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ここで働く理由

「今度改めて“どうしてここに来ているのか?”を掘り下げていきたいと思います。利用者だけでなく、職員も。」

ある日新施設長が言った。

 
どうしてここに来ているのか。
どうしてたくさん福祉施設がある今、ここを選んだのか。

 
利用者Aさんはやりたい作業があるから。
Bさんは職員と話せるよう、忙しすぎる施設は嫌だったから。
Cさんは保護者の要望もあるだろう。

 
利用者に関しては
話せる人に関しては個別で聞いたことがある。

この施設を選んだ理由や良さを。

保護者とも送迎の時なんかに聞いたことがある。

 
私が思うこの職場の、転職先の施設の強み。

小規模な施設で小回りがきく。
行事や外出が多い。
運動の機会が多い。
作業で食品を扱っていない(売れ残った時や食中毒対策が大変。昼休みに販売が入るため、回すのが大変。早出がある………というのが私にとってはデメリット)。
自社製品作りだけでなく、下請け作業も行っている。

 
あとは、入職してから知ったのが
職員が穏やかで争いがなく、ベテランしかいないところ。多少誰か休んでも回せるだけの人材確保ができていること。

 
いいところはたくさんある。
だけど

 
私が何故ここに来たか。
面接を受けたか。

それはそんなに誇らしいものはない。

 
大好きで骨まで埋めるつもりだった施設で11年働いて
でも働けない事情ができて退職の選択をするしかなくて
割り切れないまま退職した。

 
復帰を諦めきれなかった。
でも転職するしかないとも分かっていた。
転職活動をしても大きな出会いはなく、されど内定はすぐもらえて、でも気に入った施設はなかなか見つからず
ズルズルと時は流れ
失業保険もやがて切れた。

 
母親から退職から一年以内には転職するように言われていた。
第一志望の某施設で入れ違いで求人を逃した時、迷っていた第二志望の今の施設の面接を受けた。

 
母親の後押しもあった。
母親が「こんなにいい条件はなかなかないよ。」と言って気に入っていたのだ。

 
私は前の職場にまだ未練はあったし
条件だけでは好きになれず、引っ掛かるところもあったから
内定をもらっても心から嬉しいというのはなかった。

 
結局は私がここを選んだのは
母親が決めたタイムリミットが迫っていたのと母親がそこを気に入っていたから、だった。

 
まだ働き出す前に私は「働いてみてもしっくり来なかったらすぐに辞めてやる。」と母親に言い放ったし
働き出して三日目くらいは
ここにいる自分が違和感でしかなく、嫌だった。

 
入職してから知ったことだが
私の前任者は三ヶ月で、その前の前任者は半年で辞めていたし
他の職員にしても一年以内に辞める人が続いた時期があったらしい。

 
引っ掛かりを感じていた私は退職する気持ちは分かったし
何故すぐに退職するか分からない今残っている人にも不信感だった。

 
小規模で独自の施設。

職員も利用者も誰でも働けるわけではなく
限られた人しか寄せつけない印象が私はあった。

 
なんとか私は三ヶ月、半年、一年と辞めずにもったが
それでも今の仕事が向いているかと言ったら向いていないと思っていた。

 
仕事が増えても、仕事を任されてもなお
三年目に入ってもなお
私より向いている人はいるという考えはあった。周りの人は向いている、と。

 
私と同時期に面接を受けた人がいたらしい。
その人より私はどこか優れていたのか、はたまた相手は辞退したのか気になりつつ
未だにその真相は分からない。

 
「真咲さんは人を安心させたり、話しやすい雰囲気を作れるという良いところがありますよ。」

新施設長は先日そう言った。

そう見られていたのかと思って驚いた。

 
普段私は上から褒められることよりも
ここをこうしたらいい、と直すところを言われる方が多いから。

 
「行事を企画してみんなの前に立ってイベントの司会進行をしたり、出店販売も向いているって前施設長も言ってましたよ。
真咲さんが販売するイベントは毎回売上が高いですし。」

あぁ、どうしてそれを本人に言わずに陰で言うのだろうか。

 
何故よりよくしてほしいことは目の前で言い
褒める時は陰でなのか。

 
転職するか迷っていた頃の引っ掛かりの一つがそれだった。
上が褒め下手なのは私にとって引っ掛かりだ。

口下手というか、人間関係下手なのだろうな、という印象は抜けない。

 
 
「どうしてここに来ているのか?」

 
もう戻れないから。
もう前の職場に戻れないから。

結婚の予定もない私は
働かないと食べていけないから。

穏やかな人間関係で過剰なストレスはたまらないから。
上も人格否定まではしないし、周りの同僚とも関係良好だから。

残業や休日出勤が少ないから。自由がきくから。

好きな業務があるから。

利用者の笑顔が好きだから。

 
挙げる気になればたくさん挙げられる。
良さは一つじゃない。

そうじゃないと三年目まで辿り着きはしなかっただろう。

今もここにはいない。

 
揺れる気持ちを抱えながら
忘れられない思い出や想いを抱えながら
今日も私は職場で笑っている。

働くきっかけは母親だけど
今ここで働いているのは母親だけが理由ではない。

その笑顔は無理矢理ではない。
心から笑う日が多いのは確かだ。

 
どんな理由であれ私はここを選んだし
施設側も私を選んだと思いたい。

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