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『舞台アクセル!!』の上演を終えて。

『舞台アクセル!!』の上演を終えて。


2023年8月27日に、『舞台アクセル!!』は無事に終演しました。
キャストが一人も欠けることなく、10ステージを走り抜けられました。
作者としては、すべてのスタッフキャストに感謝しかありません。

僕にとってもバイクレースを題材に物語を作るのは、初めてのことでした。
脚本家としてさまざまなジャンルの物語を作って来ましたが、バイクレース物は書いたことがありませんでした。
書き上げることができて、本当に幸せです。

バイクレースのドラマを書きながら、自分がものすごくレースというものを惹かれていることに気づかされました。
最初にバイクに触れたのは中学生の時で、高校時代はカブ号が僕の足でした。

当時からレースには惹かれていました。
そのきっかけは、中学生の時に浮谷東次郎の『がむしゃら1500キロ』を読んだことでした。
それは彼が中学生の時に50ccのバイクで一人旅をしたときのことを書いたドキュメンタリーでした。
そのアドヴェンチャー精神に、僕は奮い立ちました。
その後、彼は二輪や四輪のレーサーとして輝かしい成績を残す存在になったのですが、23歳の時に鈴鹿のサーキットで事故死してしまいます。
1965年のことです。
彼は日本のモータースポーツ創世記のスターの一人でした。

僕がレースというものを意識したのは、彼が書いた旅のドキュメンタリーだったわけですが、彼を知った時には彼はすでに亡くなっていました。
最初にレースを意識したときに、レースのすぐ側には『死』があるのだということを、僕は知ったのです。

モータースポーツは、さまざまな創意工夫により事故からドライバーの生命を守ろうと努力をしてきています。
それでも事故をすべて無くすことはできません。
死亡事故は減ってきましたけど、未だにゼロにはできていません。
今年も、有望なバイクレーサーが亡くなっています。

そんな危険な世界なのに、なぜ人はレースに挑みたくなるのか?
物語を書こうとしたときに、僕が考えなければならなかったのはそのことでした。

『死』と隣り合わせの世界。

レースだけでなく、それは他にもあります。
登山も、危険なスポーツの一つです。
安全に見えている日帰りの山登りも、ちょっとした気候の変化で、極めて危険なものになります。
ましてや世界最高峰を目指すような登山は、どこを切り取っても、生命の危険がともなうものです。

登山の他にもマリンスポーツなど、自然と闘わなければならないものには危険が必ず存在します。

そんなふうに危険が一杯の世界の中で、あえてその危険の中に飛びこもうという人間たちには、一つの特徴があると気づきました。

彼らはみな、その行為(スポーツ)が大好きなんです。
好きすぎて、それを愛している人たちばかりなんです。


愛してしまったがゆえに、それから離れることはできず、死ぬかもしれないという覚悟をもって、それに挑んでいるということです。

僕はこの物語を書くにあたって、事故の悲劇や、それを乗りこえる努力を描く前に、この『愛』を描かなければならないと思いました。

走ることへの愛。

それは、これからも一つのテーマとなっていくような気がしています。

今回舞台は終わったのですが、この戯曲に登場する人物たちに、ものすごく愛着が沸きました。

またいつか彼らに会いたいです。
今年は無理かもしれませんが、来年にはまた彼らの物語を紡ぎたいと思っています。


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