パワーオブコーチングの源泉
「だいじゅさん。今日はパワーオブコーチングを見せてくださいね」
お父さんを殺した後、鬱になり自殺未遂を繰り返していたお母さんにセッションして欲しいと依頼してきたクライアント(息子)が、僕に言ってきた言葉です。
「パワーオブコーチングを見せてください」
このパワーオブコーチングって何でしょうか?
このケースでは、お母さんは「おばあちゃんを車にのせてジャスコにつれていきたい」という夢を語ったことをきっかけに、寝たきりの状態からリハビリに取り組み始めたり、精神科のお医者さんと減薬にも挑戦。数ヶ月後には自分の身の回りのことができるようになるだけでなく、家業の手伝いができるところまで回復しました
この結果をみたら、確かにコーチングにはパワーがあったように見えますが、このパワーはどこから出てきているのでしょうか
想像的自己
アドラー心理学では「人はクリエィティブな存在である」と考えます
ロジャーズは「人は実現傾向をもっている」と言います
NLPでは「人は必要なリソースを全てもっている」という前提で関わります
コアクティブコーチング(CTI)では「人はNCRWな存在だ」としています
ちなみにNCRWは以下のような考え方です
これらはアドラーから人間性心理学、そしてコーチングへと流れてきた基本的な人間観ですね。
この観点から言えば、パワーオブコーチングがあるとしたら、その源泉はクライアントであるという結論になります。
クライアントが「自身の持つ能力やリソース」を使えるようになっただけのことなのです。
目的に気づくこと
では、何によってクライアントの能力やリソースは、解放され使われるようになるのでしょうか。その一つは目的です。
・◯◯が欲しい(快追求)
・◯◯を避けたい(苦痛回避)
これらの目的が明らかになったとき、クライアントは動き始めることがあります
先ほどのケースでは、クライアントは
・おばあちゃんを買い物に行かせるのを避けたい(ジャスコまで車でつれていってあげたい)
・自分がおばあちゃんに下の世話をしてもらうのを避けたい
という目的が言語化されたときにスイッチが入りました。どちらもクライアントは心の底で漠然と思っていたことですが、コーチの働きかけがあるまでは意識化されてはいなかったのです。
その思いが掘り起こされ形になったときに、クライアントにスイッチが入ったのです。
自己効力感の大切さ
そしてそれと同時に大切なのが、自己効力感です。
自己効力感=自分ならできる、うまくいくという感覚。そのベースには自分は必要なタイミングで行動をすることができるし、その行動は何らか影響力を持つという認知がある。Self-efficacy
自己効力感がなければ、目的に向かって行動をする意味がありません。自己効力感がないということは、自分は行動できないし、行動しても何の影響もないということですから当然です。
アドラー心理学で言えば、効力感だけでなく他者信頼も重要であるということになります。嫌われる勇気で触れられているように
・わたしはできる
・人々は仲間である
という認知が大切なのです。
いくら私はできるという自己効力感を持っていても、「人々は敵であり、邪魔してくる」「人々は私のことを理解してくれない」と思っていては、エネルギッシュに行動を続けることは難しいです。
ということで、目的に気づくことも大切ですが、自己効力感と他者への信頼感もコーチングの結果をつくる大切なパワーだと言うことになります
コーチはクライアントの話を受容的に聞きつつ、クライアントの可能性に関心を向けます。そして内外のリソースを明らかにして、それを使った際に何が起こるかを知ろうとするのです。
このようなコーチの態度を通じて、クライアントは、自己効力感と他者( まずはコーチ)への信頼感を深めていくわけです。
もちろんそれ以外にも、クライアントに過去の成功体験を思い出してもらって効力感向上をサポートしたり、他者とのポジションチェンジワークなどを通じて他者への信頼感を向上させたりもしますね
脱同一化でリソースフルに
「人はクリエイティブな存在」であり「実現傾向をもっている」し「必要なリソースを全てもっている」「NCRWな存在」なのに
なぜにそれらを生かすことなくスタックしているように見えることがあるのでしょうか
それは、なんらかの状況の中にはまり込んでうまく動けない状態になっているかです。
もっと言ってしまうと、はまり込むような動きを自分で続けていることで、動くことができない状態を作っているのです。(これのことを偽解決行動と言ったりします)
相談すればいいのにしない
自分で決めるしかないのに、人の話を聞き続ける
少し待っていればいいのに、動き続ける
動けばいいのに、様子を見続ける
相手を説得しようとし続けるからおかしくなる
相手を立てるのをやめればいいのに、立て続ける
良かれと思ってやっていることで、自ら動けない状態を作っていたりします
しばらく時間が経ってから振り返ると「なんであのとき、あんなにハマり込んでたんだろう?」と不思議になったりします
けれども人には苦手なシチュエーションがあって、一旦そこに入り込むとうまく動けなくなるのです。
人はそもそも優秀でさまざまなシチュエーションに適応できるのですが、苦手なシチュエーションだとはまり込んでしまうのです。
