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コロナ禍(以前/以後)から社会的IDとしての「電話番号」を失う人の増加について。「つながる電話」を始めた話

誰もが無料で使える「つながる電話」の開始

今年(2020年)7月より、コロナ禍においてさまざま背景から「音声通話可能な携帯電話(電話番号)」を失った方へ、本人負担ゼロで電話を貸し出す支援スキーム「つながる電話」を立ち上げた。
お申し込みは対象の方を伴走支援している支援団体・支援機関経由から。着信はどこからでも・発信先は2箇所程度と制限はあるが、最大2年間無料(本人負担も、伴走支援団体の負担もなし)で使っていただける。

6月に1〜2団体へ実際に使っていただくクローズドテストをおこない、7月の正式サービスインから現在まで約2ヶ月。
この間、すでにのべ30台以上の「つながる電話」が稼働中だ。お渡ししている団体は15団体、これからお渡しをご予定・および問い合わせをいただいている団体を含めると20団体以上。
それぞれ取り組んでいる社会課題は、広い意味での生活困窮から子ども支援、女性や妊婦の方、外国ルーツの方やLGBTなど多岐に渡る。
法人格もNPOなど民間はもちろん、公的機関からのご相談も頂いている。

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正直、当初の想定よりかなり多くのお問い合わせ・ご連絡をいただいており、また本プロジェクトをきっかけに初めてご連絡いただく団体様については、丁寧にニーズを聞き取らせていただいたり。
また、できる限り最初の1台については手渡しでお届けし、ご状況を伺うなどしているため、実際の電話お渡しまでお待たせしている状況だ。
(大変申し訳ありません🙇

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本プロジェクトは、つくろい東京ファンド・東京アンブレラ基金とNPO法人ピッコラーレの共同企画、技術開発を合同会社合同屋の3者の枠組みで進めており、私は企画立ち上げから現運営事務局まで担当している。

本稿はそのプロジェクトが成立する背景説明と、それに到るまでのコロナ禍での緊急支援対応の様子を個人の備忘録的に記録することを意図している。

だから「つながる電話」もちろんコロナ禍での支援状況が前提ではあるのだが。

そもそも、この「電話を失い、さまざまな社会資源から阻害されてしまう」人々の問題は、コロナが広がるずっとずっと以前から、支援の現場で相談者・支援者双方が頭を悩ませる積年の宿題だった。

緊急事態宣言下の東京で

2020年4月7日。
新型コロナウィルス感染が拡大していく中、ついに緊急事態宣言が発令されるとの報で、小池知事が会見。その席上で休業要請を出す具体の業種に言及するとのことで、私は固唾を飲んでスマホを凝視していた。
いくつもの職業が発表される中、インターネットカフェがあることを確認。

上司の稲葉剛さん(つくろい東京ファンド代表理事)に電話する。
「ネットカフェも休業ですねー」
「いや、まずいね」
「まずいですよねー」

ネットカフェのような不安定な居所で暮らす、いわゆる「ネットカフェ難民」と呼ばれる方々は、都内だけで推計4000人いるともいわれている。仮に推計通りの人数が寝泊まりするところを失うことになれば中規模の自然災害レベルであるし、実際的な数字的にずっと小さいとしても、支援の受け皿を作らないわけにはいかない

とはいえ、感染が広がる中、相談会のような「一カ所に集める」タイプの支援体制を新たに作るのは、感染リスクが大きいのではないか、とこの時の私たちは考えた。
オンライン上に相談フォームを開設して、そこから連絡を受けた方に支援スタッフが個別対応する体制だと、比較的リスクが少ないのではないか。

こうしてニーズが読めない中、緊急相談フォームを開設し、相談の受付をスタート。

実際、蓋を開けてみれば、相談フォームを開設した直後から、連日、窮状を訴える相談メールが押し寄せた
毎日「所持金が数百円です」「定宿にしたネットカフェが休業になりました」といった切迫感のある相談が3〜4件。ほとんどがこちらが緊急出動が必要なケースだった。

東京都がネットカフェの代替としてビジネスホテルを用意したので、昼間ならまずそこの窓口となっていた「東京チャレンジネット」へ向かってもらい、結果をまた教えてもらう段取りにした。切迫度が高く、ご本人が動けそうなら、地域の福祉事務所へいってもらい、またその進捗を共有してもらう。

