小さい頃
土曜日の夕方は見るテレビが決まっていた。

笑点を見て、ちびまる子ちゃん、サザエさん、鉄腕ダッシュを見るのだ。

　
それが毎週日曜日のルーティン だった。

　
私は笑点メンバーが好きだた。
歌丸さんと楽太郎さんの掛け合いが好きだった。
二人がブラックジョークを言って
司会の円楽さんがたしなめるのが好きだった。
毎週たくさん笑いをもらった。

私が見ていた時代の頃
同じような気持ちの方は多かっただろう。
笑点は国民的番組だったし
メンバーは大人気だった。
中でも楽太郎さんと歌丸さんの人気はずば抜けていた。

　
私は大学を卒業した後
福祉の専門学校に通おうと思っていた。

その思いが強まったのは大学四年生の12月だか1月くらいで
私は慌てて専門学校の資料請求をしたり
見学に行った。

　
高校受験や大学受験は色々と見学に行ったり
第一志望校は強い志望動機があったが
専門学校はちがかった。

家から通えて
資格がとれたらいい。
二年以上は通えないから
二年生の学校がいい。

それくらいだった。

　
私の高校は附属高校で
福祉の短大なら推薦で学費免除に行けたのに
別の大学に進学し
また福祉の二年生の学校を探しているのだから
遠回りな人生だ。

　
私はとある専門学校に行くことにし、試験を受けた。
合格し、手続きが済んだのは大学四年生の2月末で
慌てて内定先を蹴った。

　
そうしたバタバタな中、入学した専門学校では
年に一回、レアな講義があった。

人間学である。

それはなんと、三遊亭楽太郎さんが担当だった。
楽太郎さんは、専門学校の客員教授だったのだ。

　
笑点が好きな私は迷わずその講義を希望した。
専門学校を決めた動機の一つが、楽太郎さんの講義だったと言っても過言ではない。

　
確か、その講義は冬だったと思う。

　
ギュウギュウの教室でジッと待つと
本当の本当に、三遊亭楽太郎さんがやってきた。

　
教室中どよめき、みんな喜びで笑顔で、惜しみない拍手で出迎えた。

　
楽太郎さんは、テレビで見る以上に男前で、カッコよかった。
私が覚えている服装では
ダメージジーンズに黒のシャツ、白いジャケットを着ていた。

　
とてもお洒落で、一見若者のような格好が
非常によく似合っていた。

　
楽太郎さんが担当していた講義は
人間関係や笑い、生き方に関するもので
時々クスッと笑ってしまうような面白さがあった。

　
私はつまらない授業だと内職したり、居眠りしてしまうこともあるが
もう一分一秒が夢のような時間で
目が離せなかった。

　
講義ではビンゴゲームもやって
笑点のグッズを生徒にプレゼントしてくれた時もあった。
笑点の目覚まし時計やお菓子などが景品で
私は紫の座布団カバーをもらった。

　
それは、笑点では定番の、みんなが座っているあの座布団カバーだった。
「山田くん、一枚持っていって。」の、あの座布団だ。

　
私は嬉しくて嬉しくて
家に持ち帰って自慢したり笑点ごっこをした記憶がある。

　
授業の最後も笑顔と拍手に包まれたもので
最後は見送りに行った。

　
挨拶をした後、颯爽と車に乗り、去っていく姿はかっこよくて、まさに芸能人で
みんなで立ち去る車を追いかけた。

　
楽太郎さんはにこやかに去っていき
そんな私達を見送ってくれた。

　
私は専門学校一年生と二年生で楽太郎さんの講義を受けたが
学校を卒業後は楽太郎さんに会うことなく福祉職員として日々を過ごした。

　
楽太郎さんは今まで通りテレビでしか会えない存在となったが
部屋にある座布団をチラリと見るたび
会ったのは夢じゃなかったのだと改めて思った。

　
個人的に話はできなかったけど
ほんの1mくらいしか離れた場所にいなかった。
楽太郎さんに会えただけで
私の人生は確かに輝きを増した気がする。

　
やがて楽太郎さんは円楽の名を襲名し
歌丸さんは亡くなり
メンバーも何人か入れ替わった。

　
時の流れや寂しさを感じたが
今の笑点は笑点で好きだった。

　
未だに楽太郎さんは私の中では楽太郎さん、楽さんで
円楽さんというと先代も同時に思い出してしまう。

　
今の笑点を見ていても
歌丸さんと楽太郎さんが隣で掛け合いをしていた時代を
ふと思い出さずにはいられなかった。

　
そんな中、2022年9月30日。

三遊亭円楽(楽太郎)さんが永眠したと速報で知った。
知った時、私はまだ仕事中だった。

　
肺がんや脳腫瘍だったのは知っていたし
テレビや雑誌で見る限り
あまり状態はよくないようだった。

　
だけど確か復帰をしたはず。
まだ本調子ではないだろうが
リハビリに励んでいたのだと思っていた。

　
ガクッと力が抜けた。

　
また一人
知っている芸能人の方が亡くなってしまった。

　
今頃
円楽さんや歌丸さんとあの世で再会しているのだろうか。
どうかゆっくり休んでください。

ご冥福をお祈りします。