしっかりとしたプロセスを踏んで、アドバンテージショットを作れたとしても、そのシュートが入らなければ試合結果に大きく影響します。現実、そういう部分はもっと向上させていくべき部分であると考えています。そこは数学的な要素になると考えていて、しっかりとしたプロセスを踏んでいくことによって、正しい答えが抽出される。しかし、計算が間違っていた場合は答えも間違ってしまいますよね。そこは適宜、修正をしていく。繰り返しになりますが、スペシャルな能力がなければできないことは求めずに、誰でもできることを高い遂行レベルで行うことを勤勉性という言葉で表現しています。
宮本 なるほど。めちゃくちゃ興味深いお話でした。そういう考えに至ったきっかけというか、起源はどこだったんですか?
小野寺 僕自身、バスケットが好きで少しだけプレーをしていたんですが、周りの選手は身長も大きくて上手だし、身体能力も違うと感じました。その時に、「僕は選手として向いてないな」と思ったんです。この中でやっていても選手として結果を出せないだろうと感じました。諦めたことがコーチを目指すきっかけのひとつでした。そういう選手だったので、タレント性の高い選手、能力の高いチームに普通のチームが勝つ方法はないのか、それを考え始めたことが起源だった言えると思います。しっかりとした根拠を持って、10回やったら5、6回は勝てるようなバスケットの答えを導き出していくことが、コーチの仕事だと僕は考えています。

レバンガ北海道、シーズンラストも目が離せない!

ダブドリVol.19 2月9日に発売!
桜井良太選手ロングインタビュー掲載号!

ダブドリ有料コラム「ブリッジ」毎月更新中!

THE RISE 偉大さの追求、若き日のコービー・ブライアント 発売中!

ダブドリのもう一歩内側へ!メンバーシップはこちら👇
有料記事の「ブリッジ」「みやもんのバスケットnote」他、有料コンテンツを月額500円で全て読めちゃう!


この記事が参加している募集

Bリーグ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?