問題だったのは、相談フォームからの連絡の大半が、公的機関が閉まった17時時以降にくることだった(たぶん、日が暮れてから焦り出すのだろう)。
その時間からの所持金がなく、泊まる場所がないというSOSをもらったら、簡単に状況と所在地の確認をしたあと、数日分の宿泊費をもってお会いするべく緊急出動する。
日がたち、増え続ける困窮者に焦ったのか、都の窓口にビジネスホテル利用を求めた方が追い返されるという事態も横行し始めたので
「追い返された」と連絡が来るがまた17時以降なのだ!ご本人は悪くないけど!)、
その尻拭いも全てこちらにまわってきた。

当時は稲葉さんと私で最初の返信からメールでの聞き取りをおこない、支援方針を決め、協力してくれている支援者チームに緊急出動を依頼する。時には自分たちも夜の町に飛び出していった。

飲食店自体が休業したり、早じまいしたりしている中で、大概駅周辺で相談者とお会いし、路上の隅や公園で簡単にご事情を伺う。ご本人が短期的にお仕事のあてなどがある場合は、今夜分のビジネスホテル代をお渡しし、明日東京都の窓口へいってもらう。また、仕事も収入のあてもない場合は、生活保護の活用ができることを説明し、もしご本人が望むなら申請同行の段取りをとった上で今夜分の宿泊費をお渡しする。

ともかく連日連夜、窮状を訴えるメールを読み、返信し、状況を伺い、地域を特定し、段取りを整え、各所に緊急対応を依頼し、また自分でいき、お会いし、詳しい話を聞き、お金を渡し、アポイントをとり、別れる。この時期はそんな日々をくり返していた。

命綱のコンビニWi-Fi

さまざまな方がこちらへSOSを出されていたが、特徴的にいえることはいくつかあった。
その一つは、比較的若いこと。三十代や四十代前半、二十代も珍しくなく、なかには十代もいた。
ほとんどの方は直前まで仕事をしており、その職種や勤務形態も派遣や直接雇用のアルバイト、工場での検品作業やデータ入力、テレアポや夜の仕事まで多様だった。
が、コロナ禍で仕事を失うか大幅に減らされ、定宿にしていたネットカフェの休業と所持金減が重なり、SOSに到ったことは共通していた。

そして誰もが、皆「携帯電話」を失っていた

正確にいえば「回線契約解除に伴う音声通話可能な電話番号」を失っており、ほとんどの方は端末自体は持っていた。なので、彼らはその端末で街に飛び交うフリーWi-Fiの電波を捕まえ情報収集をおこない、緊急相談フォームからのSOS発信をおこなっていた。
体感として相談フォームからの相談者の三分の二程度が、こういった「携帯電話が停まり、通話と端末単体でのデータ通信ができない状況」だった。
(自己申告であること、そもそもフォーム経由からの相談者なので当然偏りはあるはず。ただ、それにしても多いと思う)

その中でも抜群の利用率を誇るのがやはりコンビニエンスストアのWi-Fiで、メール経由のやりとりの結果、ご相談者とコンビ二の前で待ち合わせすることも多かった。
こういった意味でもコンビニは社会のインフラとして機能しているのだと改めて思う。特定のウェブメールを送る際、セブンイレブンのWi-Fiでは送信がブロックされるが、ローソンは送信可能だという知見を得ることも出来た。(本当かどうかは確かめてない)

ローソン

逆に「電話が通じた」ことで支援につながったケースとして印象に残っている方がいる。
ご本人が新聞取材にも応じられているが、

4月21日。
緊急相談フォームから
「三重で仕事をしていたのですが解雇され、名古屋から東京へ向かっています。所持金がなく野宿になっています」
旨のSOSが飛び込んできた。
この時すでに、連日押し寄せる相談のほとんどに電話番号が記載されておらず、メールだけのやりとりで状況把握をすることに私が疲れ始めていた時期だったので、
「電話番号あり。通話可能」
の記述に小躍りしたことを覚えてる。

