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そろそろスケールしそうなサービスをはじめます

この記事は

1. データパイプライン事業
2. 本当に需要のあるプロダクトアイディアへ至る近道
3. コロナ禍の引きこもり中の出会いと事業モデルのヒント
4. 外部資金のいらない事業

といったテーマでこれから新たな航海に乗り出す自分の頭を整理する目的で書きました。最後にプロダクトマーケティングのおすすめ本も列挙しましたのでお楽しみに。

データパイプライン事業

相変わらずダメ元かつマイペースなのですが、そろそろスケールしそうな事業にフォーカスしようと思い、新しいウェブサイトを立ち上げました。

今やテクノロージーが売りなわけでない会社でも、データ解析は売上増や業務効率化に避けては通れない道。でも多くの会社はデータをひとところに引っ張ってくる時点のノウハウやコストで躓いている。そのデータパイプライン(*)を設計・実装・保守する部分をサブスクリプション形態でローコスト、安定的に実現します。

そういう事業で大きくなった会社はアメリカでも既にいくつかあります。グーグルに買収されたAlooma、ユニコーンとなったFivetran、上場企業に買収されたStitchDataなど。では何故いまごろデータパイプラインの事業などを始めようかと思ったかというと、ベンチャーキャピタルから投資を受けたプロダクトスタートアップがアプローチしにくいマーケットがあると確信するからです。

すでに聞き飽きたビッグデータですが、スノーフレークのIPOに象徴されるように今後も成長は続きます。入れ物となるデータウェアハウスをSaaS提供するマーケットも2019年の14億ドルから2030年までに238億ドル(CAGR29.2%)に成長するという試算もあるそうです。同時にインダストリーに関わらず、営業はセールスフォース、マーケティングはハブスポットなどと、オペレーションの各局面でクラウドサービスに依存する企業は増え続けています。

自社オペレーションや顧客の全体像を掴むためには、依存している各クラウドサービスからデータをひとところ(データレイク、データウェアハウスなど。便宜上、この記事ではデータウェアハウスとします)にまとめる必要があるので、上にあげたようなデータパイプラインサービス会社も急成長しています。これらの会社は、ユーザがコードを書かずとも、マウス操作でクラウドサービスからのデータをアプリケーションプログラミングインターフェイス(API)を通じてデータウェアハウスに接続し、以降自動継続的にデータ複製を行います。いわゆるノーコードソリューションです。ただし、各種クラウドサービスへの接続方法やデータ形式がまちまちなので、このノーコードソリューションを提供するにはコネクタと呼ばれるプログラムをサービスごとに用意する必要があります。

SaaSトレンドで、クラウドサービスの数自体も急成長、それに付随したAPIの数も爆発的に伸びているのは、APIテストプログラムを提供するPostmanからのレポートからも明確です。 

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誕生するSaaS企業の数は2017に一旦ピークを打ったかのように見えます。しかし、APIの総数ベースで考えると、ユニコーンのFivetranでさえコネクタ数がたったの150未満と、対応が追いついていないというよりも、そもそもメジャーなクラウドサービスにコネクタを限定しないと成り立たないモデルなのだと思います。

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(出典: The Rise of Software as a Service (SaaS) )

結局、SaaSやクラウドサービスはどんどんロングテール化するのだと思います。それに接続するデータパイプラインもロングテール(下図の青い部分)、つまりメジャーでないアプリケーションへの接続は、それを必要とする者が個別にデータエンジニアを雇って作るという状態なのだと思います。ここが今回の狙い目です。

