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CBC㉔「余命1週間の拒絶と孤立」

前回に続きコンフロンテーション(直面)について

今回のケースは、コーチングやカウンセリングではありません。相手は僕にセッションを依頼していません。

知人だった彼女の窮状を知って、僕は一方的に押しかけました。これは、そこで行われた対話の記録です。

ケース3◆「なかよくすることを諦めない」

もう何年も前の話です。相手は40代女性。末期癌で余命1週間程度と言われている状態でした。

※亡くなる直前のやりとりの描写があります。苦手な方はご遠慮ください。他のケースからでもカウンセリングは学べます

キューブラー・ロスという精神科医が作った死の受容プロセス(5段階モデル)というものがあります。人は死を宣告されたあと

第一段階 否認と孤立
第二段階 怒り
第三段階 取り引き
第四段階 抑うつ
第五段階 受容

のプロセスを経るというものです。

否認と孤立はわかりやすいですね。感情的には「死」を拒否したい、認めたくない。だから否定する。周りとは考えがずれるので、その結果孤立してしまう。
そして「なんで自分なんだ!」と怒りを持ち始める。
取引というのは神様との取引です。もう少し待って欲しい。◯◯するから。などともがくのです。
そしてそれが虚しく終わると、憂鬱になり、最後は自然の摂理として死を受け入れる。

こんな感じです。このモデルには批判もあります。「取引」の部分が科学的とは言えない、とか、本当に受容がゴールであるのか?などです。

ただ、僕は「否認と孤立」や「怒り」などは宣告後に起こりがちなのでは、と思っています。

僕が会った女性は残り1週間の状態で、まだ否認と孤立の段階にいました。

長いスパンで見れば何年も闘病していたのです。状況がかなり厳しくなってからも数ヶ月経っていました。でも、自分の死を認めることができない。

家族から終活を勧められることに激しく抵抗し、

「わたしに死ねと言うのか?」

などと言っていたようです。彼女は離婚後ひとりで子育てをしていたこともあり、家族や親戚は子どものことを心配していました。でも子どものことやお金のことが、どうなっているのか?どうしたいのか?など何も教えてくれない。

「わたしは大丈夫だ。死なない。そんなことをきくなんて、私が死ねばいいと思っているのか?」

もともとご両親とはいろいろあったようです。そんな中で、素直に話せないまま、時間ばかりがすぎていき、取り返しがつかない感じになっているのか。そしてますます本人も頑なになってしまったのか。

いずれにしても、彼女は家族とのコミュニケーションを拒絶した結果、孤立してしまっているのです。家族もお医者さんも腫れ物に触るような扱いになります。そのことでなおさら心を開けないようになっていく。

そして、子どもも混乱している。。。

子どもはお母さんに元気になって欲しい。でもお医者さんも含めて、周りはもう無理だと言っている。ご飯も食べられない状態になっている。どんどん動けなくなっている。おかあさんは絶対死なないと言っている。そして怒っている。。。。おかあさんが孤立している。。。混乱するのも当然です。。。

共通の知り合いからこんな話をきき、僕の方から彼女に連絡をとりました。

「実家に戻ったとききました。最近は体調があまりよくないときいて、案じています。久しぶりに話をしたいなと思っています。もしよかったら、そちらに伺いたいのですが、どうでしょう」と。

彼女から会いたいと返事が来ました。ほっとしました。何ができるかわからないけど、第三者が行くことで、少しは変化が起こるかもしれない。

彼女とは数年前からの知人で、何度か飲みに行ったりしたことがあった関係です。彼女は僕の仕事のことも知っています。僕があまり何かを押し付けたりしないのを知っていたので、OKをくれたのかな。最近、人とコミュニケーションを取っていなかったので、寂しかったのだろうか。彼女はいま、どんな状態なんだろう。。。。

僕はそんなことを考えながら、新幹線に飛び乗りました。

駅について、彼女の実家へと向かいます。寒い日でした。15時を過ぎたころ、彼女の家につきました。門をくぐり、庭を眺めながら、ここでどんな子ども時代を過ごしたのかを想像します。

