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佐渡島庸平さん講演「これからの出版のこと」

10月16日に行われた、佐渡島庸平さんが登壇された「これからの出版のこと」という出版社の方に向けてのイベントを聞きに行けたのでレポートさせて頂きます。

以下、佐渡島さんが語られていたことです。
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僕が講談社にいた頃に手がけた作品の一つにドラゴン桜があるのですが、ドラゴン桜は決して順風満帆に売れたものではありませんでした。

その中でどうしたら本を売れるのだろうと考え出しました。

ドラゴン桜がヒットしたことで、自由に時間が使えるようになり、自分で企画することが出来るようになりました。(アプリ制作・大きい広告タイアップなど)

それをきっかけに漫画とコンテンツがどうやってタイアップしていけばいいのかを学びました。

社内の別部署を全て勝手に経験し、「小説を載せないなら部署移動届けを出しますよ」と言い、モーニングに平野さん、伊坂さんの小説を載せたりもしました。

周りの人から、自分の経歴を活かして「ドラゴン桜」を当てたけど次はないと言われていたのがすごく悔しかったです。

当時編集を担当していた小山宙哉さんの「宇宙兄弟」で大爆発させるぞと思って、様々なキャンペーンやイベントを同時期に起こるように設計し、試みたが、自分が思ったほどの爆発にならなかったのです。

書店に宇宙兄弟関連本をばらまいて書店をジャックできるようにしたかったが、各部の部長達がストップをかけ、予想していたのと全く違うキャンペーンになってしまいました。社内のみんなを協力させることが出来なかったのです。

元々は起業したいなど考えたことが無かったのですが、社会を動かすより講談社を動かすほうが難しいと思い、退社を決意しました。最初は社内ベンチャーに応募。講談社の社内ベンチャーの企画が通ったのですが、1年後の6月から社内ベンチャーをできると言われ、すぐにでも始めたかったから退社しました。そして2012年の10月にコルクを起業しました。

世界的にもエージェントという会社があるんだから食べていけるだろうと軽く考えていました。それまではIT企業とは無縁だったのですが、IT企業から編集者として仕事がしたいなどと山のように連絡があり、編集者としてそういったニーズもあるんだと気づきました。

起業することについて深く考えていなかったので、どういう風に稼がなきゃいけないのだろうかとゼロベースで考えました。

その時に考えたことは、戦後一番はじめに活躍したのは「モノを供給できる企業」であるということ。次に「質がいいモノを安定した量で供給できる企業」(トヨタ、パナソニックなど)さらには「デザインが活躍する時代」(1990年代、佐藤可士和さん×様々な企業など)そしてそこから「安いモノ」が好まれるように(2000年代)なったということです。

モノの時代→質の時代→デザインの時代→そこに「安い」が入ってくる時代(ダイソー、無印良品など))

さらにそこから時が進み、次は質やデザイン、値段だけでは無く、その製品の裏側に存在する「ストーリー」に共感するかどうかの時代がやってきました。(いろはすが一番売れているのはペットボトルが捨てやすくて環境に優しいからで、水の質だけではない。もはや水とは関係ない。裏側に存在するストーリーに共感するかどうか)

編集者とは本を作る、雑誌を作るという仕事だけではなく、ストーリーを作ることも仕事ではないか?と様々な企業の人から言われました。

コルク創業時から現在を比べると、出版点数が倍になっていて、書店に置かれる時間は半減しています。

圧倒的にいい本に出会うことが難しくなっています。自分のところにくる情報だけで処理が大変になっているが、自分の手元に来ない情報も激増しています。

元々は出版社などは、多くの人が情報リソースをここにしますよと決めている人に向けて(新聞、書店など)安定的に情報を届けるという媒体して非常に価値が高く、「届くシステム」を作っていて、その状況下でコンテンツを作っていればいいという状態だったのですが、今はインターネットにより人々が日々出会う情報量が爆発的に増えたので、情報を見つけてもらうことが圧倒的に困難になっています。