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某巨大SNSのデータエンジニアリングの仕事をしてみて分かったのは、そういうテック大企業でもデータパイプラインを継続的にモニタリングをして障害にそなえるのに一定のコストを払い続けているということです。一旦、パイプラインを委託開発して納入されたらハイ終わりという訳には行かないのです。だから保守契約、もっと外部化すればサブスクリプションがなじむビジネスだと思います。さらに一旦データがつながると、データ自体の必要性がなくならない限りキャンセルしにくい。誰も水道を止めたくないのと同じ理屈です。ちなみにアメリカでは州によって水道や電気の提供サービス会社が同じインフラの上に複数乗っかっている場合もあり、料金プランによって他へスイッチすることも可能です。データパイプラインの場合、オーダーメイドで設定したものを他社へ移行するコストを考えるとスイッチしにくいだろうと思います。

コネクタにあたる部分のプログラムのオーダーメイドを効率化して、データ複製タスクのスケール化を実現すればサービス・プロダクトのハイブリッドモデルで大きくなる事業をつくることは可能だと考えています。パイプラインの実行は、ジョブ、APIキー、セキュリティ、ログ、アラートなどなどパイプラインのロジック以外の、いわゆるオーケストレーション部分の工数が大きいのが特徴です。個別開発の場合、これらのコストはその都度起こるのですが、サービス化することでオーケストレーション部分の工数を大幅に削減することができます。

以上がざっと考えたことですが、考えているだけでなく、スケールは小さいものの、過去2年、このサービスでしっかりとお金を頂いています。今回のウェブサイト立ち上げはデータパイプラインサービスを独立させ、より多くのお客様にサービスを利用してもらうという話です。

* データパイプラインには機械学習アルゴリズムを高度なデータ処理をするタスクを埋め込んだりもしますが、今回はいわゆるETLもしくはELTというデータを抽出(Extract)してデータウェアハウスに格納(Load)、その前後で一定の整形(Tranform)を行い分析業務の準備をする部分にフォーカスしています。

本当に需要のあるプロダクトアイディアへ至る近道

少し角度を変えて、ここに至った経緯も書いてみようと思います。 

2017年に草創期から6年間勤めた勤めたスタートアップを退職し、ANELENをデータサイエンスコンサルティングという形でスタートしました。それについては、「プロダクト人間がコンサルをやってる理由」というブログでも書いたとおり、そもそもコンサルティング業務は、芽の出そうなプロダクトもしくはサービスアイディアを磨くプロセスという位置づけでした。

当時は、ほとんどの人、特にプロダクトを作っている起業家や投資家の方々には「ああ、コンサルなのね。」と軽く流されたと思いますが、私の頭の中ではこれが本当に需要のあるプロダクトアイディアへ至る近道だと考えていました。

実在する問題を見つける確率をあげるには、痛みを抱えている人と会うことです。コンサルタントとして、私は問題が解決するならお金も払う、という人々と出会います。私は彼らを助けるために大きな努力を払います。自分の仕事に対し、フィードバック受け、時にはダメ出しをうけることもあります。しかし私はより良い解決策をもって必ず戻ってくる。そうして人々の笑顔を見れたとき、自分の仕事がどのくらい価値があったかを知るのです。その繰り返しから、同じソリューションを待ち望んでいる人々が世の中にもっといる事を学ぶかも知れません。

「プロダクト人間がコンサルをやってる理由」

データというテーマで複数のクライアントへのサポートをして分かったのは、下の3段ピラミッドのように、下からデータインフラを整える際の悩み、データを整理する際の悩み、そしてデータから価値のある情報を引き出し意思決定する際の悩みと大別できることです。そして多くの企業が最下段、つまりデータウェアハウスを立ち上げ、そこへデータを自動的に引っ張ってくる部分で躓いています。

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2019年にとあるSaaS企業が顧客になり、グーグルBigQueryを使ったデータウェアハウスの立ち上げとデータパイプライン構築の仕事を委託されました。納入後は保守契約を結ぶことに成功し、より多くのパイプラインの発注をもらい、売上が伸びました。メンテナンス業務を通じてノウハウの蓄積や自社開発ツールの開発をおこない、もっと多くの業務をこなす下地が整いました。

