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偶然は必然~旅をするきっかけをくれた男~

二十歳の俺がヨーロッパを一人旅しようと思ったきっかけがある。自分探しだとかやりたいことを見つけたいとか、心の中にはあったのかも知れないけどそれらが主な理由ではない。ある1人の男に憧れたからである。

人生初の旅は19歳の時で、日本人の友達と1週間のカンボジア旅をした。そんな旅は刺激的であっという間で、俺達はいつの間にか余韻に浸りながら帰りの飛行機に乗り込んでいた。トラブルもあったがとてもワクワクした初めてのバックパック旅を終えてしまった事実を受け止めきれず、まだ心がソワソワしている状態だったのを今でも覚えている。座席に着き思い出の写真たちを振り返って見ていると、目の前の座席に座っていた欧米系のカップルが英語で喋りかけてきた。


「日本人ですか?」



急に喋りかけてきたので驚きが隠せず、戸惑いながらもそうですと返事をし、どうして知っているのか聞いた。

「日本語が聞こえてきたから。僕日本語が少しわかるんだ」


話を聞いてみると、2人はドイツ人。彼氏の方はアニメが好きで幼い頃から何年も日本語の勉強をしているらしい。彼らはアジアを何ヶ月もかけて旅しているカップルで、ゲラゲラ笑う彼女と冷静に話す彼氏がパズルのピースのようにピタッとハマり、とても仲良しな2人である。彼らもカンボジアでの旅を終えたばかりで、次の旅先がマレーシアなのだと言う。フライト中もお互いの紹介をして旅のエピソードを交換し合い、たくさんの話をして盛り上がった俺たちはタクシーを乗り合ってそれぞれ家とホテルに帰ることにした。そして次の日も俺が2人のホテルの近くまで行き、首都クアラルンプールを紹介することになった。


この男こそが、俺が世界を旅したいと思ったきっかけの男である。まだ世界を見ていない俺にとって、彼が話してくれる旅のエピソードはキラキラした俺が想像する旅のイメージそのものであり、彼が今まで出会った大人で一番カッコよく見えた。歳は自分と7つほどしか変わらないのに、なぜかとても遠い存在に見えた。仕事を辞めてバックパックを背負い、食も文化も気候もちがうアジアに飛び出し、トラブルがありながらも多くの出会いに恵まれ旅先で出会う人たちと時間を共有する。こんな素敵なことがあるか?この人が見ている世界は広い、この時そう確信した。一年間の留学は残り半年。これを終えたら、大学にはまだ行かなくていい、旅をしよう。日本に一度帰り働いて貯金をしてから、オレはヨーロッパの旅に出よう。


決めたら曲げない性格のはオレは留学後に帰国し、すぐにバイトを開始し、月に2、3日程度の休み以外は朝から晩まで働いた。早く行きたくて仕方がなかったので、3ヶ月で稼いで、それで旅に出ようと決めたからだ。この時はがむしゃらに働いていたので何も思わなかったが、今思うと相当過酷なスケジュールだったと自分でも思う。その期間で約80万円を稼ぎ、それを握りしめて旅をスタートさせた。(ちなみに旅の最後の目的地として彼の家があるドイツの田舎町を訪ねた。)



あの日あの飛行機でこの男と出会ってなかったら、俺は一人旅に出ていなかったかもしれない。出ていたとしてももっと先だったかもしれない。もし彼が日本語なんて勉強していなくて俺の存在に興味すら示していなかったら?もしあの飛行機でお互いがの座席が全く離れていたら?生きていく上で新しい人間に出会うことは当たり前のことかもしれないが、一つの出会いで俺の人生のレールの先がこの人によって敷かれた気がして、なぜか俺にとってはこれがとても面白くて、なんて言えばわからない感情になる。一つ言えることは、俺はこの偶然の出会いが必然だったと信じるし、全ての出会いが何かのきっかけで、それが自分を誰か、何かと繋いでくれる糸になる。旅をすればするほどこの一期一会を大事にしよう、どんどん新しい人に出会おう、と再確認する。



結局何言ってんだろう自分、の回

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