【ライトノベル?】Vオタ家政夫#51
クビになったVtuberオタ、ライバル事務所の姉の家政夫に転職し気付けばざまぁ完了~人気爆上がりVtuber達に言い寄られてますがそういうのいいので元気にてぇてぇ配信してください~
51てぇてぇ『休むってぇ、大事なことなんだってぇ』
【天堂累児視点】
「ルイジ、今日の準備大丈夫!?」
「大丈夫ですよ、ツノさん」
ツノさんは朝からそわそわしていて、昨日から十何回目かの質問をしてきた。
今日は、ツノさんの所でオフコラボの予定だ。
オフコラボの相手は、角南ナツさん。
ツノさんとはナツノと呼ばれ、ワルプルギスでも認知度高いノンストップコンビで仲良しっぷりは有名だった。
だけど、一年前から喉と体調の不調を繰り返し、休養も含め、ナツさん自身の配信が減り、自然とオフコラボの回数も減り、半年近くオフコラボは出来ていなかったのではないだろうか。
そんなナツさんとのオフコラボという事で、ツノさんは気合が入っていた。
ツノさんは、頭が良くて、頭の中で瞬時に色んなパターンを組み立てられ、その流れをうまく作ることが出来るトークの天才だ。
だけど、その分、色んな人に配信外でも気を回し過ぎて、よくメンタルがやられている。
そういう時は異常なまでに構ってモードに入る。
だけど、その構ってモードに入る時も、バランスを考えてしまい、一人にずっとではなく、この人には頼り過ぎたから、今日はこの人に……とか考えちゃう人だ。
ナツさんとは直接の面識がないので、配信時の印象だけど、そういうツノさんの考えすぎな所を共感した上でバッサリ切っちゃうような思い切りのいいひとって感じだった。
「ツノさん、今日は楽しみですね」
「うん! ああ~、今日の配信しっかり見ておいてよね、ルイジ!」
誇張のない純粋なツノさんの笑顔にどきっとしてしまう。
この人は急にこういう無防備になるからタチが悪い。
「あら? あらあら~? 何~? 照れた? 照れちゃった?」
「はい、すごくかわいかったので」
「……あ、はい。あざまーす」
だが、割と自分を下げて笑いを取りに行くスタイルなので自己肯定感が意外と低く、シンプルに褒められると弱い。それを学んだ。
顔を真っ赤にして、指でもじもじしている。かわいい。
「あ、じゃ、じゃあ……ちょっと、ナツ迎えに行って、遊んで、それから帰ってきて、ルイジのご飯食べて配信するからよろしくね!」
「はーい。じゃあ、楽しんできてください」
楽しそうに手を振るツノさんを見送り、俺は今日の準備を始めながらスマホで、ナツさんの復帰配信を見る。
直近で、ナツさんは休養をとっていた。
その復帰配信。
『ち、ナーッツ! おひさー! 角南ナツ、帰ってまいりました! いやいや、働く者たちを眺めながらとる休暇は最高だったぜ、はっはっは! すいませんでしたー』
〈ち、なーっつ〉
〈おひさしぶりー〉
〈怒涛の挨拶、煽り、謝罪ラッシュ〉
〈元気そうでなにより〉
〈よかったー〉
ツノさんにも負けず劣らずのマシンガントークで始まるその配信は、休養をとった分元気になったと思わせるような配信だった。香ばしい匂いがするコメントを拾い上げてはいじり倒す。そのスタイルは、ファンを爆笑の渦に巻き込んでいた。
「どこの女を見て笑ってるの、累児」
マジでびっくりした。
背後に、いた。姉が。高松うてめの中の人、天堂真莉愛が。
え、幽霊? ってくらいに静かに、そして、冷たくたっていた。
「ね、姉さん、いつの間に?」
「遠くからずっと。ツノと楽し気に会話している時からずっと。累児が楽しそうに話しているから邪魔しちゃいけないと思ってずっと。いつか累児が気付いてくれるかなと思ってずっと。でも、気付いてくれなかったから来ちゃった」
俺、天堂累児は鈍感と言われることはある。
だが、正直俺は、視野は広いし、よく気が回る方だと、フロンタニクス時代から言われていた。そんな俺が気づかないところって……。
「姉さん、監視カメラ……」
「なんのことか分からないわ」
なんのことか分からないという言葉で分かったわ。
「俺の部屋には」
「置いてないわ。累児にもプライバシーはあるもの」
ボロが出ている。何故なら、今、姉は俺の背中にくっついて匂いを嗅いでいて、若干トリップしているから!
