④”NPO支援”を分類する二つの視点―①課題の粒度

こんにちは。NPOコンサルタントの堤大介( @22minda )です。

本日は前回の記事で少し触れた「NPO支援者って色々な種類や形態があるよね」というざっくりとした前提が、実際どんな種類なのかという話を考えていきます。分類の仕方自体がいろいろ考えうると思うのですが、私は主に大きく二つの分類で捉え、考えています。「課題の粒度」「関わり方」の二つです。

今回の記事では一つ目の視点である「課題の粒度」について書いていきます。


課題の粒度による分類

NPOを支援する業務は内容はさまざまありますが、いずれも対象とするNPOが抱えている課題を解決するために支援業務を行います。その解決しようと支援する課題の大きさや広さ(広がり方)によって分類するという視点です。

機能支援:ファンドレイジング(あるいはその中のさらに一部)、広報、会計、法務、IT、Web制作、デザインなど特定の機能的な課題に対して支援を行う
団体支援:団体のビジョン実現に向けて必要な支援を、機能支援のいくつかを必要に応じて組み合わせながら行う。組織基盤強化、事業戦略立案など
分野支援:子どもの貧困対策分野、環境分野など分野全体での課題解決を行うコレクティブインパクト的なアプローチへの支援を行う
地域・生態系支援:地域つくりや地域の担い手つくりなど、地域課題は地域内の事象や状況などが複雑に絡んで生じていることに地域全体で向き合う機運自体の醸成や多様なステークホルダーと地域課題解決へ向けた動きに対しての支援を行う。

概ね上記のような分類ができるのではないでしょうか。基本的には下に行けば行くほど課題の粒度が大きいということになります。もちろん地域支援に関わるからといって、地域課題のすべてを網羅的に解決していこうなんていう無闇に大きなプロジェクトである必要はまったくなく、地域という大きな視点を持った上で、地道で確かなチャレンジの場をつくるという取り組みもたくさんあります。

そしてこれらの分類に当てはまらないものも当然あると思いますし、実際の支援の現場ではこれらは明確に切り分けられているものばかりではなく、組み合わさっていたり重なり合っているものもたくさんあると思います。(例えば特定の地域に根ざして地域で活動している方を対象に機能支援や団体支援を行う、という関わり方もあります)ので、具体的な支援テーマや専門性を一つ一つ挙げていくと、当てはめにくいものとかよくわからないものも出てくるかと思いますが、さまざまなNPO支援のあり方があることを前提として、それらのさまざまなあり方を捉える一つの視点として眺めてみていただければと思いますし、実際にNPO支援業務に携わっていらっしゃる方からは分類の仕方や名付け方についてのフィードバックや改善アイディアをいただけたらありがたいです。

さて、こうした課題の分類の中で「NPO支援者」という言葉で一般にイメージされることが多いのは主に機能支援と団体支援ではないか、と考えています。私自身の仕事もほとんどがこのどちらかに当てはまっています。以下ではこの2つの支援について、その特徴や捉え方を実際のNPOからの支援ニーズや支援業務の例も挙げながら考えてみます。

機能支援の特徴

機能支援の特徴は提供する専門性(解決する課題)が明確であるということです。例えば会計についての課題を抱えている団体に対して、税理士さんや会計士さんがその専門性を持って適切な解決策を示してくれたり、あるいはその専門的業務自体を支援者に委託するといった形です。NPO側で課題が顕在化している状態、つまりNPO側のニーズが明確な状態で支援者とつながることが多く、依頼者であるNPOにとっても支援者にとっても支援がなされた後の課題が解決された状態や成果物がわかりやすい支援の形になることが多いですね。

これからNPO支援者になることを目指したいという方はまずは自分が提供できる専門性を見極めた上で、それを機能支援の形で売り出していくというのはNPO側にも伝わりやすくなりますし、実績も積みやすくなると思います。

機能支援の「わかりやすさ」にまつわる課題

支援を求めるNPO側で「この機能の課題を解決して欲しい」とニーズを特定した状態で支援者を探し、つながることになることが多い機能支援ですが、一方でこのことはメリットばかりではなくデメリットになる場合もあります。

