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アメリカ進出に失敗しない顧客ヒアリング法

アメリカでのスタートアップが失敗する主な理由として、「顧客ニーズを十分理解していなかった」と振り返る創業者は多いです。これは私もスタートアップで失敗して強く感じたことです。

アメリカに進出しようとしている日本のスタートアップや企業もこの理由で失敗する可能性がとても高いと感じています。なぜなら、多くの日本企業は顧客ヒアリングを行う際に、顧客のニーズの引き出しより、自分のプロダクトやサービスのピッチに偏りがちだからです。

例えば、ホンダのディープテック関連事業のアメリカ展開の支援や、アメリカで顧客開拓を始めている日本のスタートアップ創業者と話す中で気づいたことですが、多くの企業は、プロダクトの説明→フィードバックを集める、という構成でヒアリングを進めていました。この構成では、プロダクトについてのフィードバックは得られますが、そもそも顧客ニーズがあるのかを深く検証できません。

アメリカでは、顧客タイプや、それぞれのニーズが日本と異なる場合が多く、アメリカ進出前にカスタマーディスカバリーを行うことが何よりも重要です。つまり、ターゲット顧客が誰であり、彼らのニーズが何であるかを深く理解することです。これには、机上の調査だけではなく、顧客と直接話し合い、ニーズを引き出せるヒアリング方法を実施する必要があります。

この記事では、アメリカ進出を考えている日本のスタートアップや企業に向け、効果的なヒアリングの方法を説明します。

今回の記事は、以下に当てはまる方は読者の対象としていません。
- 顧客ニーズを理解するために時間を費やしたくない人
- 日本とアメリカの顧客ニーズは同様だと仮定する人
- 不快なことをしたくない人

備考:
- この記事で紹介する概念の多くは、Y Combinatorを卒業したテック創業者であるRob Fitzpatrick氏の著書The Mom Testで紹介されています。
- 以下の内容は、自身の見解だけではなく、アメリカのスタートアップアクセラレーターの運営者や、起業家などのフィードバックを受けて纏めたものです。


ヒアリング構成

カスタマーディスカバリー段階で顧客ニーズを理解するためには、顧客に関する「良い」データを集める必要があります。良いデータとは、バイアスの無い、事実に基づいた実際のニーズを指し示すデータです。例えば、顧客の過去の行動や、既に利用されているプロダクトやサービスなどについてのフィードバックです。 

一方で「悪い」データは、基本的に意見や仮定として提示されることが多く、情報が偏っています。このようなデータは事業を誤った方向に導く可能性があります。例として、プロダクトに対する意見や、仮定に基づいての表現などが挙げられます。

良いデータと悪いデータの具体例

短時間で良いデータを収集するには、顧客との面談の冒頭・中盤・終盤の流れを事前に練り、ヒアリングの構成を意識することが重要です。

冒頭

面談冒頭にプロダクトの紹介をするとそれに関する質問や意見を中心に会話が進み、顧客ニーズを十分に理解する機会を逃してしまいます。

機会損失のリスクを避けるためにも、プレゼンを始める前にできるだけ顧客に質問することをお勧めします(以下に「正しい」質問を紹介します)。例えば、顧客が面談に参加した理由を尋ねるなどの質問です。

以下に具体的な会話例を紹介します。

You: I would like to talk to you about our AI software for dentists, but before I start, may I ask why you decided to take the call?
Customer: Sure. As a local dental practice, we have been looking at new ways to automate our booking process for patients because we have to manage a lot of patients with a small team. We have been pitched many times but we haven’t found the right software.
You: I see, what other software have you looked at?
Customer: We have mainly used Zocdoc but it’s a hassle to use when you have to reschedule appointments.
You: How often do you have to reschedule appointments?