早速架電。出た28歳の青年は、三重桑名市で失業後、住まいと所持金がない状態で桑名の福祉事務所で窮状を訴えたところ、交通費500円だけを渡され名古屋市へたらい回しにあったとのこと。そしてその名古屋市でも、再びたらい回しに合いそうになっているところで、こちらへSOSをしてくださった状況だった。
食費・宿泊費ともになく、前泊は野宿だという。明らかに要保護状態であり、事務所へ赴きその窮状を訴えているにも関わず、必要な支援をおこなわない福祉事務所は職務を果たしていなかった。
そのあたりの整理とご本人の希望を聞き取って、結論として東京での生保申請を希望され、希望にそうように支援をおこなうことに。とりあえず当座の食費や宿泊費などを振り込みにてお渡しした。

翌日、沼津福祉事務所の相談員から、青年の携帯を通じて架電があり。
何も食べていないと訴える青年を目の前にして支援をするどころか、
「あなたたちは東京の支援団体のようだが、交通費は出してもらえるのか。私たちで彼に出来ることは何もない」
旨の電話を、非常に挑発的な態度で述べてきたので反論し、本人へこれ以上権利侵害をさせないよう突っぱねたり。
さらに翌日、東京に到着するまで、これからの段取りを通話で詳細にやりとりしたり。

彼の経緯の複雑さや、遠隔の福祉事務所とのやりとりを含め、彼が音声通話可能な電話を維持し、通話によるコミュニケーションが可能でなかったら、無事名古屋から東京までたどり着けたかどうか怪しかったと思う。

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だから、私と東急ハンズ池袋店前で待ち合わせし、その元気な姿を見た時は本当に本当にほっとした

「社会的ID」として機能している音声通話番号

もちろん「電話番号がない」という状況によって起こりえることの内、緊急支援時の対応が円滑に進まないというのは些末なことにすぎない。

どうにか苦労してお会いでき、宿泊費をお渡しし、都のビジネスホテルへ入り、自分たちが申請同行して生活保護へつながったとしても、電話番号がない弊害はいよいよここからが本番だ。
支援者と一緒に安定したアパートを探し、いざ契約の段階となっても、保証会社や不動産会社からの電話連絡を円滑に受けられる電話番号がなければ、物件を借りることはほぼ不可能だ。
また、同様に安定した仕事を探す上でも、その雇用形態が強固なものであればあるほど、電話連絡がつくことは必須となる。
福祉事務所や保健所、医療機関など、オフィシャルな窓口とのやりとりについても、やはり通常は電話でのやりとりを要求される。

こういったように、音声通話可能な電話が「普通の社会生活を営むために不可欠なサービス」を利用するための「社会的なID」となっている現実は、あまり表だって自覚されていないし、社会的にも認知されているとはいえない。
これまで述べてきたように、コロナ禍で困窮される方々の支援ニーズから改めて浮き彫りになってはいるが、これはそもそも困窮者支援の現場では「今更」ともいえる問題だった。

なぜ「携帯電話を失う」つまりは「電話料金を滞納した挙げ句、契約解除となり、複数のキャリア共々再契約を拒まれるブラック」となってしまうのか。
もちろんそこには一義的に低賃金あるいは失業による生活苦があるわけだが。

近年もっと積極的な一因として個人的に考えているのは、各携帯キャリアが導入している「携帯利用料金と混ぜる形で一緒に買い物代金を支払えるポストペイ式電子マネー」だ。

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今月はあまり仕事に入れず、食費が乏しいのでついつい
「あとでその分稼げばいいだろう」
とポストペイ式電子マネーで食料品を買ってしまう。そうしていざ月末の携帯電話料金の請求時に支払い切れない金額の請求を受け、立ち行かなくなってしまう……。

そして一度電話を失ってしまえば、生活を立て直すための「就職」や「アパート」のような社会資源から阻害され続ける
社会的に非常に重いペナルティを事実上架せられるにも関わらず、この問題は徹底的に個人だけの問題として捉えられ、社会構造の問題として解決の俎上に乗せられることは少なかった