だから僕たちコーチがしていることの一つは、クライアントに俯瞰=脱同一化をしてもらうことです
クライアントに自分のことや自分の置かれている状況を客観視してもらい、自分のやっていることを冷静にみてもらいたいのです
「◯◯するべき」「◯◯はしてはいけない」「わたしには◯◯は無理」「あの人は◯◯してくれない」
そんな思い込みを外して、他人事のように自分の置かれている状況を見ることができたら、
「なにやってんだろう。◯◯すればいいだけなのに」というようなアイディアが出てきたりするのです。
どうしてでしょうか。僕たちの無意識は、これまでに見聞きしたたくさんの出来事を知っています。自分と考え方が違う人たちが、言ったりやったりしたことの顛末も知っていますし、自分自身も今とは別の考え方で動いて結果を出した過去の出来事も知っているのです。
だから実は、今の問題に対して無意識は、さまざまな処方箋を持っているのです。
「◯◯すべき」「◯◯してはいけない」などの制約を外せば(制約から脱同一化すれば)、いくらでも打ち手は出てくるのです。
なので
「客観的に自分をみたら何て言いたくなるだろう?」
「この問題を解決できる人からみたら、何をしたらいいって言うと思う?」
「なにをしてもいいなら、どんなやり方をしそう?そうしたらどうなる?」
「何をしてるから、この状況にはまりこんでいるんだろう?では何を変えたらいい?」
などの質問をしながら、自分を客観視して、あらたな打ち手を見つけるのを手伝っているのです。
クライアントが自分で自分に課している制約を外してしまえば、クライアントは自らのリソースを使ってクリエイティブに解決をし始めるです
これもパワーオブコーチングの源泉ですね
SPACEモデルの活用
クライアントの状態を良くするためには、SPACEモデルをつかって関わることも役に立ちます。
SPACEモデルは
S人間関係
P身体
A行動
C思考
E感情
の5要素は相互に影響しているというモデルです。ですから変えやすいところから変えていくことで、クライアントの状態に変化を生み出し、それを増幅させていくことができるのです。
例えば、クライアントが別の人間関係を持つことで、感情が変わり、思考が変わり行動が変わる。そして結果が変わり、そのことでさらに、思考や行動が変わる
もしくは、クライアントが身体をケアすることで、感情が変わり、思考が変わり、行動が変わる。そのことで人間関係が変わり、それにより感情が変わり思考がかわり、行動がかわる
のようにクライアントの状態を変えやすいところからどんどんと変えていくことができるようになります
そのようにしながら、これまでとは違う考え、違うエネルギーでクライアントに行動をとってもらうことで、今まではかんがえられなかったような変化を生み出すことができるのです。
結局は変えやすいところから変えて、変化の波を大きくしながら、クライアントにリソースフルな状態(内外のリソースを活用できる心理状態)を作っているわけです。
これもパワーオブコーチングの源泉になります
行動と学習のループを回す
コーチングは単に目標達成に向けて行動をとってもらうことを推進するプロセスではありません。
クライアントのとった行動とその結果から、学習を重ねてもらうことで、さらに効果的な行動をクリエイトしていきます
コーチングは目的や目標に向けて、行動と学習のループを回していくものなのです。
上図の体験学習サイクルのように、目的に向けて、行動をとってもらい、その結果を観察することで、クライアントに学習を促し、次の効果的な行動を生み出してもらいます
そのことを繰り返しながら、加速的に学習成長してもらうことで結果につなげていくのです
このこともパワーオブコーチングの源泉ですね
相互理解と相互協力
多くのコーチはリソースを活用することを推奨します。外部のリソースを活用すること、人に助けてもらうこと、協力して進めることを積極的に検討するのです。
そのためには、周りの人たちとの相互理解や相互協力のためのコミュニケーションが必須となります。
このことが、クライアントを加速させていくのです。
相互理解をしようとすることで、クライアント自身の視点が増えたり、考え方もよりバランスがとれたものとなります。
そして相互協力のためのコミュニケーションにより、お互いに助け合いながら進んでいくことが可能となるのです。
助けてもらうことも素晴らしいことですが、人を助けることができる感覚(貢献感)も私たちにエネルギーを与えてくれます。
貢献感のエネルギーを循環させることで、エネルギー高く進んでいくことができるのです。これもパワーオブコーチングの源泉の一つですね。
ということで、私たちコーチは、コーチングを通じて、クライアントがそもそも持っているエネルギーを解放し、うまく使えるようにサポートしているに過ぎません。
クライアントの目的を明らかにし、自己効力感や他者信頼を向上させ、はまりこんでいる状態から抜け出すのを手伝い、SPACEのいずれかの切り口から状態をさらによくして、行動と学習のループを回すことでさらに効率的な行動を生み出し、他者との助け合いを促進してブーストする
こんな関わりがパワーオブコーチングの産んでいるのではないでしょうか
おわり
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