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CBC⑰「自殺したおじさんの葬儀で泣けなかったのは」

苦しむクライアントに向き合いながら、僕は想像している。

この人は誰とどんなコミュニケーションを取ったら楽になるんだろう?
この人は誰とどんなコミュニケーションを取ったら勇気が湧くんだろう?

一つ前の投稿のケースのお兄さんなら、亡くなった弟とのコミュニケーションが役に立ったわけです。

あのケースは、お父さんお母さん相手でも、ある種のコミュニケーションを取れば彼は変わったと思うし、

お子さんがいるなら、お子さんとのコミュニケーションにも可能性があった。

誰と?も大切ですが、
どんな?も大切なんです。

どんなコミュニケーションを取れたら救われるのか?
どんなコミュニケーションを取れたら、どうしたらいいかわかるのか?

もちろんコーチ・カウンセラーとコミュニケーションとってもいいんですけどね。僕らも癒したり、相手の考えを整理するためのコミュニケーションは取れます。

でも、コーチとだけでなく、

仕事や家庭、友人など、その人の現実の人間関係の中で、癒され、勇気を持てるようなコミュニケーションを取ってもらいたい。

コーチングやカウンセリングはそのための準備だったり、作戦会議な訳だから。。。と僕は思っているです。

そしてポジションチェンジはすごいことに、イメージの世界を使って、現実に関わる人たちとのコミュニケーションをシミュレーションできるのです。そのことを通じて、心理的な変化を作り出すこともできるのです。

さらに、あのお兄さんの例のように、亡くなった人が相手でもそれが出来るのがポジションチェンジの凄さなのです。

では今日のケースを見てみましょう。数年前のコーチングスクールでの公開セッション。クライアントはアラサー男性。自身の学生時代の難病克服体験がきっかけになり、先が見えない状況にある人たちを応援したいと頑張っていました。

※このセッションでは鬱と自殺が話題にあがります。詳細描写はありませんが、苦手な方はここでおやめください。この事例以外からでもカウンセリングは学べます。

僕「なにがあったの?」
彼「ちょっと前のことなんだけど。。。おじさんが亡くなって。。。。」
僕「うん。。。。」
彼「お葬式に行ったんだけど。。。。全然泣けなくて。。。。。」
僕「泣けない?」
彼「。。。。すごく好きなおじさんだったのに。。。。」
僕「うん。。。。」
彼「。。。なのに。。。。感情がまったく動かない。。。。それが」
僕「。。。それが」
彼「怖いというか。。。。どうしてだろう。。。。」
僕「そっか。。。どういうことだろう?。。何が気になってる?」
彼「自分に何が起こってるのか。。。」
僕「あとは。。」
彼「。。。。。大丈夫か?みたいな。。」
僕「大丈夫か?っていうのは?」
彼「。。。。コーチングで人を応援しようとしてるのに。。大事な人がなくなっても。。涙が出ないなんて。。。」
僕「。。。。。そのことに戸惑ってる。。。」
彼「。。。はい。。。」

もちろん「感情が動かない理由が知りたい」を手伝ってもいいんですけど、彼の本当の目的が知りたいのです。彼の望みが知りたいのです。
だから「他には?」「あとは?」とかききながら、探っています。。。

僕「自分はもっと、暖かい人間なはずなのに。。みたいな?」
彼「自分がわからない。。。。本当のところ、人のことをどう思っているのか」
僕「オーケー。じゃあ教えて。このセッションが終わったとき、どうなっていたら大成功かしら?」
彼「。。。。。うーん。。。やっぱり、なんで感情が動かないのかが分かったら。。。」
僕「わかったら、どうなるのかな?
彼「安心するかな。。。」
僕「安心?」
彼「わからないけど、理由がわかればホッとしたり、これからどうしようとか考えられそう」
僕「なるほど。でな、ちょっと落ち着いて、これからどうしようか考えられたらいい?」
彼「はい」
僕「ちなみに、なに関係を考えられたらいいのかしら」
彼「うーん。。。やっぱり仕事のことかな。。。コーチングと仕事をもっとどう関係させていけるか」
僕「オーケー。では、そのために役に立ちそうなことを一緒にやってみよう」