ベルを鳴らすと彼女のお父さんが迎えてくれました。疲れ果てた表情。そして、いきなり深々と頭を下げられました。

「こんなところまでありがとうございます。わたしたちではもう、どうにもならなくて。。。。」

よく見れば体つきはしっかりしているのに、とにかく元気がない。疲れ果てている。そんなお父さんに案内されて、彼女が過ごしている部屋に入りました。畳の部屋に大きな本棚。昔彼女が読んだであろう本がたくさん入っていました。

彼女はベッドに寝ていました。顔だけが少し見えました。

僕「ひさしぶりですね。今日は体調はどうかしら?」
彼女「。。。。。。。そ ん な に わ る く。。。な い よ」

痩せこけた顔。光を感じない目。首すらほとんど動かせない身体。

でも彼女の声は生きていました。細い声ではあるけど、ゆっくりと身体の具合を話してくれます。

最近はだるくて、食欲もないし、体を動かすのは難しいけど、気分の良い日もある。今日もそうだ。だからそんなに悪くないと思う。薬もきいてるみたい。そんな話でした。

僕「そっか。。。気分がよいなら良かった。。。最近は、何して過ごしているの?」

僕たちには時間がそんなにたくさんありませんでした。僕は東京に帰らないといけないし、彼女も長時間話す体力はないだろう。最近の彼女は、すぐに眠ってしまうのだと、お父さんは言っていました。

とはいえ焦らずに彼女の話もききたい。そんな感じていました。いや、正直なところ、どこから話を切り出せばよいのか、自分でもまだ分かっていませんでした。

彼女「さいきんかぁ。。。。ちょっとまえ までは ほんを よんだり してた けど。。。。いまは むかしのことを おもいだしたり 。。。。」

言葉は途切れ途切れですが、思考は明瞭なようでした。

僕「そうなんだ。どんなことを。。。思い出してるの?」

彼女は子どもの頃に庭でしていた遊びのこと、そして、子ども時代に好きだったことなどを、少しずつ話してくれました。

そして

彼女「だからね。。。。やっぱり びょうきが よく なったら 。。。。あくせさりー しょっぷ とか やりたいなぁ って。。。。 また からだが うごくように なったら。。。。。 まえに はなさな かった っけ?。。。」

僕「うん。話してくれたね。。。何年前かな?本当にやりたい仕事の話になって。。。。あれからずっと思ってたんだね」
彼女「そう ずっと。。。 もう まえのしごとには もどれない だろうし。。 のんびり きれいなものと いっしょに ね 」

このまま、ずっとこの時が続けばいいのに。と思いました。。。。戦うように仕事を続けてきた彼女。自己実現と子育てのために。苦しみの中でもがき続けた彼女。ときには自暴自棄になりながらも、必死で生きた彼女。。。。

そんな彼女が、病床でも夢を語り続け、まわりの常識を覆す回復をみせ、そして夢を実現する。。。この時間がそんな未来につながってくれるなら。。。

そう思いたい自分。。。でも、目の前の現実を見れば、そうならない可能性の方が、はるかに高い。。。。どうしよう。

勢いでここまで来たものの、覚悟が足りない自分に気づきました。そもそも誰にも何も頼まれていないのです。でも

彼女に自分の命に向き合って欲しい。最期の時間を少しでも意義あるものにして欲しい。願わくば家族と、とくにお子さんと話して欲しい。

僕がやろうとしていることは、余計なお世話です。。。。悩ましい。。。。

。。。情けない。。。これがクライアントから頼まれたコーチング、カウンセリングだったらこんなに悩まないのに。。。。

でも、誰かが余計なお世話をしなかったら、これでおしまいになっちゃう。彼女が生きて、残したかった思いが、誰にも伝わらないまま、おしまいになてしまう。。。

そうだ。やっぱりできることをやろう。

僕「そっか。お子さんには、話したことあるの?。。。。夢の話。。。」
彼女「。。すこし だけ ね 。。。いい ね って いってくれた。。。」
僕「そっか。。。。おとうさんには?」