このように、コンサルティングを通じて、

1. お金を払ってでも解決したい共通の悩みを見つける
2. クライアントに一度届けた仕事を再利用できる形に持ってゆく
3. プロダクトやサービスとしてパッケージ化して売る

というプロダクトアイディアの醸成をしたわけです。この方程式があてはめるには、

a. 今はなくても、将来の自動化の余地が多いサービスを見つける
b. 知財など個別クライアントとの契約上問題にならない設計をする
c. 工数や時給でなくて価値ベースでクライアントと契約を結び、サービス化R&Dのリソースを確保する

などいくつかの条件をクリアーする必要があると思います。実際、当初集中したかったデータ分析業務は個別テーマにどっぷり浸かる労働集約型のサービスで、スケール化へのアイディアはそこからは生まれませんでした。なお上のモデルは、ビジネスツービジネス(B2B)のサービスで実行しやすいと思いますが、対消費者サービスでも応用できると考えています。

コロナ禍の引きこもり中の出会いと事業モデルのヒント

2020年の上半期はコロナの影響で、コンサルティング業務も複数のプロジェクトがキャンセルとなり、秋に新しいプロジェクトが始まるまでの間、暇になりました。対面での営業もできなくなりました。プライベートでは幼稚園やデイケアの利用も不可能で子供とずっと一緒だったので、数ヶ月はほとんど仕事をせず家庭に集中していました。出歩くこともない単調な生活に飽きあきしたころ、データパイプラインタスクのオーケストレーションをサーバーレスで実現するhandoffというソフトウェアを、これまでに作りためた社内ツールを統合・再設計する形で開発し、オープンソースプロジェクトとして公開しました。

同時に他の小さいプロジェクトも次々とオープンソース化しました。それぞれのプロジェクトをブラジルやネパールを含む世界各国からのデータエンジニアが使ってくれました。また、データエンジニアの集まるスラックやRedditのコミュニティで、困っている人を助けてあげました。そこから面白い会話が生まれました。高いお金を払って出向くビジネスコンファレンスよりずっと深いつながりを一瞬でつくることができたのです。

以上の経験から、ANELENのデータエンジニアリング事業はすべてオープンソースにしようと決めました。

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上図、赤丸で示したANELENのサービスを使う顧客はそれを囲む大きな円、つまりデータドリブンな企業群の一部です。それと交わるのが右側のデータエンジニアリングコミュニティ。当社サービスを支えるソフトウェア自体をオープンソース化することで、経済環境の違い等からANELENがビジネスという形で関係を築けない人々にも貢献できます。オープンコラボレーションから生まれたソフトウェアの改善は、有料顧客へのサービス向上というかたちで還ってくるというわけです。そして、オープンソース提供やコミュニティへの貢献で生まれた新たな出会いと信頼はANELENにとって貴重なユニークなマーケティングチャンネルとなるでしょう。規模はささやかですが、このオープンイノベーションモデルは、クライアント、コミュニティ、そして当社がwin-win-winとなるモデルだと思います。

外部資金のいらない事業

会社を立ち上げて4年以上経ちました。会社と言ってもクライアントへの仕事の納入はもちろん、ウェブサイトの作成、セールス、請求処理まで一人でやっていて、仕事が大きくなるとパートタイムで手伝ってもらったり、インドのオフショアのリソースを使ったりしているくらいです。ただ法人化しているので、心理面でも実務面でも税制面でもビジネスのあらゆる局面でフリーランスとは違う扱いを受けることができます。もう一つフリーランスと違うのは、上に書いたような事業化を常に意識して運営してることでしょうか。

会社を始めたときによくやる初心者ミスに、安易に人を雇うというものがありますが、同じことをしてしまった経験があります。その経験から、安定したキャッシュフローが生まれるまでは、人は雇わない方針に切り替えました。その代わり、テクノロジーをてこに使って、10人分くらいの仕事をする方法は常に考えて実行しています。そのおかげか、時間に柔軟性のある生活をしながら、4年間収入は伸び続けています。