「砂漠の中に金を置いて、さあ探して下さい」という状態です。

今の時代に売るということは、「届ける状態を作る」ということです。

僕は創業した時から、社員全員でSNSを使おうと言ってきました。
メタップスの佐藤さんと話した時に、「SNSでの100万人のフォロワーか、10億円の現金だったら100万人のフォロワーを選ぶ。100万人のフォロワーは自分が失敗した時でも助けてくれる。」と聞いたこともきっかけの一つです。

インターネットは「人と人が線でつながっていくツール」です。
けれど、インターネットは所詮は道具で、道具には人間の欲望がセットになっています。

人間の根源的な欲望とは「出会いたい」「話したい」「理解し合いたい」ということです。

今まではほとんどの欲求がうまくマッチングされなかったため、自分で所有するしかなかったのですが、インターネットが発達して、出会いたい人が友達だったらFacebook、男女の関係だったらTinder、モノだったらメルカリ、車だったらUber(今まで自分が移動できる車に出会いたいと思っても、マッチングされなかった)というように、個々の欲求のマッチングが容易になってきました。(メルカリでは売上金を手元に戻す人は意外と少なく、売り上げ金でまた新たなモノを買う。そしてそれが必要で無くなったらまたメルカリ上で売る、という短期的に何かを借りるという超シェアリングツールとして使われています。)

ネットの中でマッチングされるものは自由になりました。
それと同時に、出版社の持っているマッチング機能が無効化されてしまいました。書店と雑誌を通じてマッチングさせようという機能が機能しなくなってしまったのです。

インターネットの中は全員が繋がっていて、全ての情報に全員がマッチングできる為、ヒエラルキーがありません。会社だとどうしても上下関係になりますが、インターネット上では違います。

インターネットの中では、1対1の関係がN回繰り返されます。「みなさん」という呼びかけでは無く、1対1の話し方をしていかなければならない。それにより話す文法が変わりました。
1対1をN回繰り返していくコミュニケーションを知っているかどうかが非常に重要になります

インターネットの中だと、今から自分がメディアになろうと思うと1時間あれば出来てしまいます。自分の人件費以外にはお金がかかっていない状態でビジネスを始められます。それがインターネットの最大のメリットですが、それはリアルの社会で考えるとシベリアにポツンと出店するようなものなんですね。

みんなが話題にしてくれるものをインスタやTwitterでどうやって作れるか
シベリアに存在しないような状態を作ろうとすると、Kindleで出す、楽天で出す(楽天で出すとシベリアが根室レベルになります。そして広告費用を使ったら札幌に連れてってくれる)楽天にたくさんお金を使ったら都心に連れて行ってくれるが、顧客名簿は自分のものにはなりません。一生その村から出ていけなくなってしまいます。

そんな時にSNSでフォロワーがたくさんいたら、そのフォロワーの方々が自身が出すコンテンツを都心に連れて行ってくれるのですが、吉野家では1万円に値する牛丼は食べられないように、SNS上で何を発信しているかでついているお客さんが全く違います
その人のコンテンツが中心街にこられる物かどうかはコンバージョン率で分かってしまいます。(1万人フォロワーがいても、10「いいね」しかつかなかったら、その情報は中心街へ行けません。)

自分をフォローしてくれる人をふるいにかけて、残った人がフォロワーです。どんなふるいにかけるのを明確にしていくのがツイート。

コンテンツとは、どれがいいコンテンツかというのは一瞬見ただけでは分かりません

情報が溢れている為、フォローしてくれた限定した人に届けて行くことが重要です

宇宙兄弟のメルマガフォロワーが3万人程いるのですが、3万人のうち9000人くらいがコルクに買いに来てくれます(二日間で)。
宇宙兄弟のショップが日本で一番宇宙兄弟が売れている実店舗なんですね。
発売前から出版についてツイートしてくれるので、発売されるということが認知され、売れ行きが良くなります

僕が編集している本は出版まえに無料でコンテンツを解放したりしています。「無料でコンテンツを解放したら売れなくなってしまうのではないですか?」と言われますが、実際には無料でコンテンツを解放しても、3000人〜5000人くらいしか見てくれません。

