個人出品が増加する古書市場―読書月記45

(敬称略)

8月終わりぐらいから、蔵書整理を始めた。終活まではいかないが、リタイア後のことも考えてのことで、7~8年かけてのことになりそうだ。基本的には4~5割程度の本を処分するつもりだ。
蔵書整理については、3年前の「読書月記番外編」でも触れているが、基本的に今回も売るのは「ヤフオク」「ブックオフ」「日本の古本屋」になる。個人出品先としては「メルカリ」もあるが、購入先としてはいいが、固定価格なので値付けが難しい部分もあって今回はスルーした。今のところ、「ヤフオク」一本である。「ブックオフ」に売る予定の本もあるが、ある程度溜まらないと効率が悪いので、まだ時間がかかりそうだ。「日本の古本屋」はさらにその後ということになる。

売るのが難しいのは、全集やシリーズもの。ばら売りすれば、そのなかの数冊は売れるだろうが、残ってしまうものも出てくる。完全予約制以外の全集物は、初回配本に比べると、終盤部に配本された本の発行部数が少なくなることが多い。そのため、古書となった終盤部の配本の競争率は高く、価格も高くなりがちだ。特に、巻数が多くないのに、刊行の間隔が開いてしまうと、うっかり気づかなかった人たちもいて、揃いで持っていない人が一定の割合でいる。だから、ばらにすると、その辺りの本は売れやすいが、売れ残るものも出てきてしまう。
もう一つは、電子書籍の普及によって起きていること。今回売ったもののなかで、落札価格が電子書籍(kindle版)の価格の5~7割増しになったものがあった。もちろん、電子書籍は今回のように転売ができないために「資産」ではないのだが、「読む」という観点に立てば、あまり高価な紙の書籍を買うのは、どうなのだろうか、と疑問に思う。まあ、ここら辺は個々人の感覚や嗜好の差もあるので何とも言えないが、自分が何に重きを置くか、ということは考えるべきことだろう(私の場合、夏目漱石、森鴎外、柳田國男、折口信夫などの全集・選集は基本的に電子書籍に替えた)。一方で、紙の書籍にこだわる人が一定数以上いる限り、古本屋や新古書店の将来はどうなるか分からないけど、「古書」の価値が失われることはない(もちろん、どんな本でも古書として売れるという話ではないが)。
これに関連することは以前にも書いたがもう一度書いておきたい。出版社によっては、電子書籍がある場合、一部の書籍(マンガも含む)の増刷を行っていない。理由は、間違いなく在庫管理に関わるコストの問題だろう。電子書籍であれば、売れ残って、倉庫に積み上げられたまま、不良在庫になることはない。

今回、ヤフオクに出品するための「値付け」をしていく過程で、改めて強く感じたのは、従来の古本屋、さらにはブックオフなど新古書店の状況の厳しさだ。とにかく、私が売ろうとする本が、Amazonの中古、ヤフオク、メルカリにはあるにもかかわらず、従来の古本屋、さらにはブックオフなど新古書店にないことが多い。個人出品がとにかく増えている。理由は簡単で、手に入るお金が全く違う。
例えば、定価は別にして、古書として1500円(税込)で売れる本について考えてみる。これをブックオフに持っていけば、推測の域を出ないが450~500円程度で買ってくれれば御の字で300円以下ではないだろうか。ヤフオクでは商品1315円+クリックポスト185円と設定する。こうすると購入者から見れば最終的に支払うのは同額だ(ブックオフオンラインだと1500円以上は送料無料。※記事掲載後気づいたが、送料無料は1800円以上に変更されていた。ただ、他の部分も書き換えないといけなくなるので、このままにしておく)。この場合、ヤフオクで手元に残るのは1315×0.912≒1199円(販売価格の0.088が手数料で、送料は実費)。もちろん、写真を撮ったり、梱包したりと手間はかかるが、単純計算でも2~3倍は残る。あと、ヤフオクはクーポンを使えば、1000円以上だと200円割引になる(今はPayPay決済限定だが)。落札者がクーポンを利用するような人なら、200円上乗せして出品できる(これを予想するのは難しいが)。商品の状態が確認できないブックオフオンラインと確認できるヤフオク、代金が同じなら、消費者がどちらを選択するかは自明のことだ。

従来の古書店も、Amazonの中古、ヤフオク、メルカリで出品している。「日本の古本屋」に所属していても、「日本の古本屋」と同時にAmazonの中古などで売っているところもちょこちょこ見かける。そして、古書組合にも属さず、ネット上のみで売るという古書店も増えている気がする。また、ブックオフはAmazonの中古やヤフオク、ネットオフはAmazonの中古、もったいない本舗はAmazonの中古やメルカリにも出品している。さらに、HMV、hontoなども中古市場に乗り出している。そういった意味でも、上に書いたように中古市場は激戦だ。とにかく古書を仕入れないと勝負にならない。だからだろうか、新古書店などは恒常的に買い取り金額アップのキャンペーンを展開している。

もちろん、ある種の本は「日本の古本屋」が新古書店などに比べ入手しやすいのは事実なので、これからは棲み分けが行われるのかもしれないが、どの程度の古本屋がそれで生き残れるのか。東京の神保町、早稲田界隈あたりはともかく、地方ではかなり厳しいのではないだろうか。最近は「日本の古本屋」を利用することが少なくなったが、以前はよく買っていた古書店がなくなっていることに気づくことがある。この流れは、ある時期まで続くだろうと思う。
ただ、いずれにしても、ヤフオクやメルカリは強力なライバルになるだろう。

おまけで、今回の蔵書整理とは関係ないが、ちょっと面白いエピソードを一つ。
『ラブカは静かに弓を持つ』という本をメルカリで今年の春先に購入した。それをほぼ1か月後、ヤフオクに出品したのだが、カバーに傷みなどがあったので、購入金額の半額以下で出品した。ところが、それが初版第1刷だったため、落札金額が購入金額だけでなく、新品の値段を上回ってしまったのだ。正直、これには驚いた。ヤフオクで出品していても、時々「初版ですか?」という質問が来る。たしかに、初版に意味のある本は存在するが、そこにこだわる必要のない本が、今はほとんどだ。さらに言えば、第2刷以降の方が、情報が新しい場合もある。例えば、私は『南方熊楠のロンドン』の第2刷を読んだのだが、そこには第1刷後のことが書き加えられていたが、その典型だ。収集するのならともかく、読むためなら第1刷にこだわる必要はないと私は思っている。

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