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バッハのマタイ受難曲と他のパッションとの違い

こんばんは。音楽評論家の和田大貴です。今回は、バッハのマタイ受難曲と他のパッションとの違いについてお話ししたいと思います。パッションとは、キリストの受難の物語を聖書から引用したテキストに音楽をつけたもので、四旬節(復活祭前の40日間)に教会で演奏されるジャンルです。バッハは、パッションを4つ作曲しましたが、現存するのはマタイ受難曲とヨハネ受難曲の2つだけです。この2つの作品は、それぞれ異なる特徴を持っています。

まず、マタイ受難曲とヨハネ受難曲は、もとになった聖書の部分が違います。マタイ受難曲は、「マタイによる福音書」の26章から27章をもとにしています。この部分は、イエスが最後の晩餐を行い、ユダに裏切られて捕らえられ、ピラト総督によって死刑を宣告され、十字架につけられて亡くなり、墓に納められるまでの出来事を描いています。ヨハネ受難曲は、「ヨハネによる福音書」の18章から19章をもとにしています。この部分は、イエスが捕らえられてから埋葬されるまでの出来事を描いています。

次に、マタイ受難曲とヨハネ受難曲は、規模や構成が違います。マタイ受難曲は、約3時間かかる長大な作品で、独唱者や合唱隊やオーケストラが二つずつに分かれて演奏します。また、児童合唱が加わります。マタイ受難曲は、二部構成になっており、各部は聖書の本文、コラール(教会で歌われる賛美歌)、自由詩(バッハの友人であるピカンダーが書いた詩)の三つの要素から成り立っています。ヨハネ受難曲は、約2時間かかる作品で、独唱者や合唱隊やオーケストラが一つずつです。児童合唱はありません。ヨハネ受難曲は、二部構成ではなく、聖書の本文とコラールだけで構成されています。

最後に、マタイ受難曲とヨハネ受難曲は、音楽的な表現や効果が違います。マタイ受難曲は、物語的で感動的な作品です。バッハは、音楽の調やリズムや楽器によって、物語の場面や登場人物の性格や感情を表現します。例えば、「オーボエ・ダ・カッチャ」という特殊な楽器を使って、イエスが十字架につけられる場面を描きます。「オーボエ・ダ・カッチャ」は、「狩りのオーボエ」という意味で、悲しみや苦しみを表すのに適した楽器です。ヨハネ受難曲は、ドラマティックで緊張感のある作品です。バッハは、音楽の対話や対比によって、物語の展開や衝突を表現します。例えば、「われ汝を問う」というアリアでは、バスの独唱者とオーケストラが交互に歌い、イエスとピラトの対決を描きます。

マタイ受難曲とヨハネ受難曲は、それぞれ異なる特徴を持っていますが、どちらもバッハの音楽的な技巧と創造力、そしてキリスト教的な信仰と感動が見事に融合した傑作です。この作品を聴くことで、私たちはキリストの受難の物語に深く感動し、自分自身の信仰や人生について考えることができます。マタイ受難曲とヨハネ受難曲は、音楽史上に残る不朽の名作です。


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