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四畳半の狭い団地の部屋とロックの師匠

2000年9月4日に他のサイトへ掲載した原稿を加筆修正しました。
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1969年の夏、中学2年生の時に引っ越しました。

引越し先は大阪南部の富田林市。丘陵を切り開いたところで開発が進んでいたニュータウン内の団地でした。周りには長閑な田舎の風景がまだまだ残っていました。

簡単に言えば、大阪南部のド田舎へ引越した訳です。

転校先の中学校は、団地の中心部に建てられた新設校でした。そんな中学校ですから、生徒も昔からこの地域に住んでた連中と、色々なところから転校してきた連中とが半々でしたね。

私が転入した翌日、また一人転校生が入ってくるような状況でしたから、幸いにも転校生イジメなんかしているヒマはありませんでした。色々な地域から転校生がやって来るので、結構面白かったです。連中と色々な話しているだけで、自分の世界が少しばかり広がる様な気がしました。

私は新築の団地に住んでいましたが、昔からのこの辺りの住んでいた地元の連中は、古い日本家屋に住んでいました。

或る日、古い家に住んでいる友人が、私の住んでいる団地にぶらりと遊びに来ました。その時、友人が一番驚いたのは洋式トイレでした。それまで”汲み取り式・垂直落下ドッポ〜ンタイプ”、しゃがんで用を足す和式トイレしか知らなかったのですから、当然といえば当然の反応ですね。かく言う私もこの団地で初めて洋式トイレを経験しました。

この中学校で出会った転校生で、私の世界を変えたヤツが二人います。これはその内の一人についての思い出です。

その一人、ギターの弾けるITO君は名古屋から転校してきました。ちょっと猫背、長髪で、話し方のイントネーションが少し違う、なんとなく都会的なヤツでした。

色々話していると、ITO君はロックが好きなことが判りました。その頃、私はプロレス大好き少年で、ロックなんかぜ~んぜん知りませんでした。

ITO君の家に遊びに行きました。彼も団地に住んでいて、彼は狭い四畳半の自室でポール・バターフィールド・ブルース・バンドやレッド・ツェッペリン、ヴァニラ・ファッジなど、色々なバンドのレコードを聴かせてくれました。ITO君はロックのレコード(LP)をすでに50枚以上は持っていました。シングル盤(EP)も沢山持っていましたね。当時に中学生にしては、なかなかのコレクションだったと思います。

背骨がネジ曲る!

まるでアントニオ猪木の必殺技、コブラツイストか卍固めの様に、ITO君が聴かせてくれたロックは私の体に絡み付き、体中の骨や関節をギシギシ軋ませました。そしてロックまるでウイルスの様に全身の毛穴から私の体内に侵入しました。

ロック・ウイルスに感染した私は重篤化し、ロックの師匠、ITO君の狭い四畳半の部屋に入り浸り、ロックを貪り聴く日々が続きました。そして私はITO君からブルース・ロックの優越・優秀・優位性を徹底的に叩き込まれることになるわけです。

その音楽だけではなく、ロックのレコード・ジャケットのデザインも大いに気に入りました。

それまでレコードとはほとんど無縁の生活を送っていた中学生でしたが、ロックのレコード・ジャケットのデザインは、他のレコード、例えば歌謡曲やクラシックなどとは全然違うモノだという事が直ぐに分かりました。

ジェスロ・タルの『スタンド・アップ』、ジェスロ・タルのギタリストだったミック・エイブラハムズが結成したブロドウィン・ピッグの『アヘッド・リングス・アウト』のジャケットデザインなんかが好きでした。

Jethro Tull / Stand Up
Blodwyn Pig / Ahead Rings Out

ノーマン・ロックウェルがマイク・ブルームフィールドとアル・クーパーの二人をカッコよく油絵で描いた『フィルモアの奇蹟』のジャケット、これも大好きです。すごくアメリカっぽい雰囲気がします。

Live Adventures of Mike Bloomfield & Al Kooper

マイク・ブルームフィールドは大好きなギタリストですから、今でもこの長編ライブアルバム『フィルモアの奇蹟』は愛聴盤です。

ITO君の部屋で何度も繰り返して聴いた《メリー・アン》や《ソニー・ボーイ・ウィリアムスン》は今でも好きな曲です。しかし《ソニー・ボーイ・ウィリアムスン》でギターを弾いているのはマイク・ブルームフィールドの代打(代弾?)、売り出し直前のカルロス・サンタナです。マイクは持病の不眠症でぶっ倒れて、ライブに出演できる状態ではなかったそうです。

またイアン・アンダーソン率いるジェスロ・タルのファースト・アルバム、『ジス・ワズ』(邦題は『日曜日の印象』)のジャケットも中学生には衝撃的でした。メンバー全員が老人に扮し、犬に囲まれたジャケットは少し不気味に感じましたが。

Jethro Tull / This Was

イアン・アンダーソンのジャージーなフルートとミック・エイブラハムズのブルージーなギター、いつ聴いても渋くてカッコいいですね。

団地の四畳半の狭い部屋には勉強机にベッド、そしてステレオとロックのレコード。

今でもこの辺りのアルバムを聴くと、ITO君の狭い部屋をぼんやり思い出すことがあります。

それと忘れられないのが、ロックを聴きながら回し読みした、セクシーグラビアたっぷりの雑誌「平凡パンチ」と「プレイボーイ」。

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中学生だったITO君は、自分では買いに行けないので、大学生だった姉上に頼みに頼んで、ちょくちょく買ってきてもらっていたそうです。

中学生にはロックと同じぐらい強烈なインパクトがありましたね。

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