協働関係をつくると言いますが、クライアントと信頼関係を確立し、セッションの目的(方向性)を明確にすること。セッションの目的に向けての協力関係をつくりたいのです。

セッションの目的を明確にするために粘りましたが「わかったらどうなるのかな?」の質問で進展しましたね。これは「結末予測」の質問です。

クライアントが「◯◯をしたい」「◯◯がほしい」と言ったとき「それをすると(手に入ると)どうなるの?」ときくわけです。そうすると、クライアントの目的が分かったり、クライアントの思考パターンが分かったりします。

では続きです。

「よし行こう!!」

と、僕としては腕まくりするような気持ちです。必要な素材が揃って、ここから料理がスタートするような感じ。

公開セッションなので、広い教室の前で、僕たちは横並びになり、参加者の方を見ています。

僕「では一歩前に出て。。。。お葬式のシーンに戻ってみますよ」
彼「はい。。。。」
僕「僕がよこにいますから。。。。では。。。集中して。。。。目の前に棺をイメージします。。。。そして棺に手を触れて。。。おじさんの顔をゆっくり見ます。。。。表情。。。。。顔の皺の一本一本をみるくらいに。。。。よーく。。。。。。。その肌に触れることができたら。。。その皮膚の感じ。。。。温度。。。。どんな。。。。。」
彼「。。。。。。。」

彼の心(身体)はちゃんと動いています。。。。呼吸、表情筋はじめ筋肉の状態、皮膚の色。。。クライアントの身体は刻々と変化しています。

僕「。。。。おじさんに向けて、名前を読んでみよう。。。。」

僕は少し声のトーンを変えました。トーンを変えるというか、僕の声の成分の中に、数%だけ悲しみの色を混ぜる感じです。

彼「。。。。◯◯さん(おじさんの名前)。。。。。(涙)」

閉じていた蓋が開きました。あとは、この火(感情)を消さないこと。。。感情に語らせきる。。。そうすれば自然と次に進めるのです。

僕「『◯◯さん!』。。。。。いま。。動き始めてくれた心を感じながら、その心に。。。話させてあげて。。。。心が。。。言いたがっていること。。。。」

彼「。。。なんで。。。。なんで死んじゃったんだよ。。。。。なんで。。。言ってくれなかったんだよ。。。。。なんで。。。いつもみたいにしてたまま。。。。一人で。。。。。なんでだよ。。。。。」

僕は、彼の背中に手を起きます。手を置く目的はいくつかあります。この時は、彼が感情に巻き込まれすぎることを、僕が手を置くことで、少しだけ緩和したい。そんな手の置き方でした。

心に自由に話させながらも、身体は巻き込まれない。。。そんな風に話してもらうためです。

僕「なんでだよ。。。。なんで。。。。。。なんで言ってくれなかった。。。。言ってくれたら。。。。」

僕の声のトーンは、ほぼクライアントに合わせています。彼が冷めないように、かと言って熱くもなりすぎないように。。。調整しています。

彼「言ってくれたら。。。。なんだって。。。やれることはやったのに。。。。ずっと。。。おじさんのこと心配で。。。。でも絶対に力になりたいって。。。。だから。。。」
僕「絶対に力になりたい。。。。。。その想いはどこから来ているんだろう。。。。どうして。。。」
彼「。。。。。。。(僕が)白血病で入院しているとき。。。。本当の家族みたいに関わってくれた。。。。なんでもしてくれた。。。。だから。。。。今度は僕が。。。。。」
僕「オーケー。。。。少しだけ。。。呼吸に意識を向けて。。ふぅーーー。ゆっくり吐いて。。。。。。そして吸うよ。。。。。。そう。。。」