彼女の中で何かが止まりました。。。。そうだよな。。。

なんだよこの質問は。。。何やってんだ。。。俺は

彼女「。。なかなか ね 。。。。」

僕「そっか。。。◯◯さんの思い。。。わかってもらえてたら、いいのになぁ。。。」

庭を見ながら独り言のように呟く僕。。。疲れてきたのか、天井をボーッとみている彼女。気づけば日も落ちかけていました

二人とも何も話さないまま時間がすぎていきます。。。。寝ちゃったのかなと思って彼女を見ると、天井を見つめている感じ。なにか考えている様子

思い切って声をかけました

僕「僕が来たのはね。◯◯さんのことが好きで。。。変な意味じゃあないんだけど。。。感性とか。。。情熱とか。。。探究心とかね。。。」

彼女はじっと天井をみつめています

僕「だからさ。。。。心配してるよ。気にしてるよ。一緒に時間を過ごしたがってるよ。。。ってことを知って欲しくて。。。」

彼女「。。。。うれ し い。。。。。」

彼女の目から、細く涙が流れました

彼女「だい じゅ さん 。。。。ありが とう。。。。」

彼女の呼吸が少し荒くなりました。僕も一緒に呼吸をするつもりで、ゆっくりした呼吸を続けました。そして彼女がすこし落ち着いたのを見計らって

僕「だからね。。。◯◯さんのお父さんとかお母さんのこととかも気になってて。。。。うまく話せてたらいいなぁ。。。って。。。」

彼女は答えません。彼女のなかで、何か思いが巡っているのはわかります。

そして、しばらくして

彼女「。。。すこし つかれちゃっ た みたい 。。。。 」
僕「ほんとだ。随分長いこと話してたね」
彼女「たのし。。 かった。。 だいじゅ さん 。。ほんとに ありが とう。。。」

このままでは帰れませんでした。

僕「僕も来て良かったよ。。。。ねぇ、僕ね。今日はこっちに泊まっていこうと思ってて、明日もちょっと時間あるんだけど、また来てもいいかな。。。もし、いやじゃなければ。。。」

彼女「。。え。。ほんと に。。。うれし い。。。」

彼女にさよならを伝え、居間にいたお父さんにまた明日くる旨を伝えると、再び深くお礼を伝えられました。

急遽とった駅前のホテルの部屋で考えます。どうしよう。。。。明日のゴールは何だ。。。。僕は彼女にどうして欲しいんだろう。。。。

本当は、彼女の望みをききたい。人生の時間があとどれだけあるかわからないけど、何かできることをやってもらいたい。ご両親とも、お子さんとも、ご兄弟とも、話をして、ちゃんと伝わったという体験をして欲しい。

でも彼女はそれを望んでいるのだろうか。

深い部分では望んでいる。多分そうだ。。。でもどうしたら。。。その部分にアクセスできるのだろう。。。直接言ってみるか。。。。うまくいく確率はどれくらいあるんだろう。。。。最悪の事態はなんだ。。。。ダメだ。。頭が回らない。。。

久しぶりに混乱していました。。。持ってきた仕事を片付けて、早く寝よう。。。いい状態になれば、なにか思いつくかもしれない。。。。

翌朝

思ったよりよく眠れたけれど、妙案が生まれたわけでもなかった。その日の予定には動かせないものがあったため、彼女と話をしたら東京に戻らないといけない。そして多分。。。。次のチャンスはない。。。。

再び彼女の家に向かう。玄関先でお父さんに丁寧に迎えられる。お母さんもどうやらあまり調子が良くないようだった。。。お子さんと軽く挨拶した。。真っ直ぐそうな子。。。それだけにしんどいのかもな。そんなことを思った。。。

