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スイカ割りをした日

連日最高気温35度以上だと思ったら
台風や夏の影響で強い雨や夕立があるから困る。

 
我が家はスイカを作っている。
スイカは雨に当たると割れてしまう。
雨予報に慌てた母は急いで収穫してきた。

 
「職場に持っていく?」

母が聞く。

 
農業に適量はないに等しい。
何かがなる時は自宅で食べきれないほど収穫できるし不作の時は逆もまたある。

昔から、たくさん野菜や果物が採れるときは
親戚や近所の方に配ったり
同僚に渡したり、職場に持っていったり、友達に配ったりした。

 
母はスイカが大好きだが
それにしても家で食べきれないほど採れた。

 
「じゃあ職場に持っていくよ。」

私は母に伝えた。
スイカだけでなく、トマトやナスといった夏野菜もたくさん採れたので
それらを紙袋に入れた。

 
私の職場は給食があるので野菜等の寄付は喜ばれるし
同僚に兼業農家はいないのもまたありがたかった。

 
前の職場は兼業農家も多く、また近所の方も兼業農家が多い。

我が家がとれすぎる野菜は
大抵他の農家さんもとれすぎて、野菜プレゼントは重複しがちだ。

 
持っていった野菜やスイカは喜ばれた。 

野菜が採れすぎてしまって、と話をすると
前施設長が「いただけるものはなんでも嬉しい。」と言った。

 
実はスイカを複数持っていかないかという話も母からあったが
盆休みに入る前だったし、野菜もたくさん持っていったからスイカは一つしか持っていかなかったのだが
スイカをもらえるならまだほしいと言われ
私は次の日に追加でスイカを持っていった。

 
「真咲さんからスイカをもらったから、明日スイカ割りをしましょう!」

話はあっという間に決まった。
フットワークが軽いのが転職先のよいところだ。

 
私が入職する前、やはりスイカ割りをやった時があり
その時はなかなか割れなかったらしい。
某利用者がチョップで割ったと聞いた。

 
どうせ割れないだろう。

職員みんなそう思っていた。

 
室内にビニールシートをひき
スイカを置いた。

  
手の空いている利用者や職員は新聞紙やチラシで棒を作り
私は別の作業担当だった為
作業が終わり次第利用者とスイカ割り会場に合流した。

 
スイカ割り会場からは早々と歓声が響いたのは聞こえていた。
割れないと言われていたスイカは、なんとあっさり二人目の方が割ったらしい。
目隠しをしないでやったから力を入れやすかったのかもしれない。

  
「安物のスイカだから、僕が叩いた時は割れなかった。」

利用者が悔しがりながら私に言う。

 
あれは私の母が作ったスイカだし
そうでないにしても安物だとかはあまり口にしない方がいいと窘めた。

 
利用者は慌てて「これは失礼しました!大変いいスイカです!」と言い直した。

 
女性利用者がスイカを叩く際は割れなかったので
やはり男性利用者の力故割れたところもあったのだろう。

 
まず全員が一回ずつスイカ割りをし
一通り終わったところで
希望者がもう一度スイカ割りを行った。

 
安物発言があった利用者は今度こそ、という思いがあったのだろう。

渾身の一撃と言わんばかりに
思い切り棒を振り下ろした。

 
ベシャー!

スイカは派手に割れた。いやもはやあれは爆発だった。

ビニールシートの外まで汁や果肉は吹き飛び
床やカーテンにはスイカ汁が吹き飛んだ。
クラッシュ。クラッシュスイカだ。

 
急遽大掃除になった。

床を拭き、カーテンを洗い、床を拭き、床を拭き、床を拭き、上履きを拭いた。

床のベタベタや上履きのベタベタはなかなかに強敵だった。

 
割った利用者はそれを見て気にしていたが
スイカ割りとはスイカを割るものだと慰めた。
悪いことは何もしていない。

 
割られていない方のスイカを切り
給食で出した。

赤くて、甘かった。

みんなが口々においしいと言い
お母さんはスイカ作りが上手だと褒められた。

 
実は私はスイカが好きではなく、家ではまず食べない。
家以外で食べる機会があったら食べるくらいなので
このスイカ割りの時に今年初めてスイカを食べた。

確かに赤くて甘くておいしかった。
私はそれにホッとした。

 
スイカは切るまで分からない。
まだ若いものもあるし、甘みが少ないスイカもある。

だからちゃんと赤くてちゃんと甘くてホッとしたのだ。

 
スイカ割りは相当楽しかったらしく
クラッシュさせた利用者は家でスイカを育てたいから種を持ち帰ろうと親に話し、窘められていた。
家でスイカをたくさん作ってスイカ割りをたくさんしたいという新たな夢ができたらしい。

 
もしも来年も私がここで働いていたなら
母がまだ元気ならば
来年もきっとスイカを持っていく。
そしたらまたスイカ割りをしようね。

 
みんなの夏の思い出を増やせただろうか。

楽しそうにスイカ割りをする姿や美味しそうにスイカを頬張る姿を見て
スイカを持っていってよかったと心から思った。

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