「つながる電話」プロジェクトの立ち上げ

このように支援の中で「電話番号」を失っている方が続出しているにも関わらず、具体的にとれる選択肢が少なく悩んでいたところ。
4月の後半だったと思うが、さまざまな「にんしん」に関わる相談対応をおこなっているNPO法人ピッコラーレの代表・中島かおりさんがご自身のFacebookに、
「今、ピッコラーレで支援している妊婦の方が携帯電話を持っておらず、緊急性が高いにも関わらず医療機関や福祉への連絡に支障が出ている。この課題をなんとか解決できないだろうか?」
という旨の投稿をされた。
それを見た私が、
「いや、ウチもですよ。なにか解決方法が考えられないですかね?」
とご連絡。中島さん(ピッコラーレさん)とは別の支援スキーム(東京アンブレラ基金)で以前からご一緒しており「じゃあ、この問題も一緒に考えましょう」ということになった。

そこでご紹介されたのが合同会社合同屋・CEOの八木都志郎さん。
八木さんはコンタクトセンターや小規模なIoTサービスなど幅広く開発されている方で、NPOを通じての社会課題解決へコミットされており、ピッコラーレやNPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむが使っているWEBコールセンターシステムなども手がけていらっしゃった。

すぐに中島さんと八木さんと私でミーティングが設定され、八木さんから電話番号発行した上でのデータ通信による通話アプリとシステムについてご提案をいただき、アプリの試作からテストまで一ヶ月足らずでおこなっていただくなど、とんとん拍子でプロジェクトが進んだ。
また、早い段階で回線をお願いする通信会社の方々をご紹介頂き、本プロジェクトの趣旨をご説明し、回線調達についてご相談することが出来た。

実は八木さんのことは、以前から存在だけはうかがっていた。
2018年5月(個人的に尊敬している)伊藤次郎さんが代表を務める、検索連動広告を活用した自殺予防の相談活動で著名なNPO法人OVAが「支援をとどけるための工夫」をテーマとしたイベントを開催され、私はのこのこと一般参加したことがあった。

そこに中島さんが登壇されていて、当時から稼働中(稼働したばかり?)だったピッコラーレ自主開発のWEBコールセンターについての発表があった。

この時私は、このシステムが(どこかのパッケージではなく)自主開発だということに驚き、質問タイムに、
「こんな風にNPOも、牧歌的だったかつて違って、エンジニアの力が必要だったり、それをお願いするための人材や会社、そのための費用などが加速度的に高度かつ高額になっていく傾向があると思う。こうした中で、御団体はどのように本システムを実現し、また今後についても対応していこうとしてるのか?」

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このピンボケ気味の質問に対し、
「今回導入したコールセンターは、切実に必要なものだった。ただ、一般的な会社と比べて予算も限られている。そんな中『誰か助けてくれませんか?』といろんな人に助けを求めたら、今回開発して下さった方にご縁が繋がった。だから、それが社会にとって必要なことで、真剣にヘルプを求めたら、困難な課題でも手を差し伸べ、一緒に解決してくれる方が現れると思っている」
との旨を笑顔で答えてくださった中島さん。

それを聞いた当時の私は感銘を受けたものの、内心
「そんな人都合良くいるかなー、いないよなー」
とちょっとだけ腑に落ちなかったことは正直に吐露しておきたい。
(結果として、私は間違っていたわけだが)

だから今回、まわりまわってその八木さんとプロジェクトをご一緒できることがとても嬉しい。

資金的には、本年度の運営については大変ありがたくも「新型コロナウイルス感染症:拡大防止活動基金」様の第3期と「みてね基金」様の第一期 2回目からご助成をいただくことが出来、本人負担をいただかない支援スキームとして当座の目処がたった。

「SMS認証必須」という見えづらい社会的排除

以上のような座組で「つながる電話」は稼働し続けている。関わってくださり、力を貸してくださっている方々には本当に感謝しかない。
冒頭でも触れた通り、

⑴現在携帯電話がない(あるいはまもなく失うことが確定している)方で、電話があることによって仕事を得ることが可能になる方
⑵現在携帯電話がない(あるいはまもなく失うことが確定している)方で、電話があることによって賃貸の契約が可能となる方
⑶現在携帯電話がない(あるいはまもなく失うことが確定している)方で、電話があることによって医療機関や支援団体と円滑な連絡が可能となる方
⑷その他、現在携帯電話がない(あるいはまもなく失うことが確定している)方で、電話があることによってさまざまな社会資源につながることが出来る方

