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ふたりぼっちの歌集読書会・準備(日記の練習)

2023年7月3日(火)の練習

 九州に住んでいる友人と、ふたりぼっちの歌集読書会を不定期で開催している。帰宅してからは読書会の準備。課題図書である花山周子『風とマルス』(青磁社)から十首を選ぶ。読書会をはじめた昨年は毎回課題図書となる歌集を読んでとりとめもなく話していたが、今年からお互いに前もって十首を選んで見せ合うようにしている。お互いの選んだ歌があれば歌集のどこを面白く読んだかある程度は察せられるし、話題も運びやすい。なにより選ぶために読み返すうちに初読では見逃していた面白さに気付くこともある。
 友人が先に十首を送ってきたので、何を選んだか見ないうちに急いで選ぶ。

こけしのようになってしまえり春雨を忘れて傘を忘れてこけし 「春雨」
朝顔の葉を吹く風と同じ風に揺れているのは洗濯ばさみ 「鉛筆の味」
縄跳びの縄が路面をたたきいる音ひびきけり団地の夜に 「冬の虹」
清潔な障子の桟の直線を朝日は徐々に破壊しにけり 「鏡」
明け方の冷えたる空を過りゆくからすとからすの声に距離あり 「さくらんぼの原価」
垂直に雨降る故に水平に続く町並み雨受けている 「口笛」
はたはたと夕風入りて壁際にカレンダーの青い数字は動く 「夏、午後」
蚊取り線香燃え残りいる窓の辺に届くあしたの朝顔の蔓 「人生の休日」
欅並木は雲をはらんでいる道に電線がないと気づくさびしく 「人魚姫」
交差点は動かずありぬその上の全てのものが動きてありぬ 「正座」

花山周子『風とマルス』

 ついつい夏の歌を贔屓してしまったかもしれない。一首を選ぶなら「清潔な障子の桟の直線を朝日は徐々に破壊しにけり」だろうか。風景を線で捉えた歌が多く、面白い。「蚊取り線香燃え残りいる窓の辺に届くあしたの朝顔の蔓」に表される精妙な静物画のような歌があるぶん「点と線」へと極度に抽象化された歌が際立っている。

 友人に十首を送ってから、彼の選んだ十首を確認する。一首も被っていない。というより、この十首選を始めてから、まだ一度も選んだ歌が被ったことがない。もちろん、十首に挙げるか悩んだ歌が相手の十首に選ばれていることはある。けれども、そのうえで選ばなかったこと。その違いにこそお互いがよい歌と思う価値観が表れているような気がして面白いと思う。

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