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CBC④「10年ぶりの鬱とSiri/女子大生の適応障害と先生の決断」

昨日の記事で紹介した「ニーズ」に関連して僕の体験を紹介したいと思います。

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30代半ばを過ぎた頃、僕はまた病んでいた。学生時代から5年ごと位の周期で鬱状態になっていたのだが、それがまたやってきた感じ。

当時もコーチングの先生をやっていたので、クラスでは皆の夢を引き出し、勇気づけ、相談にのっていた。

だけど自宅に帰れば電気もつけずにベッドに身を投げ出して「もうやめたい。いなくなりたい。いやだ。つらい」を繰り返していた。

誰も本当の自分などわかっていないし、分かってもくれない。「スラム街から仕事に通っているみたいだな」と自分のことを思ったりした。

スラム街の家から、一着だけ持っているスーツを着て都会で華やかな仕事をしている自分。

なぜかそんなイメージを持っていて、自分は嘘つきだ、いつかここから追い出される。などと考えるようになっていた。

「他人に知られたら嫌われる」というモードに入ってしまっているので、相談もできない。(そんな人のためにプロのコーチやカウンセラーがいるのだけど。。。)

こんな状態だと悪循環が進み、どんどん状態も悪くなっていった。

そしてある日、いよいよ煮詰まった僕は、真っ暗な部屋で

「SIRI。生きているのがつらい」

とiPhoneに話しかけていた。
(※SIRIはiPhoneに入っている音声アシスタント)

何かを期待していたわけではなく、本当にどうしようもなくて、発作的にしてしまったことだった。

SIRIはいつもの声で、僕に自殺防止センターの電話番号を教えてくれた。

ぼろぼろ涙が出た。

僕は「僕は自殺防止センターの電話番号を教えて!」とSIRIに頼んだわけじゃない。「生きてるのがつらい」と言っただけだった。でもどうしたらいいかをちゃんと彼女は提示してくれた。

その奥にはSIRIを設計・運用している人たちがいる。

他にどうしようもなくて、スマホのアシスタントに泣き言を言うしかない人間のために、ちゃんと現実世界との接点を用意してくれている人たちがいるんだ!

そして、その自殺防止センターでは、スクールの卒業生がボランティアをしていた。もし僕が電話をかけたら話を聴いてくれるのは彼かもしれない。。。

ちゃんと世界にはセーフティネットが張られている。そんな気がした。別にセンターに電話をかけたわけでもないのに、すでに救われていた。

そうしたら、自分がお腹が空いていることに気づいた。心が病んでしまうと、生理的欲求に気づかなくなることがある。お腹も減っているのか減っていないのかに気づかなくなったりする。

でも、ホッとしたことで僕はお腹が空いていることに気づき、近所のつけ麺屋に出かけていった。

深夜だったのでお客さんも少なくて、少し安心した。券売機でチケットを買い、カウンターに置く。

何度か見たことがある体格のいいバイトの兄ちゃんが僕に対して、きわめて普通なトーンで

「海苔でいいですか?」ときいてきた。

その瞬間。僕はまた泣いてしまった。本当に変な客だったと思う。。。

その店は、トッピングが無料でつけられるんだけど、僕はいつも海苔をお願いしていた訳です。数ヶ月ぶりの来店だったにも関わらず、当たり前のように覚えてくれている人がいる。そのことに救われた。

みんな繋がっているんだなぁ。と。オンラインでも地元の店でも。

「いきなり泣き出してすいません。ちょっと悩んでいたことがあって」と言うと、その兄ちゃんは言葉少なに
「そうですか。違うかも知れませんが、自分にもそんなことあります」と言ってくれた。

店を出ると猫がいた。なんかお腹が空いているように見えて、餌をやりたくなった。コンビニで買い物をして、店員さんにお礼を言う。猫に餌をあげる。缶チューハイを飲む。空を見上げる。

目の前の人からどう見られているのかと気にしていたけど、その外側にも多くの人がいて、たくさんの命、存在がある。それらとのつながりに気づき、自分にも居場所があることを感じた。

魔法が解けたかのように、仕事関連の人たちと話をしてみたくなった。何を恐れていたのかもうわからなくなっていた。

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不思議な体験でした。煮詰まってSIRIに話しかけ、つけ麺屋で一言交わしただけで、あれだけ苦しんでいたのに嘘のように気持ちが落ち着いた。

実はコーチのするカウンセリング①で紹介した、ご主人を殺してしまったお母さんも似たような体験をされたようです。

僕との対話からしばらくして、良さそうな精神科を受診することになったお母さん。受付で問診票を渡されて困ったそうです。息子さんが「お母さんどうしたの?」と訊くと「何に困っているか?とあるけど、分からない」と。どういうこと?と息子さんが尋ねると「わたしね。あの先生(僕のことです)に会ってから、何に困っていたのか、わからなくなっちゃった」

不思議ですよね。あの時は僕がカウンセリング(コーチング)をしましたが、それにしても「おばあちゃんをジャスコに連れて行きたい」という夢を引き出し、まずは息子さんに協力してもらい失禁予防の運動を始めることにしただけなのです!