少しエモーショナルになりすぎたように感じたので、呼吸に意識を向けてもらいました。僕は安全に感情(内面)と向き合えることを体験してもらいたいのです。

彼が少し落ち着いたのをみて、僕は言います。

僕「よーし。じゃあもう一度言ってみよう。。。『おじさん!僕に言って欲しかった。おじさんの力になりたかった』」
彼「。。。。。。言って欲しかった。。。。おじさんの。。力になりたかった」
僕「言えた?」
彼「。。はい」
僕「よーし。では大きく伸びをして!声を出して!アァァァァ!!」

そして、彼に大きく一歩後ろに下がってもらいました。

僕「感情はちゃんとあったね(笑)」
彼「はい」
僕「どうして隠れていたとおもう?」
彼「。。。。。」
僕「おじさんを責めることになるかも、と思ったのかな」
彼「。。。。そうかもしれない」

これは良くあることです。亡くなった相手のことを責める気持ちを無いことにする。

とくにこのケースでは、おじさんを心配して彼の家族はおじさんと同居していた。そしておじさんと最後に会ったのは彼だったそうです。彼が出かけるとき、おじさんに声をかけて。おじさんは普通に応えて、彼がでかけた後、おじさんは一人で命を絶ったと。。。。

僕の先生の一人スティーブン・ギリガン博士は

いないことにされている子を後見する

そのことの大切さを教えてくれました。自分の中にいるのに、いないことにされている子。その子に気づいて、見守る。。。。その子がクライアントと一緒に生きていけるように。。。

あるときギリガン先生はこんな話をしてくれました。

僕たちは、ティーパーティーのホスト、ホステスなんだ。
お客さんが来る前に、庭にテーブルと椅子を出して、
テーブルクロスの上に、お気に入りの紅茶とお菓子を。
そして一人一人を迎え入れる。
いろんな人がくる。陽気な人。勇気のある人
みんなに好かれている人。
落ち込んでいる人、怒っている人、
嫌われている人。
みんなを同じように迎え入れて、リラックスして
過ごしたいように過ごしてもらう。
いろんな話ができるように、そして帰るときには、
みんなが、少しでも仲良くなっているように。。。。

もちろんこれは例え話で、ここに来るお客さんたちとは、カウンセリングを受けるクライアントの中のさまざまな自分のことです。

このセッションで、僕たちは迎え入れました。
深い悲しみと無力感をもっていた彼を。彼は怒ってもいました。おじさんに頼ってもらいたかったから。自分を救ってくれた大切なおじさんだから。

僕は、彼にききました

僕「いま、どんな気持ちかな」
彼「落ち着いています。悲しいけど。。。ちゃんと言えた感じです」
僕「オーケー。じゃあ次にいこう。次はおじさんの声をききます」
彼「。。。はい」
僕「棺があった場所の少し後ろに立ってみようか。。。」
彼「。。。。。(後ろに立つ)」
僕「では、これからおじさんになるよ。。。おじさん!あなたは死んでいます。。でもここに意識がある。。目の前にはあなたの体があります。。。そして甥っ子が泣いています。。。その声をきいて。。。。」
彼(おじ)「。。。。。」
僕「おじさん!どうして!!なんで言ってくれなかったの??僕はなんでもしたかったのに!!!」
彼(おじ)「。。。。。。。。。」
彼は悲しそうな表情で眉をしかめます

