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大学生の発達障害~必要なのは理解し相談すること~

2016年4月に「改正障害者雇用促進法」が施行され4年が経過しました。この施行によって、大学や企業といった機関でも合理的配慮によって個別に最適化がされています。

一方で、少し前から『社会人の発達障害』が世論で問題となっています。とはいえ、社会人の方々は社会に出る前、つまりその大半は大学などに在籍しているわけで、本来ならば早い段階で気付く事が理想ではあります。

■調べるきっかけ

確かに大学に勤めていると、このようなお話もちょくちょく耳にします。とはいえ、『発達障害』は目に見えにくいことから、本人だけでなく家族、あるいは友人や大学等のスタッフも気付かずにそのまま卒業し、その後に問題の発覚。ということは十分あり得るのかもしれません。

ちなみに、厚生労働省が2017年に発表した「障害者者雇用の現況等」では以下のようなグラフになっており、発達障害者の1年後の職場定着率は71.5%と他の障害に比べて比較的安定しているとはいえど、やはり障害者と共に働き続けられるような職場づくりが重要とされています。

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これらの結果から、これから社会に出る(発達障害のある)学生とはどう付き合っていくべきか、あるいは理解する方法はどうすべきか、といったことを調べたいと思い、本書『大学生の発達障害』に出会いました。

読み進めていくうちに、『発達障害という自分の特性を知り、それを周囲も理解し付き合っていく社会こそが本当の意味での合理的配慮になるのではないか』というように考えるようになりました。

本書は、イラストもあって非常に読みやすい構成となっていました。気になる方は、ぜひ一度ご覧になってみてください。今回は、大学生の発達障害の特徴とその対策についてお話を進めていきたいと思います。

はじめに、独立行政法人国立特別支援教育総合研究所による「高等教育機関における発達障害のある学生に対する支援に関する研究」では、2007年5月に1230校の大学・短期大学・高等専門学校の323万5,641人の学生について障害の支援状況を確認しています。

この調査結果では、障害のある学生は5,404人で、そのうち発達障害がある学生は178人在籍していることが分かったようです。

わずか0.005%の割合ですが、この調査は診断書がある学生が調査対象であり、実態よりも人数が少ない可能性があると指摘されています。

なお、文部科学省が2002年に全国の小・中学校を調査した結果では、発達障害のある児童・生徒が通常学級に6.3%在籍していることが確認されているようです。

(どちらの調査も知的障害をともなわない発達障害について調べた結果)

これら結果から、著者らは発達障害に気づかれていない大学生がいると述べ、発達障害がある学生の特徴について以下のように説明がなされていました。

■悩みを上手く相談できない

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発達障害は、先天的な脳機能障害であり、それ自体を消すことはできません。ただし、優れている機能と劣っている機能が混在していることから、理解と支援によって、生活上の問題にならないようにすることができます。

①自閉症・アスペルガー症候群
・コミュニケーションをとることが苦手で、字義どおりに理解しがち。
・社会性に乏しく周囲に行動をあわせられない。
・想像力が十分に働かず教わったことの応用や変更が不得意。

②注意欠陥/多動性障害(AD/HD)
・多動性。授業中に立ち歩くなど極端に活動的。
・衝動性。行動や発言もよく考える前にしてしまう。
・不注意。注意力が散漫で忘れ物やミスが多い。

③学習障害(LD)
・読むのが苦手。一行読み飛ばししたりする。
・書くのが苦手。ひらがなや漢字などを書き間違える。
・計算が不得意。年齢相応の問題が解けない。

【対策方法】
医療機関での診断結果を大学側に提供するといったことも考えられますが、相談者本人もどこに何を相談していいのか分からない…といったケースもあるので大学内にある相談先が以下の通り簡単にまとめられていました。

一方で、担当部署名などは大学によって異なるので注意が必要とも思います🤔

【大学内の相談先】
①悩み事について
担当:学生相談室、保険管理センター
悩み事に広く対応。大学職員や臨床心理士などがいる。悩みは相談室、心身の不調は保健管理センターへ。

②生活・勉強
担当:学生課・教務課
大学生活の授業の悩みに対応。大学の決まりを教えてもらえる。単位のとり方も相談できる。大学職員や教員などがいる。

③進路・資格
担当:就職課、キャリアセンター
進路については就職課へ。資格の取り方、アルバイト情報なども聞ける。キャリアセンターという名称にしている大学もある。

④その他
担当:談話室、特殊窓口など
大学によって、さまざまな窓口がある。明確な相談がなくても利用できる談話室、学生同士で語り合うスペース、治療やカウンセリングが受けられる窓口、セクハラ専門の窓口。

【悩みを上手ずに相談するポイント】
①約束の仕方やあいさつ、敬語など、相談するときのマナーを学んでおく。
②話すことを事前にメモにまとめる。
③相談がうまくできなくても何度も話す。
④アドバイスをもらったら実践してみて結果を報告し、また相談する。

学生は、大学に通う時期に人間関係を学び、その中で自分らしさを知り、精神的に大きく成長し、社会に出てどんな仕事をするか考えます。

そのため、発達障害を理解しただけでは、自分の姿は見えません。特性だけでなく、自分の個性にも目を向け、家族や友人の意見もよく聞くことが有効と考えられているようです。

■勉強面での困りごと

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勉強での困りごとは、発達障害の方に限らず健常者でも十分にあり得ます。ただ、悩みを上手く相談出来ないといった特徴から以下のような事例があるようです。

①授業形態
・高校までは、座席が決められていたが、大学に入ってからは「座席を自由に選んでよい」という授業形式に混乱して、落ち着かない。
・高校までの暗記中心の勉強が討論・論文中心になり、より自主性が求められることから、それにとまどう。