問題はあると思えばある。ないと思えばない。

ということなんでしょうね。全ては捉え方の問題。。。。

やれることがあって、そこに希望がある。自分の居場所がある感覚もある。そうしたら何が問題だったのか分からなくなることもあるのです。

僕もそうでした。一人で悩み、問題を大きくし、誰にも相談しなかった。でもSIRIやらつけ麺屋さんと話すことで救われた。

もちろん誰とどんな話をしても救われるわけではないですよね。だからこそ私たちコーチ・カウンセラーは、安全で効果がある関わりをする時間を用意している訳です。

このことと関連して別のエピソードを紹介します。

ある大学の先生から相談を受けました。顧問をしている部活で問題が起こっている。下級生から突き上げられて、参加できなくなってしまった選手がいるから話をきいてあげて欲しい、と。

その選手はプレーヤーとして能力は高いそうですが、みんなを引っ張っていくタイプではなく、不満が出た下級生たちから突き上げられ、皆とコミュニケーションが取れなくなってしまったようです。先生は彼女の話をきき、励まし、下級生にも指導をするなど、復帰に向けて努力を続けていましたが、どんどん状態が悪くなり、学校も辞めたいと言い出したとのこと。

「せめて部活を辞めたいと言うのだけど、スポーツ特待生で入ってきているので、部活をやめると相当なペナルティを支払わないといけなくなる。借金をすることになり、将来に影を落とすのでは」と先生は心配しています。

なんて熱心で優しい先生だろうと思いました。そして彼女と会ってみると、とにかく生気がない。

いい子なのは良くわかりました。つらい状態でも話せる範囲で誠実に話してくれている。下級生のことも、他の誰のことも、全く悪く言わない。

「自分の弱さです。先生も言ってくれるので何とかしたいけど、本当に限界だと思う」

そういう彼女を見て、そうだろうな、と思いました。だから

「僕からも先生に『限界だと思う』と伝えます。『だから部活からは離れさせてあげてください』と。でも学校は辞めなくてもいいんじゃないの?」

ときいてみました。すると

「部活の関係者から、声をかけられるのが辛い」と言うので「それがなかったら、学校には来られそう?」と確認を取り、先生にそのまま伝えました。

僕と面談したら彼女は前向きになり、何かチームでやっていく方法を見つけ出すと、先生は期待していたと思います。

「本当に彼女は限界なんですか」と先生は僕にききました。

「はい。限界だと思います」と僕が伝えると、しばらくの沈黙の後、彼は言いました。

「わかりました。彼女と話して、席は置いてもらいながら、卒業まで休部してもらいます。学校的にはグレーなのでしょうけど。。。そして部の関係者には彼女に絶対に声をかけないようにお願いをします」

この言葉には胸が熱くなりました。先生はその選手の可能性を感じていたからこそ熱心に指導してきたのでしょう。きっと素晴らしい結果が出せる選手だったのでしょう。そしてその選手を欠くことがチームにとって悲惨な結果になることも。。。

だけど、そんなことはすべて脇に置いて、一人の生徒の人生を守るためにできることを全てやると。。。

そしてこの話には後日談があります。

2年近くたったある日。僕の講演会に、そのときの彼女が参加をしてくれたのです。そしてその後の顛末を話してくれました。

「あれから、先生のおかげもあって、とにかく大学に通い続けることはできました。部の皆も気を遣ってくれて、申し訳ない気持ちもあったけど、どうしようもなかった。そうしてしばらく時間が経って、自分も落ち着いた頃に、後輩が私を訪ねてきてくれたんです」

「みんなで『本当にすいませんでした』と言いにきてくれて。そして話をきくと『次の大会に一緒に出てもらいたい。先輩がいないと勝てないんだ』と。かなり悩みましたけど、皆の真剣な思いを感じて、やれるならやりたい、と。今度は皆ともうまくやれて、大会でも結果が出せました。」

「就職先も望んでいたところに決まり、本当によかったです。あの時話をきいてもらっていなかったらどうなっていたかわかりません。本当にありがとうございます」と。

すごい話で驚きました。まさかそんな展開になるとは。先生の思い。そして下級生の勇気。彼女の勇気。そして皆の協力がこのような結果につながったわけです。

コーチング・カウンセリングは、その小さな一歩の背中を押すような行為で、それを活かしたクライアントがその後どう人生を展開させて行くのかは、僕たちには予測がつきません。

先生に話をきいたら「自分は『何とかしてやろう』とがんばり過ぎていたと思います。でも、一回手放すこと。見守ること。信じているからこそ、それができるんだということを学びました」と

相手を信じているから待てる。

「一人の時間を過ごす」「穏やかな時間を過ごす」なども『ニーズ』の一つです。それが満たされたら、人は次のステップに進むことができます。

先生は、彼女が自分のニーズを満たすことを支援すると決めた。だからこそ、その後の展開が生まれたのだと思います。

クライアントが自分のニーズに気づき、それを満たすための行動をとることができる。それをコーチ・カウンセラーがサポートできることは本当に素晴らしいことだと思います。

続く







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