本当に一番の問題は見つかるかどうか。認知されるかどうかです。

「ネット時代のコンテンツはどんなものがいいか?」ですが、マッチングが不十分な時代に生きていた昔とは違い、今はマッチングが容易になってきました。インターネットの中はマッチングが細かくなってきています。
分析が容易になり、例えば食事でいうと、肉好きか魚好きかではなく、体調によって食べたものの感じ方も違いますよね。インターネットの発展は、その体調まで管理して、それに合わせて食材が届くように、という世界も可能になります。

インターネット以前はマッチングが粗かったため、人は社会に合わせて欲望をかなり我慢していました
しかし、人の欲求としてあるのは、「様々な細かいことを知りたい」ということです。
今の人は、ものすごく細かいことを話し合えたら人は本一冊に一万円を払ったります。狭くて深いものは高くてもいいという感覚があるんですね。情報とは、ニーズは少なくてもめちゃくちゃ欲しいものだと高くても売れます
けれど、書店で売るものでは高くて深いは難しい。書店で高くても売れるのは医学書やニッチな資格ものだけです。

情報は受け取る「側」によって値段が変わります

例えば、ワインだと誰がいつ作ったかを知るにはソムリエが必要です。ソムリエも編集者と言えます。DJは音楽の編集者です。
情報自体の値段をどのようにあげるのかは、「どういう風に説明して売るか」です。

ネット時代での編集技術は「狭いこと」です。(「サウナ行きたい」、「怪魚のメディア」など)
細かいことまで書いてあることが大切です。
プラットフォームが成り立つのはエンジニアの力です。(Facebookのメッセンジャー機能でPDFを貼り付けられることはエンジニア技術が奇跡的にすごいことだそうです。)
機能が便利になることには編集の余地がないが、編集者は何を深掘りしていけば情報としていいのかは分かる
ここにしか絶対ないレアな状態に価値があります。(「刺されてみました」の本など、バカらしくてニッチなものにものすごい価値があります。)

インターネットの中では日常では出会えない1000人、1万人と出会えます。

1万人フォロワーがいたら、1億円売り上げられるECコマースが出来ます

世界中の1000人、1万人と出会えたら横に展開して行くことです。

本というくくりだと、多種多様過ぎてフラグが立って無さ過ぎます。

人が購買へ至る時のフラグは感情になってきます。
「宇宙兄弟」は挑戦する人たちの漫画です。「宇宙兄弟」のブランドは挑戦する人のためのブランドであり、「宇宙兄弟」ブランドで販売しているヘアピンは、買ったお客さんが「ヘアピンをありがとう」じゃなく、「ピシッとした気持ちをありがとう」ということが発生しています。

今まではモノの事情・お金の事情に合わせて生きてきましたが、感情に合わせて生きていける時代になってきます

ネットの中はマネタイズを先に考えなくても、フォロワーがたくさんいて、分析をすればマネタイズ出来るビジネスモデルが思いつくようになっています。

今の若い世代は、ネット上の情報は無料が当たり前、むしろ情報を見ることとは、時間を費やすことだから、ポイントを貰う行為であるという認識すらあります。

そんな時代の中、情報の中身はなかなか有料になりづらい。
人はモノやコトにお金を出すのではなく、つながりにお金を出す。ということです。共感していたら、情報では無く、関係値にはたくさんお金を払います。情報に対してお金を払っているのでは無く、関係性に対してお金を払っているのです。

ネット上ではファンの5%〜20%くらいの人が課金します。その人たちに正しく課金してもらうことが重要になる

課金しない人たちももちろんファンであり、その人たちがもっとお金を払いたいと思う仕組みを作りたいと思っています。

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1時間半の佐渡島さん単独講演で、これでもまだ抜け落ちがあるかと思いますが、以上イベントレポートでした!(かなり詳細に記載しましたが、佐渡島さんには記載OKとのご許可を頂いています!イベントで佐渡島さんが仰っていたことを聞くと詳細記載OKの訳が分かります)

長文お読み頂き、ありがとうございました(^^)

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