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抗がん剤治療について知ろう!

国民の2人に1人ががんになる時代、ちょっと知っておいていただきたいお話です。抗がん剤治療は、手術による根治が見込める場合にその前後に行う補助的な療法、もしくは転移などによって手術による治療が困難な場合の延命・症状緩和を目的とした療法です。
大同病院 腫瘍内科の高山歳三医師が、丁寧に解説しました。気になる副作用についてもお話しています。(2024年2月7日配信)


抗がん剤治療とは?

イズミン まずは化学療法と呼ばれる、抗がん剤治療とはいったいどういうものですか?

タカヤマ 「がん」にもいろいろあり、よく耳にされる乳がん、肺がん、胃がん、大腸がん、前立腺がんといった臓器にできるもののほか、白血病やリンパ腫など、血液のがんと言われているものもあります。胚細胞腫瘍というような特殊ながんもあります。
 そのため、抗がん剤もいろいろなものがあり、少しずつ目的が違います。今日は胃がんや大腸がん、乳がんなど臓器にできる「固形がん」の抗がん剤治療について、一般的なお話をいたします。

タカヤマ がん治療の基本として、がんを根治させる、完全に治すことができる治療は、手術によってがんを物理的に完全に取り除くことです。
 では、抗がん剤治療はどんなときに使用するかというと、大きく二つの目的があります。がんを治すためと、もう一つは延命・症状緩和です。

がんを治す抗がん剤治療

タカヤマ がんを治すことを目的としたものを「補助化学療法」といいます。これは、がんが見つかった時点で、手術で取り除くことができると判断された方、もしくは手術で取り除くことができた方へ行う抗がん剤治療です。期間は、がんのタイプによって異なりますが、手術の前に行ったり、後に行ったりします。治療期間は数カ月のものもあれば、数年にわたるものもあります。

イズミン あくまで手術ができるっていうことが前提になるんですね。

タカヤマ そうです。補助化学療法の目的は、がんの術後再発の可能性を少しでも低下させることです。多くのがんの場合、術後に再発してしまった場合は、残念ながら、がんを完全に治すことが難しく、その後の生涯を、がんとともに過ごすことになります。
 そのため少しでも術後再発の可能性を下げようと考えます。補助化学療法は再発の可能性を下げる大事な治療ではあるのですが、全ての人において有益な治療ではありません。また副作用も伴いますし、お金もかかります。通院の負担など、社会的な影響も当然出てきます。そのため患者さんそれぞれのお考えや状況に応じて、実際に補助化学療法を受けるかどうか、主治医と相談する必要があります。

延命・症状緩和を目的とした治療について

イズミン もうひとつの延命・緩和の化学療法はどのようなときに適用されるのですか?

タカヤマ これは、がんの発見時に既にがんが広がっている方、具体的には、元々がんができた臓器、例えば胃がん、胃がんなどの元々できた臓器から、違う臓器、肝臓とか肺とか、全く違うところに転移してしまい、手術で取り除くことができない方などを対象としています。同様にがんが大きくて、隣の臓器に浸潤、すなわち、がんが広がってしまっていて手術ができない、切除不能と言われる方、あるいは、術後再発した方への抗がん剤治療です。

シノハラ この場合の目的はどんなことになるのですか。

タカヤマ こうした状況の方は、残念ながら、この先の生涯をがんとともに過ごしていくことになります。なので、治療の目標は、がんがこれ以上、増大・増加することをとにかく抑えて、率直な言葉で言えば「寿命を延ばす」ということを第一の目標にします。

イズミン 痛みを取るといった目的もあるのですか。

タカヤマ それも大事な目標です。診断時にあるがんの症状、すなわち痛みや、消化器領域のがんでいうと、食べにくい・食べれないといった症状を、抗がん剤でがんを縮めることで和らげ、大事な時間を少しでも快適にできるようにということも目標になります。

