結婚詐欺
色々な解釈があると思う。
現金を騙し取る様な本当の詐欺もあれば、結婚して性格が大きく変わることも当てはまるだろう。
見た目が大きく変わること、これも詐欺の一つであるだろう。
「アンガールズ山根が荒川良々になった」
となれば、皆どう考えるのか?
時は今から10数年ほど前に遡る。
中性的ないわゆる量産型醤油顔の顔立ちは、自分の理想とする顔立ちからは程遠く、僕のコンプレックスな部分である。
待てど暮らせど髭が生えない。
どれだけ日が落ちようと顔に影ができない。
肌はどうしようもなく白い。
そして全く帽子が似合わない。
僕はもっとダンディになりたかったのだ。
そう、クリントイーストウッドの様に。
しかし、そのカケラの成分も持ち合わせていなかったから「せめて」という気持ちで、体格は維持し続けようと思っていた。
身長は182cm、体重は55kg、April77の27インチを履いた。
クリントイーストウッドにも負けない、スマートな体格、だけど顔は真逆。だから最悪だ。
だからこそ、少しでもダンディに見せようと、容姿には本当に気を使っていた。
原宿の有名な美容室で髪を切ってダンディな仕上がりになる様にしてもらっていた。
ヨドバシカメラのバイトと大学教授の支援バイト、ヤマザキの工場でいちごを切りまくるバイトなどで稼いだお金は、ポールスミスの洋服へと消えた。少しでも大人にダンディに見せたかった。
この様に全てを「見た目」に捧げてきた。
だが、何をしてもダンディになれることもなく月日が流れた。
そして、いつの間にか僕は就職し転職し結婚もし家も買って、子供も産まれていた。
もちろん髭なしの、ダンディとは真反対にいる子煩悩な父に成り果てていた。
気になる体重だが、この時はまだ大した事はない、たったの5kg増だ。
ただこの体重増加には原因がある。
妻だ。
一人暮らしをしていた時は、正直ご飯はなんでも良かったし、何なら食べないこともあった。
ただ、結婚してからというもの、3食の食事は欠かさず、そして栄養もきちんと考えられた食事になった。
おかげで、冷え性は無くなり5kgの脂肪も手に入れることができた。
ただ、肉体にも少しだけ恰幅の良さが出てきたから、少しだけダンディさは増した気がした。
そしてまた時は流れ、2年後、また5kg増加していた。
これにも原因はある。
妻だ。
一人暮らしをしていた時は、正直ご飯はなんでも良かったし、何なら食べないこともあった。
ただ、結婚してからというもの、3食の食事は欠かさず、そして栄養もきちんと考えられた食事になった。
おかげで、冷え性は無くなり5kgの脂肪も手に入れることができた。
ただ、肉体的にも恰幅の良さが出てきたから、ダンディに近づいたと僕は思った。もうすぐだ。
そしてまた2年後、もう1人子供が産まれ、僕はまた更に5kg太っていた。
原因ははっきりしている。
妻だ。
一人暮らしを…もういいか。
とにかく、5kg増えるほどご飯を食べた。
この頃になると流石に異変を感じた。
長時間歩くと何故か踵が痛くなるのである。
そして、ズボン。
April77なんてもはや妻に献上した。
僕は見る影もなく、そしてダンディからはかけ離れファストファッションに手を出した。
しかしまだLサイズ、余裕はあると感じた。
そして現在。
僕は86kgとなった。
ファストファッションの中でも、とにかくゴムパンだ。
チノパンなんてもってのほかである。
食べた後に出る腹を考慮できない機構となっているズボンは、はなから相手にしない。
そしてサイズはXL以外受け付けない。
ダンディ?何だそれは、今は良々の時代だ。
え?ポールスミスはどうした?
僕が上半身に力を入れれば、今まで着ていたダンディシャツ達は、アニメの様にボタンが弾け飛ぶ。
そんなもの着れるはずもないからメルカリだ。
イーストウッドへの憧れだと?
それは今でも憧れている、憧れとこの磨き上げた身体は別腹というわけである。
ははは。面白いだろう。ポイントは別腹の定義だ。
そして、体格維持。
こんなことなど誰もができるものではない。
選ばれしものがデキる技であって、僕の様な凡人にできるはずがないのだ。
まとめると、わがままボディが完成した。
というわけである。
全盛期と比較すると、その差31kgだ。
30kgを超えるのはすごいことではないか。
自分で何故か誇らしくなってきた。
そのため、30kg越えのものがどうなるかを少し調べてみた。
宅急便を送れない
電動アシスト自転車より重い
一般人70キロ以下の人では持ち上げられない
ジャンプ100冊と同等
そして娘2人より重かった
引いた。
少し落ち着いた。
誇らしいものでないことだけは再認識するとともに、過去の行いを恥じた。
娘2人と妻を背負って社会で戦っているつもりだったが、実はもう1人くらい背負っていた。
そうか、どおりで肩の荷が重いのだ。
最近は肩こりが尚更ひどい。
そして、最近妻がこんなことを言っていた。
「前は旦那の写真を見せたら、カッコいいね、とか言われたんだけど、最近見せても、優しそう!すごい優しそう!としか言われない」
遠距離技で気を使われている。
そしてもう一言。
「結婚詐欺だわー」
泣いた。
いつの間にか犯罪に手を染めていたのだ。
妻のママ友にも、結婚式の写真と今の写真を見比べた結果、別人であると判定されたことがあった。
そして、妻に黙っていたがGoogleにもフォトの判定で、この人は別人ですか?と聞かれたこともあった。
もちろんどちらも同一であるのだが、極め付けは2ヶ月前のことだ。
高校時代からの親友とも呼べる男2人と久しぶりにランチをすることになった。
駅前集合であったが、僕は楽しみにしていたし、早く会いたいなという気持ちが溢れ改札まで行くことにした。
改札までは程よく距離があって、改札に向かう途中に、その男2人とばったりと遭遇した。
「ういっ!」
と片手ハイタッチの様子で2人を迎え、喜びを分かち合おうとしたが、2人はどういうわけか僕を避けて、パチンコの話を続けていた。
おかしいなと思った僕は、走って通り過ぎた2人の目の前にもう一度立ちはだかり、クマが襲うかの如く両手をあげ、
「ういっ!!」
と、2度目のういっ!をかました。少し強めだ。
周りから見たら明らかに不審者であったが、幸い通報はされていなかった。
ようやく視線をこちらに向けた2人が口を揃えていった。
「お前まさか〇〇か…」
引いていた。
あまりの体格の良さと、変わり様に顔認証が追いつかず、スルーするとともに異物として判定されていた。
そんな事件が立て続けば、さすがの僕も自分が詐欺師であることを認めざるを得なかった。
だから妻に自首をした。
「ごめん、痩せる気持ちはあるんだ、だけど身体が言うことを聞かないだけなんだ」
妻は何も言わずに僕を睨んでいた。
結婚詐欺には様々な解釈がある。
かく言う僕も詐欺師である。
しかしまだ諦めてはいない。
罪は償うことができるのだ。
だからこそ、毎日懺悔の気持ちが必要であるし、行動で示さないといけない。
だから僕は決意した。
明日から痩せよう。
いや、明日天気が良くて、自分の体調が良ければ運動を始めよう。
…いや、やっぱりキリよく来月からにしよう。
それまでしっかりと静養したいと思う。
僕は詐欺師にならない。
さて、ゆっくり寝て明日も在宅ワーク頑張ろう。
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