「そっか。一台だけ?」
「一台だけよ。しかも、累児がいなければちゃんと見ないようにしてるわ。みんなにもプライバシーはあるもの」
安心していいのか悪いのか。
まあ、もう諦めている。両親も諦めている姉さんの過保護というか俺に対する執着っぷりだ。
正直、姉さんのしあわせを考えるなら結婚とかしたほうがいいんじゃないかと思うので、過剰なブラコンを卒業させたいのだが、本気で落ち込んでしまうので、
「ほどほどにね」
としか言えない。
まあ、俺は結婚もするつもりもないのでいいんだけど。
「で、誰を見てたの? ……ああ、ナツね」
姉さんは俺の肩を匂いながら、肩越しにスマホを見て呟く。
「心配?」
「まあ、ね……」
俺は姉さんの質問に答えながら画面のせわしなく喋り、コメントを拾い、目を動かすナツさんの姿を追った。
「姉さんも、心配だよ」
俺は、ちょっと力を込めて俺に顔を押し付ける姉さんに声を掛けた。
「そ」
姉さんはそっけなく返事をする。
疲れているようだ。
Vtuberの忙しさはピンキリだ。
別の仕事をしながら活動するVtuberは本当に忙しいだろう。
事務所所属のVtuberは、多少個人に任せられてる所もあるので、配信頻度はそれぞれだが、事務所側から来る案件もある。また、歌や声の収録、企画やグッズ打ち合わせ、その上で配信の準備や情報収集を含めれば本当に忙しくなる。
姉さんは今、ワルプルギスのトップで認知度も高い上に、最近色んな案件が重なるにも関わらず、配信回数はワルプルギスでも上位に入る位だ。
社長からも、俺に出来るだけ労わって、そして、休むように促してほしいと言われている。
ただでさえ、Vtuberは脳と目、そして、喉を酷使する。
何時間も喋りながら考えながら視聴者を相手にする仕事なんてほとんどないだろう。
その上、時間は夕方から夜が多いために、人間が本来持つ生活リズムとは異なっているために、体調や精神的なバランスを崩しやすい。
そして、人気商売の為に、心無い批判やコメントなんかもくる。
姉さんは、メンタルも身体も強い方だとは思う。俺も全力でサポートしてる。
それでも、疲れ果てている。
「姉さん、ちょっと休んで」
「やだ、配信する」
姉さんが子供みたいに言う。こうなると厄介だ。仕方がない。
「そうだ。じゃあ、明日二人でお出かけにいこっか」
「休むわ。明日の為に今日はもう寝るわ。夜、配信あるし」
そう言うと姉さんは、冷蔵庫から野菜スムージー一本を取り出し、飲み干して、私飲んだよアピールをすると、部屋に戻っていった。
俺はほっと胸を撫でおろし、社長に連絡を入れる。
社長からは速攻で『本当にありがとう!』と返ってきた。
休まないのも考えものだなと苦笑いし、俺も一旦手を止め、休憩がてらリビングで配信を再生させる。
『いやー! まあ、結局ゲームとかしちゃってたけどね!』
〈休みの意味w〉
〈まあでも配信してない純粋な楽しいゲーム大事だよね〉
〈なんのゲーム?〉
スマホがなる。姉さんからだ。
『それって、休みのつもり? 休めてるの? 累児だって、休まなきゃだめよ』
姉さん、カメラあとで外すからね。
いや、みんなの安心の為にはあった方が良いのか? 仮にも男だし。
いや、むしろ襲えって感じの人たちがいるからな。もういいや、後で外そう。
それとも、
「姉さんも、俺を休ませようとしてるのかな?」
俺は、一旦画面を止める。ナツさんの笑顔全開で止まり苦笑してしまう。
そして、タイマーをかけ横になる。
姉さんに小さな声で感謝を言いながら。
だけど、
「おはよう、累児」
目覚めた時、目の前に姉さんがいるのは聞いてない。
一気に目が覚めたんですけど。
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