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写真について

3月31日までに投稿すれば○ヶ月連続!
noteからの必死の訴えを横目に過ごしているとあっという間にもう4月。
別に連続が続いてたわけではないけど、また振り出しに戻ったと思うと少し悲しい。

3月はなんだか流れの速い川のように、なんなら奔流、いや滝のように過ぎ去っていった。押し寄せる酒の波に飲まれぬよう、二本足で踏ん張っていた毎日。少々飲み食いをしすぎたせいか、体重が新たな階級へと上がってしまった。当然、本を一冊も読了することはなかったが、ちょうど今さっき、少しずつ読み進めていた本が終わったので、その感想を少し。

卒論で出会ってからというものの、文体も温度感もその異常な知識量も、全部大好きな芸術批評家スーザン・ソンタグの著書『他者の苦痛へのまなざし』。本著は、代表作『写真論』に続く「写真について」の論考となっていて、主に戦争写真が存在する意味や目的、またそれが持つ負の側面などについてはっきりと批評している。この本の二章のある箇所で、写真の特徴(写真全て、また写真を撮る行為自体)について彼女が語っているのだが、それがとても的を射ているし、最近自分が考えていることと合致したので記す。

写真は主要な芸術のなかでただ一つ、専門的訓練や長年の経験をもつ者が、訓練も経験もない者にたいして絶対的な優位に立つことのない芸術である。これには多くの理由があるが、そのなかには写真を撮るさいに偶然(ないし幸運)が果たす大きな役割と、自発的で荒削りで不完全なものがよしとされる傾向がある。

素人が玄人に勝る可能性が高いわけではないが、技術や知識、そして経験を持ったカメラマンが、素人のカメラ好きに必ず勝るわけではない。ソンタグの文章はこう解釈できる。また、彼女はこの後に、写真に見られるこの特徴は、小説や音楽、絵画では基本的にあり得ないと断言している。確かに他の分野にも、訓練していないが故に偶発的に生まれる美があるかも知れないが、それは写真の世界に比べればごく僅かだろう。

じゃあなんでこんなことが写真には起こり得るのか。おそらくそれは「どこで」「何を」とるのかも、その写真の評価に大きく関係するからだろう。全くカメラ経験のない人間が、アフリカや北欧の秘境に行って絶景写真を撮ったとすれば、それはプロがとった街中の写真よりも高く評価されるかもしれない。また、人間の思わぬ表情や、偶然が産んだ奇跡的な瞬間を、例えば飲みの席で、もしくはパーティーの最中に撮れば、それはAdobeで何重もの加工をした写真よりも優れたものかもである。

音楽はどうだろうか。どこで音を録音するかは勿論楽曲に影響するが、それは写真のように明らかな形で我々に提示されるわけではない。録音した場所が日本だろうが、LAだろうが、ロンドンだろうが、結局は「録音された音」として聞き手に届くのであり、肝心なのは録音された内容である。音楽は、写真ほど過程と結果が一体化していないとも言える。
また偶然性の特質も写真とは異なる気がする。勿論音楽にも偶然性はあるが、それがソンタグが写真について述べるように、訓練なしに生めるかと言われればそれは怪しい。ライブパフォーマンス中に本人もびっくりするようなソロが弾けてしまった背景には、何回も同じフレーズを練習した膨大な時間があるのであって、決して素人だからではない。

ソンタグは偶然性と同時に、「自発的で荒削りで不完全なものがよしとされる傾向」も写真の特徴としてあげているが、これも賛成だ。
SNSなどで、個人の撮った写真が日々大量に投稿される時代で、単にクオリティの高い写真が高く評価される風潮はとうの昔に終わっていて、多少荒削りで、その人のパーソナリティや生活感が垣間見える方が素敵だと思われる傾向にあるのは間違い無いだろう。少し言い方は悪いが、素人が簡単に芸術家を気取れるのも、数ある芸術分野の中で「写真」が唯一なのかもしれない。偶然を味方につけることで、誰でも簡単に、そして技術なしに、自分の「らしさ」を作品に閉じ込めることのできる可能性があるからだ。勿論技術や知識、経験があったほうがその幅は格段に広がるが、それ以上にただのセレブが撮った一枚のフィルム写真の方が影響力が大きい。

お洒落っぽい人がこぞってカメラを持っているのも、お洒落になりたい人がとりあえずカメラを買うのも、自己の独自性だったり創造性をそこに求めるからなのかも。そう言うと多くの人を、また自分自身をも敵に回して自己嫌悪に陥りそうになるが…。それでも、いいなと思う写真は誰が撮ったなんて関わらず存在するよね!!

後半ただの愚痴みたいになってしまったが、自分が写真について思うことはまだまだある。時には広報の媒体として、時には芸術作品として、また時には記録写真として扱われる写真は、極めて不思議な立場にある。

追記:ソンタグの自伝映画はいつなんだ


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