僕「『どうして。。』。。。なんて答えますか。。。」
彼(おじ)「。。。。。。だって。。。。お前は。。。甥っ子で。。。。。ごめんな。。。。。いまだに。。。。小さいこどもみたいに思ってて。。。。。お前に頼るなんて。。。。。思いもしなかった。。。。。(涙)」
僕「そっか。。。。。どれだけ。。大きくなっても。。。小さい頃のイメージで。。。。。。。。ねぇ。。おじさん。。。彼をよく見てあげて。。。。大きくなった彼を。。。」
彼(おじ)「。。。。本当に立派になって。。。そうだよな。。もう子どもじゃない。。。」
僕「おじさんの力になりたかったって。一番苦しいときに、おじさんに救われたから。家族だったって。彼にとっては」
彼(おじ)「。。。。。。ありがとう。。。そうしたらよかったよ。。。。もうずっと。。。本当に苦しくて。。。。どうしようもなかった。。。。でも。。。お前の気持ちに触れたら。。。。。相談すればよかったって。。。。」
僕「。。。ありがとうございます。。。あらためて彼に伝えたいことは?」
彼(おじ)「。。。ありがとう。。。もう立派な大人だから、何も心配せず信じる道を進んでほしい」
僕「言えましたか?」
彼(おじ)「言えました」

変な例えですが、3枚おろしのイメージです。
まずは半身(クライアント自身)を卸して、次に相手(おじさん)を卸す。両身とも、残すところなく、しっかりと捌けた感じです(笑)。だからこれから、刺身に切りつけて、盛り付けです。あたらしい未来に向けて。。。。

まず、彼におじさんから抜けて、自分が元いた場所に戻ってもらいました。そして

僕「勘違いしてたってさ。。。子どものままだと」
彼「。。。。。」
僕「許さない?」
彼「(笑)いや、仕方ないです」
僕「どうして?」
彼「子どものころから可愛がってもらってから。それからしばらくの間は会ってなかったし」
僕「そうか。。。おじさんになんて言いたい」
彼「。。。残念だけど仕方ない。。。。気持ちがわかって良かったよ」
僕「よし、ここでおじさんにコミットしよう。どんなレベルの話でもいいよ。ただしあなたが、絶対にこれはやりたいと思うこと。それをおじさんに宣言しよう」
彼「。。。。。。。。。。」

彼の中で探索が続きます。なにかのアイディアが出てきては、捨てていくプロセス。。。僕はそれを待ちます。。。彼も僕も黙っているけれど、プロセスは動き続けています。。。。そしてしばらくの時を経て。。。。

彼「。。。おじさん。。。。僕は一人で苦しむ人がいなくなるように。。とくに悩んでいる子どもたちが、一人で悩むことがないように。。。こっちから違和感を感じたら、余計なお世話かもと恐れずに、声をかけます。。。かけ続けます!!!」
僕「どう?言ってみて」
彼「。。。はい。自分の中におそれがありました。でもこれからは前にでます。。。。。。。。。だって。。どうしてる?って声かけるだけだから」

彼は自力で、すばらしい場所に辿り着きました。でもあと一つだけやりたいことがあります。

僕「いいね。。。そして。。。最後に。。。おじさんに一つお願いをしよう。これからもどんな風に助けてほしいか」
彼「。。。。。。見守ってほしい。見守っていてほしい。勇気がでないときに、◯◯(名前)なら大丈夫だよ、と言ってほしい。。。一番苦しかったときも、それで頑張れたから」

亡くなった人にも役割をもってもらいたいのです。

死んでまで働け!ってことではなく、

命が終わっても、お互い後見しあえるという物語が希望を与えてくれると思うのです。

身体のある、ないを超えて。。。想いでつながりながら、支え合うことができる。大きな共同体感覚。時空を超えた共同体感覚。。。

共同体感覚とはアドラー心理学が目指すものです。

共同体に所属する全員が、自分の居場所と役割を持てているという感覚

それが共同体感覚です。

老いも若きも、亡くなった人も、これから生まれる人も。人類共同体の中に自分の居場所があり、自分の役割がある。そう感じられることが幸せであり、そう感じられるから勇気をもって生きることができる。

私たちはそう考えているのです。

今回も天国(亡くなった後の世界)の力を借りて生まれた勇気の物語でした。

続く














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