そして彼女の部屋へ

彼女の様子は昨日と変わらなかった。引き続き、悪い状態ではないようだ

僕「おはよう。。。眠れた?」
彼女「。。。。。うん。。。。」

僕「そっか。。。。よかった。。。。」
彼女「だいじゅ さん は?」
僕「うん。結構眠れた。。。ホテルだと案外ちゃんと寝れないことも多いのに。。。」

どうしよう。。。次の言葉がでない。。。。沈黙が流れる。。。。そして

彼女「。。。。だいじゅ さん。。。きいても い い?」
僕「なに?」
彼女「なかよし を あきらめる な って どういう いみだろう」

僕「仲良しを???。。。。どういうこと???」

彼女「ゆめに ね。。。おばが でてきて。。。。あきらめる な って」

なんと言うことだろう。。。。僕の心は震えました

僕「おばさんが。。。。。そっか。。。。。。仲良しを。。。。。。。ねぇ。誰のことなんだろう。。。。誰とのことなんだろう。。。。」

沈黙。。。。彼女は目を閉じています。。。彼女が心に問いかけているのがわかりました。。。

そして

彼女「。。。。。。おとうさん かなぁ。。。。。。」

どちらかと言うと、淡々とした感じで話す彼女。。。。まだ夢の中にいるようにも見えます。

僕は、はやる気持ちを抑えながらききました

僕「なんだろうね。。。お父さんと。。。。仲良し。。。。」
彼女「。。。ねぇ。。。。ぶつかって きたけど ほんとうは。。。。」

彼女の中でまた探索が始まります。。。。そして

彼女「だいじゅさん おそば すき だった っけ」
僕「うん。。。好きだよ」
彼女「ながの にね もういちど いきたい おみせがね あって そこに。。。」
僕「お父さんと?」
彼女「。。。。こどもも つれて」
僕「そっか。。。。かぞくで。。。。いいね」

彼女は嬉しそうな顔をしました。

僕「ねぇ◯◯さん。お父さんに、なんて伝えたい」
彼女「。。。。。。。。。。。。。。ありが とう。。。。。」

胸が詰まります。彼女はいま、この状況を受け入れ始めている

僕「ありがとう。。。。。。。。愛してくれた。。。」

思い切って言ってみました。祈るような気持ちでした

彼女「。。。。ぶきよう だったけど。。。」
僕「そっか。。。でも、それはお互い様だったんじゃない?(笑)」

彼女も微笑みます

彼女「。。。。おねえさん も。。。。。。。。ははも。。。。だね」

僕の目から熱い涙が溢れます。。。。そして

僕「。。。ねぇ。。。お子さんには?なんていいたい?」

「こども には。。。」から始まって、子どもの話が続きました。小さい頃の話。何が好きだったか。向いていると思うこと。やらせてあげたいこと。。。

そして

彼女「だいじゅ さん こどもに 。。。なにか あったら。。。。おねがい しても。。。いいです か。。。。はなしを きいて やる だけで も。。。。」

僕は悔やんでいます。このタイミングで、お父さんとお子さんを部屋に呼んで、みんなで話せば良かった。多少強引でも。。。

「わかったよ!でもさ、いま僕ここに呼んでくるよ。みんなと僕も約束するから。だからきいてもらおう。今の話をお父さんたちともしよう」とでも言えば、彼女は嫌とは言わなかったと思います。

でも僕は言わなかった。

僕「わかった。。。安心して。。。。ちゃんとやるから」
彼女「。。。。よか った。。。。」

そう言って彼女は目を瞑り、ゆっくりと呼吸をしていました。苦しそうではありませんでしたが、受け入れたものの重さを味わっているようにも見えました。

そのとき廊下から、お子さんが声をかけてきました。「お母さん。。。今日はアイスは?いいの?」

食欲はないけど、ある種の氷菓だけは受けつけるようで、お子さんは、それを食べるかと聞いてきたのです。彼女が欲しいというので、お子さんが持ってきて、食べさせてあげていました。

食べ終わり、少し休む彼女。。。僕が帰る時間が近づいていました。

僕は目を瞑ったままの彼女に声をかけました

僕「そろそろ帰るね。。。本当に来てよかった」

彼女は目を閉じたまま、かるく頷きます

僕「あのさ。。。さっきの話。僕からも、お父さんたちに伝えておくね。。。いいよね?」

彼女はまた頷きました

僕「◯◯さんからも言ってあげて。みんな喜ぶし、分かったっていうと思う」

彼女は微笑んでいます。

僕「じゃあ帰るね。。。」

そして居間で、ご家族に僕がきいた話を伝えました。そして「本人からも直接話をきいてみてほしい」とお願いし、東京へと戻りました。

数日後、彼女が息を引き取ったと連絡がありました。

最期の数日でしたが、彼女は自分の生命に直面しました。家族のことに直面しました。そしてその彼女とのやり取りのなかで、僕も他人の生命に関わるということに、あらためて直面しました。

これはコーチングカウンセリングセッションではなかった。とは言え、コーチとしての自分は人とどう関わりたいのだろう。そのことに向き合う機会となりました。

あの日から決めていることがあります。もしまた同じシチュエーションになったら。今度はご家族を途中で呼びにいこう。そして一緒に話そう。それができる自分でいよう、と。

さいごに

彼女のご冥福と、ご家族の幸せを改めて祈ります。ありがとう

続く












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