クリ物3タイトル入

クリスの物語Ⅲ #51 ウェントゥスの在りか

『それより、問題はこれからどうするかということね』
 田川先生の意見を求めるように、エランドラは先生の方を向いた。

 組んでいた腕をほどき、足を組みかえ先生はいった。
『そうね。まずお伝えしておくことは、他の都市で捜索されている方々も無事でいるわ。転移装置の攻略はまだできていないけれど、心配ないでしょう。闇の勢力も、ここエンソルゾーソ以外の都市に現れることはまずないと思う。それってつまり、上村君どういうことかわかる?』
 まるで授業中に名指しするように、先生はぼくに質問した。

『闇の勢力がここにしか現れないってことは、つまり、この都市にウェントゥスがあるっていうこと?』
『その通りよ』
 よくできました、というように先生は笑顔で大きくうなずいた。

『闇の勢力も風光都市のネットワークに侵入して古代の情報まで調査し、ウェントゥスがこのエンソルゾーソにあることは突き止めているわ。でも、この島のどこにあるかまでは特定できていないようね。
 それで、上村君たちのような選ばれし者をウェントゥスが入手される前に消してしまおうと考えているの』
 やっぱりそうか。沙奈ちゃんが予想していた通りだ。

『だから上村君たちはそうされる前に、無事にウェントゥスを入手してここから抜け出す必要があるわ』
 先生は膝に手を置き、身を乗り出していった。
『そのためのサポートはわたしとスタンでするから安心して。ウェントゥスを入手でき次第、無事にアダマスカルまで送り届けましょう』

『あなたたちは、すでにウェントゥスの場所が特定できているのですか?』
 パオリーナが質問した。
 田川先生は顔に笑みを浮かべた。
『ええ、ほとんど特定できているわ』
『え、そうなんですか?』
 驚くぼくにうなずき返すと、先生は背中に背負っていた剣を取り出した。
 その持ち手の部分には、ぼくの短剣と同じようにルーベラピスがはめられている。ルーベラピスは、かすかに光を放っていた。

 ぼくは自分の短剣を見た。
 でも、ぼくのルーベラピスはまだ反応していない。
 というより、先生の剣はぼくの短剣と大きさは違えど、まったく同じデザインだった。
 これは、ファロスの持っていた短剣と同じものをソレーテが鍛冶職人に作らせたものだ。
 そもそもファロスは、父親から形見として受け継いだものだった。
 ファロスの父親が地底世界で手に入れたらしいから、その当時の地底都市の鍛冶職人にデザインされたものなんだろうけど、もしかしたらそんなに珍しいデザインではないのかもしれない。
 現に、先生はぼくの短剣を見ても特に気に留める様子もなかった。

『ウェントゥスは、ここシャーラアシムの先にそびえる山“ソエンゾ山”の中に眠っている可能性が高いわ』
 杖のように剣を突き立て、うしろの方を指差して先生はいった。

『ソエンゾ山には、直接たどり着くための転移装置はない。ここが一番近い転移装置よ。だから、ここからソエンゾ山までは歩いていく必要があるの。といってもそこまでは3㎞もないわ』

 3㎞。大した距離ではないか。
 というより、エランドラやスタンにシェイプシフトしてもらって、ドラゴン飛翔してもらえばすぐに着ける。そう思ったら、先生が首を振った。

『ドラゴン飛翔は目立つからダメよ。ずるはしないで歩いていきましょう』
 先生はそういって立ち上がった。
『それでは、みんな準備はいい?』

 ぼくたちは、顔を見合わせてうなずいた。
 沙奈ちゃんはどこかまだ納得のいっていない様子だ。
 でもしぶしぶというようにうなずき、立ち上がった。



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