中盤

中盤でプロダクトを紹介する際、長く説明しすぎないことがポイントです。繰り返しになりますが、ヒアリングでの目的は顧客からプロダクトに対してのフィードバックを得ることではありません。

中盤では話すより聞くことが大切です。プロダクトのコアバリューを理解してもらうための情報を伝えるだけで十分です。それ以上説明に時間を割くと、顧客ニーズを知るための時間を削ることになります。

終盤

最後に質疑応答の時間を必ず設けることをお勧めします。顧客と双方向の会話をするためでもありますが、時には最後まで発言しない人もいるため、この時間が大切なのです。

また、プレゼン中にできなかった質問をする絶好の機会でもあります。質問する前に、
"If I may, I have some questions for you to better understand your needs so that I can develop something that more closely aligns with your needs."
と伝えると、スムーズに質問に移れます。

ここでは、相手が次回訪問で知りたい情報(コストや導入事例など)や、もし相手が関心がない場合は、顧客になり得る知り合いがいるかをを聞くなど、次につながる行動を提案します。次回訪問の約束や、何らかのコミットメントを求めなければ、相手が有力な見込み客であるかを判断できません。


質問の内容

顧客から良いデータを得るためには、適切な質問を投げかける必要があります。どのような質問をするかによって、得られる回答の質が変わってきます。

良いデータを得られる質問例の前に、悪いデータをもたらす質問の例をいくつか紹介します。

「間違った」質問

"What do you think about my product?"
(我々の製品についてどう思いますか?)

  • カスタマーディスカバリー段階で顧客の意見を求めないことをお勧めします。なぜなら、意見からは実際のニーズを汲み取れないからです。さらに、間違った顧客(初期の顧客から対象を外すべき顧客層など)と話している可能性もあり、誤解を招くデータを引き出すことになります。

"Would you buy it, and for how much?"
(あなたなら、それを買いますか?いくらで買いますか?)

  • 仮定を前提にした質問は避けるべきです。このような質問は「顧客が何をする可能性があるか」を理解するのには役立ちますが、その質問から将来の顧客行動は推測できません。

"What kind of features are you looking for?"
(どのような機能を求めていますか?)

  • 市場がすでにあり、ニーズがはっきりしている場合はこの質問は決して、悪くありません。しかし、新しい市場(web3やディープテックなど)の場合、顧客に「どのような機能を求めいるか」や「どのようなニーズがあるか」を聞かない方が賢明です。往々にして、新しい市場では顧客が実際に何を求めとしているのか、明確になっていないものです。ヘンリーフォードの名言、「もし顧客に、彼らの望むものを聞いていたら、彼らは「もっと速い馬が欲しい」と答えていただろう」に繋がる話で、顧客に聞いても、顧客の要望はわかりません。

「正しい」質問

正しい質問とは、過去の顧客行動を解き明かすものです。なぜなら、顧客はすでに探しているプロダクトや、過去の行動に何らかの形で当てはまるプロダクトにお金を使う可能性が高いからです。

具体的には、顧客がすでに何に時間とお金を費やしているのか、あるいは過去に特定の問題を解決するために、どのような行動を取ったのかがわかる質問が理想です。

以下に顧客の行動を把握できる質問の例を紹介します。

"What have you tried in the past?"
(過去にどのようなことを試しましたか?)

  • この質問は、顧客がどのような解決策を取り入れているのかを深く理解するのに役立ちます。アメリカには多くの競合他社が存在するため、 机上リサーチでは調べきれなかった競合他社も存在するはずです。顧客が実際に望んでいる、本当の意味での差別化されたプロダクトを作るために、顧客が今まで何を試したのか、なぜ試したのかを理解するのが大切です。

"Can you talk me through the last time that happened?"
(この問題に対して、過去にどのように対応しましたか?)

  • 特定の問題に直面したときの行動を掘り下げるのは、顧客がどこで行き詰まり、なぜそうしたのかを理解するのに役立ちます。ここで得られる回答は非常に有益です。多くの場合、顧客が行き詰まる場面を具体的に聞くことで真のニーズを掘り起こせます。

"Who else should I be talking to?"
(私は他に誰に相談すべきでしょうか?)

  • これは同じような問題を抱えている知り合いや企業がいるかを聞く質問です。アメリカに強力なネットワークを持たない日本のスタートアップにとって、この質問は必要不可欠と言えます。多くの見込み客にリーチするには、紹介を頼るのが得策です。

まとめ

私自身、顧客ヒアリングを行う際に構成を意識し、適切な質問をすることで大きな潜在市場を発見でき、初期顧客を獲得できました。

何事にも万能の解決策は存在しません。この記事で紹介した方法は、アメリカ進出を模索する際に、顧客ニーズをどのように掴めるかを考えるための一手段に過ぎません。しかし、どのような方法であっても実際の顧客ニーズを発見する唯一の策は、顧客と会話することです。

アメリカ進出の支援サービスをお探しの方、アメリカ進出にご興味のある方は、弊社ウェブサイトからお問い合わせください。

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