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宮島沼のマガン ~2022年春~

マガンの飛来数

 マガンは4月9日から宮島沼でねぐらをとり始め,4月13日の沼開け以降数を増やし,4月19日に今シーズン最高羽数である70,520羽を記録した.その後,マガンは緩やかに減少し,5月4日には一万羽以下,5月5日には千羽以下となった.
 過去5年間のマガンの飛来数変化と比較すると,雪解けの状況によって多少のばらつきはあるものの,いずれも4月20日前後にピークを迎え,その後5月初旬にかけて緩やかに減少するパターンが見て取れる.しかし,10年前の飛来数変化を見ると,マガンのピークはもっと遅く(あるいはピーク時の個体数が長期間持続し),4月末から5月頭に一気に減少する傾向があり,近年になって宮島沼におけるマガンの滞在パターンが変わってきていると考えられる.

Fig1. 宮島沼におけるマガンの個体数変化(2018-2022)
Fig2. 宮島沼におけるマガンの個体数変化(2008-2012)

 宮島沼における滞在パターンの変化の理由としては,マガンが早くからサロベツ原野などに移動してしまい,渡りの中継地利用が北方にシフトしてきている可能性があげられる.こうした分布変化は,好適な場所ができたから移動する場合と,元々の場所が不適になってきたので移動する場合が考えられるが,前者では,気候変動の影響でサロベツ原野を早くから利用できるようになった可能性があり,後者では,宮島沼周辺の採食環境の悪化が原因となっている可能性が考えられる.特に昨年は宮島沼周辺の田んぼの秋起こしが盛んに行われ,残りの田んぼも4月中旬には耕起されたため,マガンが宮島沼周辺で十分に採食できず,早くから減少した原因になった可能性があると考えられる.

マガンの早朝の飛び立ち

 マガンは早朝,沼を飛び立って周辺の採食地に向かうが,飛び立つタイミングは日の出の30分前の日もあれば,日の出とほぼ変わらない日もある.また,数万羽単位で一斉に飛び立つことが多いが,数百羽単位でバラバラと飛び立つこともある.これらは,多くの場合,オジロワシの飛来の有無によるものと考えられる.沼開け前後は沼に定着しているオジロワシがいるため,日の出前の暗いうちにマガンが飛び立つことがほとんどだが,近年は付近で営巣するオジロワシも多くなり,飛来期後半でも早い時間にマガンが飛び立つことがある.また,渡り時期にはオジロワシの有無に関わらず早くから飛び立ってそのまま渡ってしまう群れもいるものと考えられる.

マガンの捕獲追跡調査

 宮島沼では2002年春,2004年春と秋,2005年春と秋にマガンの捕獲調査を行っていたが,今回,PCPDインベストメントリミテッドによる「北海道におけるフライウェイ・サイトの保護活動支援」の助成を受けてマガンの捕獲調査を実施した.
 4月19日から4月21日にかけて5羽のマガン(成鳥ペア,若鳥3羽)を捕獲し,全てに金属足環と首環型の発信機を装着した.1羽はくくり罠で捕獲し,4羽はゴム引きの無双網で捕獲した.

 発信機の位置情報は携帯電話網を通じて送信されるため,圏外にいる間は位置情報がわからないが,5月20日現在で,2個体はロシアに移動していることが確認されている.他の2個体からは,それぞれ5月5日と5月6日に宮島沼付近の位置情報を最後に連絡が途絶えており,圏外地域に移動していると考えられるが,1個体は5月10日に宮島沼付近で脱落した発信機を回収しており,残念ながら死亡したものと考えられる.

 ロシアに移動した2個体のうち,1個体(オレンジの線)は5月6日夕方に宮島沼を出発し,17時間後にはおよそ1800km離れたカムチャツカ西岸にたどり着いたが,そのまま降りることなくカムチャツカ半島を横断してから南下して,およそ24時間後にはマガンの中継地として有名なハルチンスコエ湖に到着した.本来であればまっすぐハルチンスコエ湖を目指したかったのかもしれないが,オホーツク海を越える際に強い南風の影響を受けて北に流されてしまったものと考えられる.ハルチンスコエ湖に到着した翌日には少し南の湖に移動して数日過ごし,5月18日にまた北東に向けて移動を開始したが,マガンの繁殖地として知られるアナディルに向かう海上における位置情報が最後の通信となっている.
 もう1個体(赤線)は,5月6日早朝に宮島沼を飛び立ち,すぐに沼田町に降りて数日間滞在した.その後,5月9日早朝に移動を開始して,5月10日夕方にはカムチャツカ西岸に降りたが,その途中の夜間の数時間は海上に降りている形跡が確認された.マガンは宮島沼を飛び立った後,一気に長距離を渡ると考えられていたが,こうした飛び飛びの渡りがよくあることなのか,個体の異常によるものなのか,今後の追跡結果によって明らかになってくるものと考えられる.
 マガンの捕獲追跡調査は,少なからず個体のストレスに通じることがあるが,ガン類全体の保全管理のために不可欠な情報をもたらしてくれる.引き続きモニタリングと分析を進め,個体へのストレスを最小化し,保全管理への貢献を最大化する捕獲追跡調査を継続できればと考えている.

傷病死亡鳥の記録

 今シーズンは強風の日が多く,高圧線への衝突と見られる個体が多く見られた.個人的に記録した死亡個体は3個体だが,市町村や空知総合振興局で処理した個体も併せると10個体以上はいたものと考えられ,情報の集約が必要である.この他,4月30日に脚部の開放性骨折を患ったマガンを一羽宮島沼で確認した他,5月3日には小麦食害防除用のテグスにひっかかったマガンを一羽収容している.この他,鉛中毒と思われるマガンを3羽,オオハクチョウを3羽,宮島沼で確認している.

その他水鳥の記録

  宮島沼では雪解け時期の沼開け前後に数千羽のコハクチョウが見られるが,今期は非常に少なかった.今年は北空知の雪解けが比較的早く進んだため,宮島沼周辺を素通りしたコハクチョウも多くいたものと考えられるが,2020年から周辺の圃場整備事業の影響で宮島沼に雪解け水の流入がなくなり,開放水面が出るのが遅くなったことで,ねぐらの分散化が進んだことも原因として考えられる.一方でオオハクチョウの飛来は多くなっているが,これは石狩川流域を通過する個体数の増加を反映しているものと考えられる.

 また,4月19日にはハクガンを過去最大となる62羽確認したが,シジュウカラガンは最大3羽,カリガネは最大2羽しか確認できなかった.4月21日には道央由来の個体と思われるタンチョウ2羽を確認している.マガンの標識個体はF2Yを確認している他,バフ変個体2羽を確認している.

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