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フードエッセイ

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これまで食べてきた美味しい料理を色んな角度から物語風に綴っています。
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記事一覧

学芸大学『世界一』おばあちゃんのニラ玉と思い出の小皿

その昔、東横線の学芸大学駅から徒歩3分ほどの場所に『世界一』という名の焼きとり屋さんがあった。日本一ではなく世界一。なんともだいそれたネーミングである。 いつだったか友人が気になる店があるというので「じゃあ行ってみよう」とこのお店に初めて訪れた。狭いバス通りの角地。入り口がそれぞれの通りにあって、それぞれの入り口に世界一という暖簾が掛かっていた。 暖簾の隙間からお店の中を覗く。 誰も居ない…。 恐る恐るガラスの引き戸を滑らせてみるが、建付けが悪いのか中々開かない。強引

葉山『あじ平』恩師の言葉と熱々あさりラーメン

逗子から葉山へ抜ける途中に『あじ平』というラーメン屋がある。私が小学生ぐらいの時からあるので、かれこれ40年以上も営業されている地元に根付いたラーメン屋だ。 このお店には忘れられない思い出がある。 第二次ベビーブームに生まれた私は、中学校でやんちゃ坊になった。周りがどう見ていたかは知らない。でも、自分自身は不良だとは思っていなくて、当時流行っていた『ビー・バップ・ハイスクール』や『湘南爆走族』などのヤンキー漫画をマネしているだけだった。タバコも吸ったし、お酒も飲んだ。喧嘩

〆はタコス『TACO BELL』のハードタコスがウマい理由

アメリカに住んでいた頃、深夜にお腹が減ると『TACO BELL』の一択だった。マクドナルドやKFCなどのファストフード店が閉まっている時間帯でも営業していて幾度となく通った。 勝手な推測だけど深夜まで働いているメキシコ人の需要を考えて遅くまで営業していたのだと思う。(違うか…⁉︎) 飲みに行った帰り(もちろん飲酒運転です)ドライブスルーで1つ39セントのタコス2つとメキシカンピザを頼む。会計をすませて家へ帰る途中、ホカホカの袋を覗き込み「〆はやっぱりタコスでしょ!」と心が

堺『ちく満』蕎麦と玉子と私

大阪の堺市に『ちく満』という蕎麦屋さんがある。十数年前、ここで私は不思議な蕎麦を食べることになった。 ある時、ニューヨークから一時帰国していた女友達と大阪で再会した。彼女は長いことアメリカに住んでいて、私が働いていたワシントンDCの寿司屋でアルバイトをしていたらしい。同じ時期に働いたことがなかったのだけど、仲間を通して知り合い、初めて会った時からウマが合った。 通天閣を案内してくれた後、昼ごはんをどこで食べようか尋ねた。 「なんしよ…?あ、ちょっと遠いねんけど、幼馴染が

祐天寺『とんこつ麺 砂田』Happyをくれたラーメンとおじちゃん

飲んだ帰り道に美味いラーメン屋があるとその人の人生はHappyだ!と、私は断言する。できればとんこつ醤油系だと尚更いい。 以前、住んでいた祐天寺の部屋から徒歩3分の場所に『砂田』というラーメン屋さんがあった。しかも、いつも行く居酒屋の帰り道にあり、とんこつ醤油系だったのである。 一杯飲んで帰る途中、このラーメン屋さんを見つけた。『こんな場所にあったっけ?』いつからオープンされていたのかは定かではないけど、店の前にはまだ花束などが飾られていたので、開店されたばかりの頃だった

駒沢『BOWERY KITCHEN』絶品パスタの味に導かれた記憶

なんとなくまた行きたくなるカフェってありませんか? 私にはいくつかあって、その内の一つが駒沢公園通りにある『BOWERY KITCHEN』というお店。 通っているというほどでもないけれど『今日どこ行こうか?』って迷っている時に必ず思い出し『お!? 最近、行ってないな。そうしよう』と10年以上前から、時たま足を運んでいる。 店内はオープンキッチンでシェフの姿が見えるのもいいし、店員はみんなオシャレなうえに対応が凄くいい。なによりもメニューが充実していて、いつも何を食べよう

下高井戸『Jazz Keirin』芸術的うどんに出逢った幸せな時間

随分前のことだけど、16~17才ぐらいの頃から弟のように可愛がってもらっていた兄ィから「元気にしている?今からうどん食べに行こうぜぇ」と連絡が入った。久しぶりに会いたかったし、予定もなかったので、京王線の下高井戸駅で待ち合わせすることになった。 「ハロー。しばらくだね。元気そうじゃん」 数年ぶりとは思えない軽い挨拶を交わすと、駅から徒歩数分の『Jazz Keirin』なるお店に案内される。なんでjazz?どうしてKeirin?そんでもってうどん屋さん?意味不明のまま数秒間

中目黒『なかめのてっぺん』感動の玉葱ホイル焼きと貯めたお金

「なかめの美味しいお店知ってます?」 そう聞かれたら、何処をおすすめするだろうか。チョイスがあり過ぎて、ひとつに絞れないが『なかめのてっぺん』という炉端焼き屋さんはベスト5に入る。ウマいのはもちろんなんだけど、この店にはちょっとしたエピソードがあるからだ。 「弟が東京に出て来たいみたいなんだけど、ここに住ませていい?」 当時、一緒に住んでいたルームメイトと部屋飲みしいる時に突然お願いされた。あまり広くなかったけど間取りは一応2LDKあり、リビングに手作りのバーカウンター

渋谷『アンカラ』忘れられないケバブの味と謎の家族

渋谷マークシティーの裏路地に『アンカラ』というトルコ料理屋さんがある。10年以上前に友人の勧めで訪れたのだが、この店の料理は何を頼んでもウマい。 まず注文するのが、ババガンヌージュ(茄子とごまペーストのディップ)やハイダーリ(トルコ風ハーブ入りクリームチーズヨーグルト)などが盛られた前菜である。ナンの様な自家製パンの上に乗せて食べるとビールが進む。 トルコ料理の代表ともいえるケバブはいつも盛り合わせをお願いする。牛肉やラム肉のいいとこ取りで、色んな味を楽しみたい人にはおす

浅草『一文』インプットされたねぎま鍋とエストニアの美女

『ねぎま』とは、どんな食べ物ですか?と聞かれれば現代の人の92%は焼き鳥を思い浮かべるはずだ。しかし私を含め残り8%の人は迷わず鍋と答える。いや、もし江戸時代に同じ質問をしたら92%の人が鍋と答えるのではないだろうか。 数年前の私だったら間違いなく鍋とは思い付かなかっただろうが『浅草 一文 本店』へ訪問してから『ねぎま』は鍋である。いや鍋でしかない。焼き鳥であるわけがない。というデータが頭の中へ完全にインプットされてしまった。 『一文』へ訪れるきっかけはアメリカの女友達か