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酒蔵見学レポート:鳥取県 源流どぶろく上代

自身の企画がいろいろな事情で発展し、結果として鳥取県の4つの酒蔵を巡るツアーとなりました。
そのうちのひとつ、源流どぶろく上代へ見学へ行ってきました。
今回はその様子をレポートします。
※今回のツアーでまわったその他の3蔵の記事は以下から!
揺らいで見るは酒の“向こう側”「久米桜酒造」

地元に愛されながらの新陳代謝「大谷酒造」

次世代へと受け継がれる酒造りと新たな試み「千代むすび酒造」

■イベント概要

名前は、上代(かみだい)と読みます。

2009年に鳥取県初のどぶろく特区に認定された伯耆町。米子市街地から車で30分ほどののどかな田園風景が残るこの町の地元住民によって同年に立ち上げられたのが、どぶろくを軸に地域活性化を目指すまちづくり会社『上代』だ。
自慢の美しい源流水とその水で育てた酒米で醸造される「源流どぶろく上代」は、13年に「全国どぶろくコンテスト」で最優秀賞を受賞したこともあり、時期によっては手に入らないほど県内外で人気を集めている。
だが内部では、経営陣とつくり手の高齢化などの問題によって、21年に廃業する話が進められていた。そんなときに新しい風が吹く。当時24歳の遠藤みさとさんが代表取締役社長に、26歳の請川雄哉さんが専務兼杜氏を承継することになったのだ。

上記リンクより

なんと、こちらの作り手として活躍される遠藤みさとさんが、僕も所属する酒小町のメンバーの一人なのです。

そんなご縁もありまして、今回見学に訪問する運びとなりました。

2012年に「どぶろく特区」を取得。全国で92.3番目あたりだったそうです。
実はどぶろく特区は全国でもかなりの数があります。

■現地の様子、雰囲気

軒先にある杉玉は、鳥取砂丘の東側にある、智頭(ちず)地域の杉を使用してカットしてつくられたそうです。

こんな地名も、現地に来たからこそ知れるというもの。

元を辿れば、地域活性化プロジェクトを元町長が発起人として立ち上げたのがスタート。当時の活動の一環にみさとさんは子供のときに知らず知らずのうちに連れてこられていたようで、そのことを覚えていたそうです。ただ、稲刈りしていたお米が酒米とは知らなかったようですが。(認識して参加していたのならそれは酒飲みのサラブレッドである)
その後、「地元のいいものがなくなってしまうのが悲しい」という気持ちから、いまの会社を継ぐことを選んだとのこと。

実際にこの醸造所がある場所は、元々は学校があった場所です。
二部(にぶ)は地名で、二部小学校福岡分校の跡地になります。平成21年(2009年)に廃校となっています。
事実、この地域に住んでいる、三十代くらいまでの年代の方は、実際にここの場所に登校し、勉強していた学舎、ということになります。
時代の流れと共に変わっていき、いまは地域活性化のために前述のどぶろく特区となっています。
なお、当初はおそばなども販売していたようですが、2024年3月現在では中止されています。そんな思い出がある看板も見受けられました。

そして、実際にどぶろくを製作されている醸造場へ。

入り口
P箱

間違いなく、過去に自分が訪問した酒蔵の中で、最も小さい場所でした。
いわゆるガレージのようなスペースぐらいとも言ってもいいのかもしれません。休日のお父さんが夢見る趣味部屋の延長線のような空間で、このどぶろくは作られています。そんな中でも、かなり上手な動線になっているようでした。

この米子市という地域にあった酒造が廃業になり、そこの機器を受け継いで使用しています。かつての酒造で作られていたと思われる銘柄が「眞壽鏡」。ますかがみ、というと、どこぞの新潟の蔵かとも思いますが、とはいえ、同じ表記で別銘柄、というのは他の例でも存在はします。山形県の菊勇(きくいさみ)神奈川県の菊勇(きくゆう)などが一例でしょうか。

原料として使用するお米は、どぶろく醸造だと通常だと飯米が多いところを、伯耆町産五百万石を使用し、精米歩合は50%にしているところがポイント。そして、同じ鳥取県内の境港にある千代むすび酒造にて精米してもらっています。