シノハラ 治療期間はどうなりますか。

タカヤマ いつも患者さんにお話するのは、抗がん剤の効果がちゃんと表れていて、使用できる抗がん剤があって、お体の調子が安定していて、体力もあって、副作用はどうしても出てはしまいますが大きな副作用なく、そして一番大事な条件としてご本人の治療意欲がある間、これら全ての条件が揃っている間は、生涯治療を行っていきます。逆に言えば、一つでも欠けると、抗がん剤治療は行なわないことになります。

イズミン やめるタイミングを見定めるのも、決断するのも難しそうですね。

タカヤマ そうですね。確かに治療をやることで、大事な時間を伸ばせる可能性、そしてがんによる症状を少しでも楽にできる可能性はありますが、一方で副作用や経済的・時間的な制約もどうしても伴いますので、抗がん剤治療を開始すべきかどうか、継続していくかは、本当に患者さんそれぞれのお考えを伺いながら考える必要があります。

副作用について

イズミン 抗がん剤治療を選択する場合の副作用について、伺っていきたいと思います。気分が悪くなる、体がだるくなるとか、髪の毛が抜けてしまうというのはよく聞きますけど、どんな副作用が起こるものなんですか。

タカヤマ はい、副作用もさまざまなものがあります。ご本人が感じる(自覚される)ものや、検査などをして初めてわかる(ご本人は感じない、自覚しない)ものと、大きく二つに分けられます。
 まずご本人が感じるもので、よくイメージされるのは、だるさ吐き気などが多いと思います。確かに多くの薬剤でそういった症状は出てきます。程度の差は薬によって変わりますが、近年ではこういった吐き気を抑えるお薬もしっかり開発されており、吐き気止めに関するガイドラインもあります。この抗がん剤を使うときには、この吐き気止めを使う、といったことが決められています。
 吐き気の程度の強弱もあり、どれだけ体が強い人も、この抗がん剤では絶対に吐き気が出るだろうといったものもあるので、そういう場合は最初から、とにかく強い吐き気止めをしっかり使いましょうという考え方が今は主流になっています。逆に吐き気が少ないお薬には、余分な薬は使わずに、対処しようという流れになっています。

イズミン そもそも吐き気って何で起きるんですか。

タカヤマ 吐き気にも、いろいろ原因があります。
 一つは、抗がん剤によって神経の中枢に作用するホルモンのようなものが刺激されること。あと結構多いのが、患者さんのなかに、これを使うと吐いてしまうだろうというイメージがあって、「予期性嘔吐」というのですが、その思い込みから吐いてしまうこともあります。実はそういう場合には、精神科領域で使う飲み薬を抗がん剤を投与した数日間に飲んでいただくとピタッと吐き気が止まります。欧米では、この方法は主流になってきていて、日本でも導入しています。

シノハラ 抗がん剤治療は奥深いですね。

タカヤマ はい。次にイメージされる副作用は、見た目の変化です。
脱毛や、薬の種類によっては皮膚に影響が出て、お肌の色がちょっと黒ずんできたり、指先などが乾燥してカサカサし、ひび割れてしまうこともあります。
 髪の毛が抜けることについては、お薬によってだいぶ違います。その薬を使ったほぼ全ての方で、髪の毛が完全に抜けてしまうものもあれば、全然髪の毛に関係しないものもあります。若干薄くなった、全体的にボリュームが減ったかなという程度のお薬もあります。

イズミン 抜けた髪は、元に戻りますか?

