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俺と矢部くん

ミッチー(矢部くん)は俺の同級生。幼稚園から中学まで一緒だった。 勉強はすごくできるのにアホだった。麻雀ではいつもカモにしていた。でも基本的にミッチーの事は好きだ。今でも一緒に出掛けたりする。

矢部くんの家は

歯医者さんだった。ミッチーのお父さんが先生だ。結構怖い感じの人だった。子どもの頃は学校の歯科検診にも来て、虫歯とかあると矢部歯科へ行く羽目になる。そこでは地獄のような治療を受けることになると評判だった。

画像はイメージです

矢部先生はハードロックが大好きで、治療中はいつもDeepPurpleやLedZeppelinが流れていた。先生はノリノリで俺の歯を削りまくる。俺はネットでグルグル巻きにされて身動きが取れない。終わるといつも泣いていた。

タバコ好きの矢部先生

ハードロックをかけながら、口にはタバコを咥えて俺の口の中をいじくりまわす先生は悪魔にしか見えなかった。徐々に灰になっていくタバコを見ながら、いつ俺の口の中に落ちてくるかヒヤヒヤしていた。
矢部歯科の玄関にに燕が巣を作ったら、俺の歯茎に針を刺したまま「ちょっと待っててくれ」と言って、ムービーカメラを持って外へ出て行ってしまう。とんでもない先生だった。

息子も歯科医に

当然なのだが息子のミッチーも歯科医を目指すことに。歯科大に進み帰省したら県の真ん中に新たに歯科医院を建てた。俺んとこからは小一時間かかる。遠いけど矢部先生は引退してしまって、ミッチーの院に通うことになった。
ある日ミッチーが「歯医者ってのは痛くなってから行く場所じゃない。痛くならないように通うところだ」と言ってひどく感銘を受けた。以来呼ばれてもいないのに勝手に定期的に検診に行くようになった。お陰で今でも歯はちゃんとあるし虫歯もほとんどなったことがない。

差し歯がそろそろ

20代の時に矢部先生に上の前歯3本を差し歯にされた。恐ろしい金額だったが、「30年は持つ」と言われ納得した。確かに40年経った今でも特に不具合はない。
なのにミッチーが「差し歯の横の歯が虫歯になったぞ」と言い出した。「一度差し歯を破壊して虫歯治療して新しい差し歯をつける」と言うのだ。冗談じゃない。あんな日数と金がかかる治療をもう一度やれって言うのか、お前は!アホか!全力で説得することにした。
「本当はそんなことしなくても何とかなるやろ。そっちをまずやってみろや。それでダメなら俺も考えるわ。絶対やるって言うんならオレが死んでからやれや!」と言ったら差し歯を破壊せずに治療が始まった。

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頼んでもいないのにいきなり麻酔を打たれた。痛ーよ、バカタレ!先に言えよ。結局計3回毎週通うことに。先日最終日に「もう1本直す」言い出した。「なんですとー!聞いてねーよ」と言うと「最初に言ったぞ」ときた。聞いたかなー・・・。「オレ、来週は来ない」「なんで?」「ちょっと奥様方とお食事会」「誰と?」「オメーには関係ねーよ」「ふーん・・・。ほんじゃ再来週な」・・・結局やるんかい。「差し歯破壊するなよ」「うーん、分からん」「アカン!これはオメーのトーちゃんの遺産やぞ。遺産は残せや」「あっそーか。ほんなら残そーかなー」んだよー、残してもできるんじゃねーかよー。

今日はここまで。次回ミッチーの恥ずかしい過去が・・・

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