【ライトノベル?】Vオタ家政夫#48

クビになったVtuberオタ、ライバル事務所の姉の家政夫に転職し気付けばざまぁ完了~人気爆上がりVtuber達に言い寄られてますがそういうのいいので元気にてぇてぇ配信してください~

48てぇてぇ『ゲームってぇ、楽しいもんなんだってぇ』

「ふふふ……」

 わたしの目の前でルイジさんが笑っている。

「な、なんですか?」
「いや、もりもり美味しそうに食べてくれて嬉しいなあって」
「な……!」

 わたしは自分の顔を熱くなるのを感じ、あわてて丼を持ち上げて顔を隠す。
 どんなに落ち込んでいてもおなかはへるんだもん! しょうがないじゃないですか!

「……!」

 かき込みすぎたせいか喉に詰まらせる。けど、すかさずルイジさんがお茶を置いてくれて慌てて飲み干す。

「ふひゅ~」
「ゆっくり食べなよ」

 ルイジさんにそう言われ、わたしはちょんと頷き、ゆっくり色んなおかずをつまみながらごはんを食べる。
 おなかが膨れるとなんだかしあわせな気分になれて、少し落ち着いてくる。

 ルイジさんをちらりと見ると、ルイジさんは黒っぽい何かを少しずつ食べている。

「それ……なんですか?」
「あー、気にしないで。うん」

 わたしのおかずにはない、黒っぽい何か、というより焦げている、というより炭になっている。ルイジさんが作ったのだろうか、珍しい……。

 それからわたしはルイジさんと、マリネさんの配信を見ながらお話しつつごはんを食べていた。
 今日のマリネさんの配信は、あの大会でやるゲームの配信だった。

「やっぱり、うまい……」

 マリネさんはどんどんうまくなっていた。
 コメントでもみんな褒めてくれている。

〈マリネ、上達早すぎじゃね?〉
〈マジで初心者?〉
〈さすマリ〉
『ありがと。うん、面白いね。このゲーム』

 マリネさんは咄嗟の判断に優れていて、いきなり攻撃されても冷静に最適の動きを選び、反撃する。かっこいい。わたしには出来ない動きだった。

「すごいなあ……わたしとぜんぜんちがうなあ……」

 気付けばわたしはそう口走っていて、それを聞いたルイジさんがこっちを見ていた。

「あ! あの、その、えーと、これはちがくて」
「うん」

 ルイジさんは『うん』とだけ言って、笑って耳を澄ませてくれる。

 ルイジさんは基本的に『わかってるよ』って言わない。
 テンパってる時とかに言ったりはするけど、あまり使っているのを聞いたことがない。
 ほとんど分かってる気がするんだけど、言わない。

 分かってるって言っちゃうと、わたしが『わかってくれてるならいいや』って言葉にしなくなるから。

「あ、の……今度、今、マリネさんがやってるゲームの大会に、ガガさんとわたしと三人チームで出ることになってまして……」
「え……? へえ、ああ、そうなんだ……」
「はい。それ、で……あの、わたし、前に言ったかもですが学校でいじめられてたから、あの、部活とか入るの怖くて、あんまりそういうチームみたいなのやってきてなくて……学校でもあまり団体行動的なものしてなかった、から。あの、チーム戦が、怖いんです。迷惑かけちゃうんじゃないかな、とか、怖くて……」

 わたしは基本ずっとひとりでいた。ひとりでいるのが楽だった。
 集団行動が苦手だった。怖かった。
 ワルハウスに入ったのは、ルイジさんに、その、色々お世話になれるからで、それに、やっぱりみんな干渉しすぎない所があったから、平気だった。でも、

「でも、一緒のチームになるってことは、わたしが足を引っ張ったりしてふたりに迷惑をかけたりするかもしれないってことじゃないですか。だから、怖くて……!」

 わたしは思わず大声を出していた。
 でも、本当に怖い。

「怖い、か」

 ルイジさんは、相変わらず黒いのをついばみながら、優しい声で話しかけてくれた。

「ガガとマリネはさ、さなぎちゃんにとってこわい? 何か嫌なイメージはある?」
「え? い、いえ……」
「じゃあ、今怖いのは、きっとさなぎちゃんが二人に嫌われること、で、合ってる?」
「あ……た、たぶん」
「二人が好きだったり、尊敬しているから、失敗してがっかりされるのが怖いんじゃない?」
「そう、だと思います……」
「じゃあさ」

 ルイジさんは口の中でジャリッと言わせながら苦笑いでこっちを見る。

「失敗ってなに?」
「しっぱい、って……えと、その、負けることじゃ……」
「負けることは失敗、じゃあ、勝つことが成功? じゃあ、勝てばなんでもオッケー?」
「いや、そういうわけじゃ……」
「俺はね、ゲーム配信も好きだよ。ガガのゲーム配信見たことある? アイツ、すげーうるせーの。でもさ、ガガはさ、すげー楽しそうにゲームやるんだよね。全力でゲームを楽しんでる。逆に、マリネはさ、これでもかってくらいやりこむ事に燃えてる。ゲームを作った人間の気持ちまで考えて、リスペクトして、え? そこに感動する? みたいなところに感動してたりして……」