以上にあてはまる方なら、そのお申し込み希望者の継続支援を受け持つことが可能な各支援団体経由でお申し込み・お使いいただけるので、お気軽にご連絡いただきたい。申し込みは下記専用ページから。
(個人からの直接のお申し込みは、大変申し訳ないのですが現在のところ受け付けておりません🙇)

関東近郊の支援団体・支援機関だけでなく、一応関西の支援団体・支援機関も含めて地域的に全国広く対応していくつもりなので、是非ご連絡いただければ。

なぜ「伴走支援している支援団体・支援機関経由のみのお申し込み」としているかについては、もちろん身分確認などをある程度厳密にしつつ簡易に担保する意味もあるが。
一番の理由は「生活は完全に安定しているが、電話だけ失っている」状況というのがあまり考えられないからだ。

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「自力で電話契約の再取得が出来ない=過去にキャリアに対して大幅な滞納履歴がある or あるいはキャリアの与信に耐えられる身分確認が不可能」
などといった状況の場合、多くは現在も仕事や住まいについて困難を抱えていることがわかっている。
「今日、明日のお金はなんとかなっているし、電話さえあれば来週は仕事が決められる(はずだ)」
といった認識でご本人からご連絡をいただくケースもあるのだが、お話をうかがえば既に家賃を数ヶ月分滞納されているなど
「電話があればなんとかなる」
といった段階ではないことが、あまりに多い。

電話を失って困っている方は、どうか一度お近くの支援団体や社会福祉協議会、福祉事務所などにご相談して状況の整理をし、必要な公的支援などへつながってほしい。
(その段階で、それら団体経由で「つながる電話」をお申し込みされるのは大歓迎!)

本「つながる電話」については今年度だけでなく、出来れば長期に渡って「電話番号(通信手段)を失った方」を支える支援スキームとして継続していきたいと考えている。

一方で、現時点(2020年10月)の時点で、Apple IDの新規取得にはメールだけでなく、050以外の電話番号認証(音声・SMSどちらかでの)が必須となった。
まだLINEのように、完全に050以外の音声通話番号と「一対一」で紐付けられないからマシではあるが、Googleアカウントについても逐一電話番号による承認を求めるようになってきている。(こちらも「まだ」回避可能だが……)
また、Microsoftアカウントについても、同様に求められる状況がある。
このように、一般的なITサービスにアクセスするためだけでも、「つながる電話」(050番号)ではカバーしきれない状況がどんどん進行している。

もちろんセキュリティの面から仕方ない場合もあるのだろうが、見えづらいところで「社会的ID」を失った方が通信やITインフラから排除される場面は、今後増えていく一方なのではないだろうか。

サイボウズの青野慶久さんがマイナンバーについてエントリーを書かれていたが、

そのはてなブックマークのコメントに

「マイナンバーは携帯番号でよかったのでは。携帯番号取得時に本人確認を厳格にして、免許証や保険証を紐付けすればよかった」

とコメントされている方がいらっしゃった。社会的に「電話番号の失いやすさ」と、失った時に起こる社会的排除についての認知は、まだまだ十分ではないと考える。

足りないものは「まとまったお金」と「与信」

最後に下記、コロナ禍での緊急支援および電話支援を通じて気づいた「変化(するべき/した)」点を(くり返しになってしまう部分もあるが)二点だけ付け加えたい。

ひとつは「支援団体側」の相談体制が変化するべきだということについて。

今回のコロナ禍支援を通じて(改めてではあるが)痛感したのは、私たちの想定以上に
「生活にお困りの方ほど、通話可能な電話を失っている」
という事実だった。
にも関わらず、いわゆる「生活困窮者向けの相談受付」として開催されるものは「専用回線による電話相談」がかなりの頻度を占めている。
もちろん電話相談の全てを否定するものでは全くないが、公衆電話もどんどん撤去されている社会状況で、
「困っているなら、この電話番号に掛けてね?」
という枠組みを設定した時点である種の残酷さ・相当度の「SOSの取りこぼし」があることを自覚するべきだろうと(自戒を込めつつ)強く思う。

