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Old joy

気づけば日も変わり、今年のクリスマスも過ぎて行ったみたい。靴下を忘れたせいでつま先は常に冷え切っている。30分おきくらいにケトルで湯を沸かしては紅茶を継ぎ足す。一回のパックで何回飲めるのか。貧乏臭くてやだな。でも仕方ない。たった数秒だけで捨ててしまうのも可哀想だし。

少し短い映画でもと前々からリストに入れてたケリー・ライカートのold joyを流す。映画なんて適当に流すくらいの気持ちで観ればいいんだよな、特に暇な日なんて。

尺は80分ちょいで、ストーリーは極々シンプル。旧友が突然電話で「ちょうど近くまで来てるからキャンプに行こう」と誘ってくる。犬を連れ、男2人が車でどこかの山奥に行ってキャンプし、次の日山中にある温泉的な場所に行って帰ってくる。

友達がeBayでビジネスを始めたらしい。山も都会もどっちもゴミ溜めだ。あの看板何も書いてなかったぞ、もしかしたら異世界への入り口かもな。

たわいもない会話が続く。

yo la tengoのleaving homeが流れる。少し酔った様なギターの音が彼らを山に導くみたいだ。車窓に映る緑の景色。うっとりするほど綺麗な風景を収めようと、カメラのピントが前後する。カメラが揺れるのなんて関係ない。だってカメラも車に乗ってるんだから。

こういうのだよ。こういうのがいんだよ。軽く流すつもりで見始めたけど気づけば釘付けになっていた。

男のうちの1人はヒッピーっぽい風貌だ。多分家無しで放浪してる人だろう。

「民主主義の悪いところは…みんなが政治に参加してると思うところだ」

映画のところどころでラジオの音が聞こえる。

ケリー・ライカートは現代のニューアメリカンシネマみたいなロードムービーばっか撮る人だし、やっぱ政治的なメッセージもあるのかな。にしてもWANDAのバーバラ・ローデンにかなり影響受けてるのは作風からも伝わってくる。ロードムービーが好きなんだな。

ヒッピー男は繊細だ。社会に属するだけで他人の何倍もストレスがかかってしまう。その分自然の中にいると人より幸福感に溢れて見える。

この前すれ違った男とぶつかりそうになってな、罪悪感で死にそうになったんだ。

彼はマリファナを吸いながら犬の首元をさする。

もう1人の男は一般男性の象徴の様な男だ。別にヒッピーの対極にいるわけじゃないけど、お互い違う人種であることを何処となく理解している雰囲気。相性良い様に見えて不釣り合い。旧友なはずなのにまだ全然相手を知らない感じがした。
でも変に仲が良いよりリアルかもな。仲が良いと思ってる人にも知らないところは沢山あるんだし。むしろ知らないところが沢山ある方が仲良くなれるのかもだし。

旅も終わり帰路に着く。
夜遅く。ヒッピーを街に下ろす。

じゃあまた。

最高だったな。

彼はニカっと笑って街の光の中に消えていく。

「インフレが市民に与える影響は絶大で…」

またラジオの音が聞こえる。

生きるのって簡単なようで難しい。でもほんとは凄い簡単なのかも。
ヒッピーを車から下ろした後の男の顔がそう言ってる様に見える。


温泉に入りながらヒッピーがこんなことを言ってた。

悲しみは使い古した喜びだよ。


ようわからんけど、それがタイトルなのがまた良い。

来年から好きな映画何って聞かれたら、old joyって答えよう。

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