 それは分かる。ガガちゃんのゲーム配信は凄く楽しい。見てて自分もやりたくなる。負けても笑ってくっそーとか言って向かって行って……。
 マリネさんのゲーム配信はとにかく淡々としている。けど、確かに、隅から隅まで楽しんでやろうと考えているように思う。

「じゃあ、マリネみたいな視点に立ってみようか。作り手にとって、ゲームの成功って何か考えてみようか、売上は勿論だよね。じゃあ、他には、クリアさせること? クリアさせないこと? ……多分、楽しませることなんじゃないかな」
「あ、まあ、えと、はい……」

 なんだろう。なんか、なにか、わかったような。

「じゃあ、さなぎちゃん、ガガ、マリネ、この三人にとってあのゲームはなに?」
「それは、わかりません……だって、答えなんて……」
「答えなんて?」
「人それぞれだから……それに」
「それに?」
「わたし、このゲームの事、まだ分かってない気がします」

 わたしは、ばぁかだ!
 大会だからヤバいとか、みんなに迷惑かけちゃ駄目だとかそんなことしか考えてなくて、わかろうとしてなかった、知ろうとしてなかったこのゲームの事も、ふたりの気持ちも!

 わたしはごはんと卵焼きとお味噌汁と一気にかき込んでお茶を貰って、呑み込んで立ち上がる。

「わたし、ちょっとやってきます!」
「うん、いってらっしゃい! ああ、あとさ」
「はい」
「今日の卵焼きどうだった?」
「え? 美味しかったですよ。ちょっと甘めで」
「それ、ガガが作ったんだよ」

 え?

「アイツさ、今日、さなぎちゃんに謝りたかったみたいでさ、何がいいかって俺に聞いてきたんだよ。で、さなぎちゃん卵焼き好きだって言ったら、張り切って作り始めて……」

 そうだったんだ……ガガちゃん。

「これは俺の勝手な考えだけど、アイツ、さなぎちゃんに感謝してると思うよ。アイツさ、ライバル事務所から転生してきて結構遠慮してたと思うんだよね。でもさ、同期にさなぎちゃんがいて、さなぎちゃんはそういう事気にせずに接してくれて……」

 わたしだって……ガガちゃんにはいっぱい助けられてるのに……。

「ちなみに。こっちのコレもガガが作ったヤツ。今日の俺のおかず」

 ルイジさんはそう言って自分のお皿にある黒焦げを指さす。

「これはさ、失敗じゃないよ。成功のもと、でしょ? ゲームも人も、向き合ってみたら自分が楽しいって思える所結構見つかると思うよ?」
「はい……」

 わたしは、ルイジさんのお皿のお箸をとって、黒焦げのそれを食べる。
 ジャリジャリと音がしてめっちゃ苦かった。
 でも、しらなかった一面を知ると美味しくも感じた。

「ごちそうさまでした!」

 わたしは、自分の部屋に向かって、ゲームの準備を始める。
 まずは、知ろう。楽しもう。仲よくなろう。このゲームと。
 マリネさんもきっとそうしてるんだから。
 そして、ガガちゃんはきっとそうしてたんだから。

 そして、みんなと向き合おう。
 ちゃんと胸を張って。
 まずは、そこから。

 準備が整うと、わたしはゲームを起動し、『配信』を始める。

『みなさーん、こんさな~。まだまだ成長中、十川さなぎです』
〈こんさな~〉
〈ゲリラ配信助かる〉
〈何が始まる?〉

『いきなりの配信予告ごめんなさい。今日はこのゲームをやりたいと思います』
〈うお、FPS系?〉
〈さなぎちゃんにしては珍しい〉
〈ゲーム配信だあ〉

『まだ、始めたばっかりなんですけど、結構難しくて』
〈せやな〉
〈これは特に難しいよ〉
〈さなぎちゃん出来る?〉

『そう。なので、今日はいっぱい頑張ってみようと思うので、皆さん、色々教えてくださいね。初めて見る方は一緒に楽しみましょう』
〈任せよ!〉
〈初見です〉
〈たのしみ~〉

 わたしは去り際にルイジさんに掛けられた言葉をじゃりじゃり噛みしめながらゲームをスタートする。

『俺個人としては、ゲーム配信に失敗はないと思ってる。クリア出来なくても、うまくいかなくても、やってる本人とファンが楽しめたら優勝でしょ』

 そう。今日はとにかく楽しもう。
 ミスしてもいいし、負けてもいいし、うまく出来なくてもいい。
 まずは、楽しむ!
 さなぎはそこから始めてみよう。

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