なお、日本酒として免許を取るには今の法律ではハードルが高く、その一因は製造量。
清酒の製造免許の取得要件には法律上、「最低でもこれだけの量を造ってくださいね」という最低製造数量があり、その製造場ごとに年間に製造する最低限の数量をクリアする必要があります。
この最低限の量、というのが、日本酒=清酒の場合は60kL(キロリットル)以上。
これをいわゆる石数(こくすう)で言うと、1石=180L=一升瓶100本分、なので、年間333本以上の一升瓶を出荷することが、最低条件になります。平たく言えば、この基準が現代に則していない、ということになります。
なお、この制限はビールと同量になります。ここからイメージしてみると、日本酒はビールと比べて一杯あたりで飲む量は少ないわけです。
市場での消費量が少なければ、製造量も自然と少なくなります。というより、そうせざるを得ません。売れる保証がないのであれば、製造をするにできないのです。なぜならこれは商売だから。
皆様は日本酒をビールの中ジョッキのように飲むことができますでしょうか?
それがまさに、この法的課題を表しているものです。

お米を蒸すためのボイラー
瓶詰め機
打栓機

このスペースです。機械でお米を冷ますような放冷機などはありません。棚に広げて手作業で冷まします。瓶詰め、打栓も当然ながら手作業です。
仕込みに使用するタンクは500Lくらいのサイズが3つほど。発酵期間は35日程度で、協会酵母を使用しています。

麹室も見せてもらいました、…が、あまりの狭さに驚き。
L字型の動線になっていて、大人二人が一辺から手を伸ばせば悠々と届くくらいの大きさしかありません。このスペースでなんとかしている現状を知ると、願わくば今後このスペースではいよいよ手狭になる、という嬉しい悲鳴が上がることを期待したい。

発酵中のもろみも見させてもらいました

蔵全体を見れば、どぶろくの醸造場だけあって、搾り作業(上槽)の機器がありません。結果として、よくある「ヤブタ」などはまったくもって不要なので、だからこその超コンパクト動線ができているのかもしれません。

一通りの見学の後は、造りに対しての思いを聞きつつ、実際に造られているどぶろくを試飲です。
どぶろくならではこそ楽しめる飲み方として、まずは上澄みの透明部分、その後瓶を振って混ぜたものを、それぞれ出していただけました。
ボトリングした商品の上澄みをとるだけでも相当数を開栓しないといけない
はずなのに、なんとも恐れ多い。

商品としてはアルコール度数によって大きく2つ分かれます。
『上代』という名前のものが、いわばフラッグシップ。度数は16%。
もう一つは『もろみ美人』でこちらはアルコール度数は8%。発酵日数を調整して(25日間)アルコール度数をコントロールしています。
糖がアルコールに変わるのがアルコール発酵ですが、タンクによって発酵具合が変わるのでそこは随時調整が必要です。
そして、クラウドファンディングのリターン品として作られた『AM』
ちなみに、AMシリーズのデザインは、これまた酒小町の所属メンバーが担当しています。
諸々の試飲をしつつ、濁酒とにごり酒の違い、火入れするとどうなるか、火入れの方法、甘酒の作り方、甘味の落とし方は加水すること、などの質問に今年2024年に27歳になる社長がスマートに答える姿を見ていると、どぶろく・日本酒の業界の未来の可能性を感じます。

今後どんなことをしていきたいか、地域への還元のあり方を思い描くビジョンマップを公開しています。なんとこちら、社長のみさんとさんが自ら手書きで書いたものです。Instagramにも公開していますので、ぜひご覧ください。

■飲んだお酒リスト

上代 源流どぶろく 生 上澄み
上代 源流どぶろく 生
上代 源流どぶろく 火入れ 上澄み
上代 源流どぶろく 火入れ
もろみ美人 上澄み
もろみ美人
AM 7 甘酒
AM 10 甘酒

精米歩合50%であるがゆえに、飲み終わった後に残る米粒が非常に丸いのですよね。
どぶろくでも味わいに重さがなく、雑味もない。
朝食として、おやつとして、小腹が空いた時のお供として、風呂上がりの一杯として、はたまた、アレンジとして料理のソースのような使い方としても、ぴったりではないでしょうか。

■終わりに

話を聞く中で、地域とともに育つ会社、ということを非常に意識していることがよくわかりました。
「自社の酒が売れればいい」という邪な気持ちではなく、蔵自身が所属するその場所・地域と一緒に成長・発達していきたい、という姿勢。これが上代という商品にそのまま現れています。
例えとして「トラックの人にパーキングエリアのように使ってほしい」、とおっしゃっていました。その台詞こそ、なんだか端的にこの意向を物語っている気がしました。
実際に、上代の目の前を通る道は、トラックの抜け道になっているとのこと。確かに、駐車スペースなどは元々学校であったこともあって応用可能だと思いますし、販売している甘酒なら、車の運転があっても飲めますからね。
2024年3月4日の週より、ECサイトができて全国で購入が可能になります。
一度はみなさんに飲んでほしいです。
どぶろくのイメージが変わるはずです。

ではでは。

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