②履修登録
・履修登録が理解できず、出席ミスをする。今は、インターネットでの履修登録機能で間違いを予め教えてくれるので減っているかもしれない。

③授業出席
・完璧主義のため、一度の欠席で傷つきやすい。

④講義準備・発表が苦手
・注意散漫となり、ついつい自分の興味のあることに熱が入り準備ができない。発表でも人の気持ちに配慮することが難しく口論になりがちに。

⑤課題期限を守ることが苦手
・スケジュール管理が苦手な一方で、好きなことには全力で取り組むため今やらなくてもいい事をやってしまうことも。

【対策方法】
例えば、③では、遅刻や欠席は何回まではしてよい、というルールをあらかじめ定めることもよい方法です。ただし、授業の1/3以上欠席した場合、テストを受けられないといった規程もあるので注意が必要です。

また、④の対応としては、発言の時間を定める、周囲の学生も理解してもらう、無理に共感させない、といったことが有効として考えられているようです。

■生活面での困りごと

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これまでは家族が管理をしてくれていましたが、例えば一人暮らしになった場合に『スケジュール管理』と『お金』が課題となるケースがあるようです。

①大学の用事が把握しきれず混乱する
・そもそも内容を分かっていないことに無自覚であること。
・何から着手すればよいか分からずパニックになってしまう人も。

②好きな事への没頭「過集中」が全般的な傾向としてある
・好きなことに過剰に思い入れある行動の裏には「安心感」を求めている。
・大学生活に不安を感じていて、その反動で趣味に集中する人もいる。

【対策方法】
例えば、①では、カレンダーに予定を記入することが重要です。今ならGoogleカレンダーなどでテスト期間や課題提出日を設定しておけば、リマインダー機能で通知されてきます。さらに、こういった情報を家族とも共有しておくことも有効な方法です。

②では、こういった傾向にあることを頭ごなしに否定しては余計にパニックになってしまうので、趣味の合う友人を紹介したり、興味のもてる授業を探したりすることも有効として考えられているようです。

さらに、こういった情報を事前に大学へ相談してもらえれば学生支援やゼミ活動において個人へ配慮がスムーズになります。

■就活・卒業でつまずかないために

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就活・卒業でつまずかないためには、個人の障害の理解に加えて情報を周囲とも共有し、サポート体制を整えていくことが最善の手段として考えられるようです。

①進路を一人で考えるのは難しい
・進路を考える際には、自己分析や適性のある仕事、あるいはやりたい仕事を考えます。しかし、発達障害のある学生は、その過程で自己評価がずれ、就職活動にスムーズに入っていけない特徴がある。

【対策方法】
ここで、家族や大学ができることは、個人の特性と向き合い、可能性を探ることです。

適職を探すには、特性への正しい理解が必要です。理解なしには目標設定も支援もできません。診断名の開示に抵抗がある場合は、特性を悩みとして伝達することが有効のようです。

また、就労支援でもっとも大切なのは「ジョブ・マッチング」。適性のある仕事を与え、そこに向けて支援をしていく方法。各種機関と連携をとれば、適性が分かる検査として、『職業適性検査(GATB)』や『職業興味検査(VPI)』なども実施できます。

このような発達障害の特性と向き合うことで、本人にとっていちばんよい進路が見えてきます。

■まとめ


以上、本書にある内容と個人の感想を交えながらまとめてきました。

とはいえ、やはり関係者全員で考えるといったことが重要で、本人や家族だでなく、医師や大学とも連携し支援の輪を広げることが大事であると感じました。

結果として、早めに準備が可能となり、早めに準備すれば職種の選択肢の幅も増やすことが出来ます。

ちなみに、明星大学では、支援プログラムとして、発達障害の診断がある学生のために「STARTプログラム」という支援制度があるようです。

ここでは、発達障害のある学生が大学に慣れ、人間関係を築けるように支援する仕組みのようで、集団行動の中で、ライフスキルや自己理解、そして仲間との出会いの場にもなっています。

ちなみに、

P24-25にセルフチェック用のリストがありましたので、私もやってみました。

その結果、学習障害(LD)の可能性があるとの結果が出ました。実際、前々から自覚はありました😅私は読書の際、1行飛ばしで読んでしまうこともあって、正直読書は非常に苦手です(特に縦書きが…)。

また、手書きでメモをする時も誤字脱字が酷く、後で読み返してみると「なんじゃこりゃ…」といったことが昔からありました。

そのため(当時と言っても大人になってからですが)、出来るだけPCやスマホで記録をするように心がけ、書籍も電子書籍に切り替えるなどしたら改善が見られました。あくまで、セルフコントロールにすぎないので、近く診断も受けてみようかと思っています🙂

最後に、

発達障害という目に見えない特徴を理解するには、『自然に』という形ではほぼ不可能で、やはり有効な手段は早期の理解、情報共有が重要と考えられているようです。

そのため、苦手なことや不安に思っていることは何でも周りに相談してみましょう。それは、大学生でいるうちに苦手なことを理解し、その対処法も学んでおいた方が絶対にいいからです。

私個人的には、発達障害という言葉は劣等感を与える言葉なのであまり好きではありませんが、自分の個性を知り・受け入れるといった経験は普通の人には中々できることでありません。

合理的配慮という言葉をネガティブに捉えず、学生でいる内に色々な経験をして、失敗して、周りにも相談して、また立ち上がって、そして自分という存在を受入れ・見つけ、社会へ巣立っていってほしいと思います。


最後までお付き合いいただき
ありがとうございました。
Twitterもやっています。@tsubuman8

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