一方で、その解法としてよく挙げられる「LINE(相談)」にしても、実はアカウントに紐付いた電話番号を失い、承認が出来ず、アカウントが利用不可になってしまった方からのご相談もあり、体感でしかないがこうした方は増加傾向にある。
なので、こちらもいたずらに持ち上げることはせず結局は
「どの層にアウトリーチしたいのか」
を判断し慎重に選択するべきことに尽きるのであると思っている。

もうひとつは「相談者側」のニーズの変化について。
特にコロナ禍で出会う比較的若い方に接していて一番思うのは、本当に皆就労意欲が高く
「今すぐにでも働きたい」

と誰もがおっしゃって、実際に休む暇も惜しんで仕事を見つけてくる
もちろんそれ自体は本当に尊いことだと思う。

けれど所持金ゼロでコンタクトした緊急支援が完了し、継続支援として
「一度ここで落ち着いて、福祉制度を使って普通のアパートを先に借りてから、そこから通勤できるお仕事を探しませんか?」
という私たちの提案を振り切って、
「所持金ゼロだった緊急時には助かりました。先ほど仕事が見つかりましたから失礼します」
と遠隔地での寮付きの仕事につき、結果数ヶ月後に仕事がなくなり、寮を追い出され、また困窮のご相談連絡をいただく。
もちろんそうやって再連絡を頂いただけでもありがたいのだが、こんな時ご本人も、そして私達も、なかなかにいたたまれない感じになってしまう。

今の社会はいわゆるギグワークの勃興も含め、「今日・明日」の生活費を稼ぐこと、そのための仕事を見つけることについてはかなり容易になった。(もちろん年齢制限などの壁はあるが)

ただ、それ以上、たとえば「数ヶ月後」「一年後」も生活が成り立つかどうか、といったことについては、(一度困難な状況に陥った方は特に)本当に不安定になってしまった。

彼らに真に必要でニーズがあるのは「まとまったお金」と「社会的な与信」だ。
「まとまったお金」の代表的なものは、住まいの入居時にかかる敷金と礼金
こうしたまとまったお金の調達は、日本の社会保障制度ではほぼ「貸し付け」となってしまい、そうでない選択肢は生活保護以外ほぼない。生活保護に忌避感のある方は結果的に「住まい付き」の仕事を選択せざるをえない状況がある。

また「社会的な与信」については、アパート入居にかかる保証(人・会社)や、もちろん「電話回線の取得」もそれにあたる。
特に入居の保証(人・会社)については、親族のそれよりも保証会社による審査が優先されるような状況によって、過去の借金の有無やクレヒス(携帯電話の分割払もクレヒスだ)など、一度ひとつのもので与信が失われると、人生全体に波及し、取り戻すことが容易ではなくなっている。

このように「まとまったお金」と「与信」のニーズをいかに担保していくのか、公的・民間の枠組みを超えて支援を考えていく必要があると個人的に強く思う。

そういった切り口でいえば(敷金・礼金部分の)「まとまったお金」課題を解決するプロジェクトとして認定NPO法人ビッグイシュー基金の「おうちプロジェクト」がスタートしている。

そして私たちの「つながる電話プロジェクト」は、その(電話取得に関する)「与信」を部分的にだが解決しようとする試みといえる。

ぶっちゃけていえば「電話がない」ただそれだけで、個人がこんなに苦労するなんていうこと自体が本当にバカバカしい。それさえあればアパートに入り、継続した仕事も可能な方がそう出来ていないのは、完全に社会的な損失だろう。

本プロジェクトは、目の前のお困りの方へお力になることがもちろん一番の大事なのだが、出来れば今後「社会的IDとしての電話番号の喪失と、通信する権利」が社会的に議論が進むこと、そのための一助となればと考えている。

(とはいえ、それが今現在政治的なトピックとなっている「携帯電話料金の値下げ」といった形で実現するものではないとは個人的に思う。くり返しになるが通信インフラの所持が「社会的な与信」として機能していることを認識すること。そしてそれが個々の経済的・社会的な状況によって左右されることを避けるという観点が大事なのではないか)

その目標実現のため、もし通信会社や通信インフラに関わってる識者の方などからアドバイスやご協力をいただけるのなら、これほどありがたいことはない。
また、できる限りの情報交換もしてきたいので、お気軽にご連絡いただけると幸いである。

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