Yコンビネータ出身スタートアップの草創期からシリーズC資金調達後までの6年、時に身を削るような思いで働いたあと、自分がビジネスを起こすときは外部資金を入れなくて良いビジネス計画を作ろうと考えたて作ったのが今の会社です。独立してから出会ったクライアントの中には、成長路線に乗り切れず取締役会にてVCからのプレッシャーから従業員の7割を解雇することとなったスタートアップのCEOもいました。

反対に自分は、成長へのプレッシャーや従業員の生活を守る責任がない状態で、自分らしい創造性を追求しながら小さい会社を盆栽のように手入れしてゆきたいと考えています。

その年のビジネスが順調にいっていることを確認したら、私は製品の発明を試みることもできる。もしくは自分の幼い子ども達の世話をしたり、魅力あふれる妻との朝食デートに時間を使うこともできる。フレキシブルな仕事のスタイルは、スモールビジネスのオーナーをしているすばらしい特典だ。

アネレン(Anelen)という名前は中英語(1100~1500年頃の英語)から取ったもの。火を起こすという意味がある。アネレンという法人はプロフェッショナルな仕事を通じて、人々に出会うエキサイティングな旅をするための乗り物だ。アネレンは私のビジネスと技術者としての側面を表現したアバターだ。そしてアネレンは外の世界へのポータル。

それは私が小さく、持続可能に、そして面白く常に手入れする盆栽なのだ。

盆栽のような会社

もちろん、テクノロジーを使ってより多くの人に役立つサービスを作ってみたいという願望もありました。今回、そういうテーマがようやく見つかったので少し頑張ってみようと思います。その際も自己資金で、マーケットがあることを確認するくらいまでは人は雇わずとも持って行けると思います。同サービスの既存の顧客が3年目の契約更新に入り、さらに売上を増やしてくれていることを考えると、満足度の高いサービスを提供する可能性は高いので、あとはプロダクトマーケティングとセールスの問題だと思います。プロダクトマーケティングとセールスについては会社やプロダクトのフェーズごとに集中すべきことがかなり違ってきます。

プロダクトマーケティングのおすすめ本

この辺について最近読んでいる本を上げてまとめの代わりにします。専門外のことでもビジネスの立ち上げに必要なことはこういう本を読みながら自分でやってみるのが好きなのです。

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Product Marketing Debunked by Yasmeen Turayhi - 200以上のプロダクトやフィーチャーのマーケティングを手掛けた著者が、プロダクト開発に全力になってしまいがちなファウンダーにマーケティング努力を並行するメリットと方法論を説いています。アーリーフェーズのスタートアップやファウンダーが俯瞰やチェックリストとして読むのに良い本だと思いました。

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Traction: How Any Startup Can Achieve Explosive Customer by Gabriel Wenberg and Juston Mares - DuckDuckGoというユーザーのプライバシーを尊重したサーチエンジンを開発してポピュラーにしたガブリエルウェインバーグらによる方法論。Product Marketing Debunkedと同様、マーケティング努力を初期から始めることを教えてくれると同時に、19のマーケティング手法から自分の製品にとって一番効果があるものを見つけ集中してゆくBullseyeフレームワークを解説したものです。マーケティングを専門とする人でも、ここまでチャンネルを広げて先入観を払い除けながらブレーンストームする人はなかなかいないだろうと思います。パーソナルファイナンスツールのMintを始め、ビッグになった製品を開発したファウンダーへのインタビューも多々盛り込まれて非常に読み応えがあります。

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The Science of Scaling - 最後はプロダクトマーケティングというよりスケールするプロダクト会社の方法論です。HubSpotの元CROでStage 2 Capitalというベンチャーキャピタルを立ち上げたマーク・ロバージによる無料のPDFブックです(リンク)。The Science of Scalingフレームワークは私がFivestars の草創期に体で覚えた事をしっかり言語化してくれていると思いました。基本精神を刷り込む上で必読だと思います。

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