タカヤマ 抗がん剤の投与を終えて数カ月すると、徐々に戻ってきますが、その後も治療が続く方に関しては難しいところではあります。

イズミン ほかにはどんな副作用がありますか。

タカヤマ 感じる副作用としては、しびれ、手や足の指先の末梢神経障害や、聴覚異常、味覚に関する変化が出てしまう抗がん剤もあります。
 そういった薬剤を使用する際は、われわれのほうでしびれや聞こえや味覚などを評価する方法はないので、常に患者さんに副作用の状況を伺い、例えばあまりにしびれがひどいとか、もう耳の聞こえが悪くなってきているという際には、原因となる抗がん剤を無理に継続しないようにしています。

シノハラ 感じない、自覚のない副作用には、どんなものがあるんですか。

タカヤマ 主には血液検査や尿検査、レントゲンなど画像検査をしてわかるものがあります。例えば、血液検査でわかるものとしては、肝臓の機能が落ちてきているとか、腎臓の機能が落ちてきているなど、各臓器への負担が出てしまうことや、「骨髄抑制」といって、骨髄でつくられている白血球や赤血球など、血液を作る機能が落ちてしまうというものもあります。また、抗がん剤によって肺炎を起こす、ある種の抗がん剤では、気づかないうちに心臓の機能が落ちる、といったこともあります。極端なケースでは致命的な副作用が出てしまうこともあります。

シノハラ 気がつかないうちに、体の機能が落ちることがあるから、頻回にしっかり検査をしなければならないということですね。

タカヤマ そうですね。そのため抗がん剤を受ける患者さんには、血液検査や画像検査を定期的に受けていただいて、われわれは常に安全に治療できる状態かを判断させてもらっています。また、検査で異常がある際は、治療のお休みや延期などの判断をさせていただいて、とにかく患者さんに無理のないよう、安全最優先で治療を行っています。

イズミン やはり、がん細胞をやっつけたり、体の免疫のシステムをちょっと操作するような強いお薬を体内に入れることによって、他の機能も落ちてしまう可能性があるということなんですか。

タカヤマ はい、そうなんんです。

サポートについて

イズミン 化学療法をはじめ、がん治療では、患者さんにとって大変なことがたくさんあると思います。こういったことを、どのように先生方はサポートしていらっしゃいますか。

タカヤマ がん診療、抗がん剤治療については患者さんの人生、生活に直結します。われわれは常に最新の治療について勉強しながら、それぞれの患者さんに医学的に合った適切な治療を常に考えていますが、同時に患者さんやご家族の生活のことも考えながら、最善の方針を考えていくように心がけています。
 それには医師だけではなかなか答えを見つけ出すことは難しいです。患者さんも、医師には本音で話しにくいこともあると思います。

シノハラ 確かに、医師の前では言いたいことを言いにくいことがあるんだなと、僕も感じることがあります。

タカヤマ なので、患者さんに気になることがあった際は、看護師や薬剤師、あと抗がん剤は栄養とかにも関わってくるので、栄養士にも相談できるようにしています。経済的にも負担がかかりますので、そういう問題の専門家であるソーシャルワーカーや、お気持ちの変化などに対処できる心理士、そして各科の専門医の先生たちなど、それぞれのプロフェッショナルと情報を共有し、ディスカッションしながら、適切な策を考えて、そして患者さんとお話しながら答えを考えていくようにしています。
 当院には幸い、専門のトレーニングを受けたスタッフ、がん診療に精通しているスタッフが揃っていますので、心配なことがありましたら、主治医以外でも、話しやすいスタッフ誰でも構いませんので、遠慮せずにご相談ください。

イズミン 大同病院はがん診療拠点病院ですので、がんに関するさまざまな取り組みを行っています。大同病院にかかっていない地域の患者さんにも利用していただける「がん相談支援センター」というのも設置していますし、あとがん患者さん同士がお話できるサロン「ease」というのを2カ月に1度開催しています。

タカヤマ こうしたものをぜひ利用していただければと思います。


ゲスト紹介

高山歳三(たかやま・としぞう)
大同病院 腫瘍内科 医長、がん薬物療法専門医。
消化器内科医として、胃がんや大腸がんなどの検査・治療に関わるうちに、化学療法のエキスパートを志し、北海道の病院などで修行を重ねた。2023年春から大同病院へ。優しいものごし、丁寧な説明で、抗がん剤治療を受ける患者さんに寄り添う。
趣味は早起きと料理。シチューなどの煮込み料理が得意。


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