例えば情報発信に力を入れていくために団体のWebサイトの制作やリニューアルをしたいという機能的な課題(ニーズ)を持っている団体が、Web制作を行うことのできる個人や制作会社に依頼を行うといったことが行われますが、団体の事業の価値が適切に伝わっていかないことの大きな要因はWebサイトのデザインや機能が古いことではなく、団体の掲げているビジョン自体が不明確であることにあるかもしれません。このときに、その根本課題に気づき団体側にその課題の解決を行うように促したり、あるいは一緒に解決していくこともできるWeb制作者であれば良いですが、そうではなくあくまでもWordPressの構築やコーディングといった技術的観点からのWeb制作という機能だけを支援の強みとしている場合、見た目はキレイなWebサイトが出来上がるかもしれませんが、その団体の情報発信の課題は解決しないといったことが起こりえます。

この場合支援者の提供している支援が不十分であるといえます。Web制作を専門としている人がビジョンの明確化まで請け負うことが必ずしも必要とは私は思いませんが(もちろんそれができる制作会社さんも実際にいらっしゃいます)、少なくともビジョンの明確化を行うことが根本的には必要であるということに気づき(ビジョンの明確化を行うべきことや、必要に応じて他の支援者を紹介するなどして)団体側に伝えるというところまではできた方が良いでしょう。

機能支援を行う人材が最低限身につけたい視点と姿勢

つまり、機能支援を行う支援者は自身が行う機能支援においてNPO側の抱えている課題を解決するために、顕在化している機能的課題へのコミットだけで根本的な解決となるのかどうかを最低限判断できる目や、それを相手方に真摯に伝えるだけの倫理観(場合によっては自身が提供する機能支援は優先順位が下がり、支援者側としての短期的なビジネスとしては失注となる可能性もあるが、それでも社会的成果志向をつらぬけるか)をもつ必要があると感じます。

こうしたWebサイト制作における依頼者と支援者のミスマッチは何も非営利セクターだけで起こるわけではなく営利セクターでも起こりえます。例えば今回例として挙げているWeb制作に限ってみても制作会社の提供サービスというものはかなり幅広く、制作面のみに特化している場合もあれば、SEOやマーケティングのコンサルティング、さらにはブランディングや事業戦略コンサルまで含めて支援できるところまで色々です。ただ、そもそもNPOの場合には自組織やあるいは自組織の事業・活動の提供価値や本質を言語化することに慣れていなかったり、伝えていくことに課題を感じているケースが多々あるので、NPOに向けてWeb制作やデザインなどの情報発信に関わる分野の機能支援サービスを提供するのであれば、ある程度は支援者側としてそうした可能性への配慮や対処法を自分なりに持った上でNPOとコミュニケーションしていく姿勢が求められるのではないかと感じます。

NPO支援者を目指す方と、支援を受けることを考えているNPOの方へ

今回はWebサイト制作を例に挙げましたが、支援するテーマが何であれ、こうした視点はある程度は必要になってくるのではないかと思います。もちろん支援テーマによってはNPO側のニーズと期待される支援の明確さがゆるぎにくいものもあるとは思いますので、これからNPO支援者になることを目指す方で自分が想定している支援テーマが具体的に定まっているのであれば(「ITで支援したい」「会計面の支援をしたい」など)その分野で実際に支援を行っている先輩支援者に話を聞きに行ってみることをオススメします。NPOからの相談を受け実際に支援に入るまでや支援を行っている最中にどのような難しさや注意点があるのかを聞いた上で自分なりの支援スキームをつくっていけると良いのではないでしょうか。

また、NPOとして機能的な課題の解決を支援者に依頼しようと考えていらっしゃるNPO運営者・経営者の方の場合、何かしら顕在化した課題があるから支援者への依頼を検討するということだと思いますが、相談をする際にはやってほしい支援だけではなく「なぜその支援を受けたいと考えたのか」という点を意識して、背景にある課題意識から共有するようにすると良いかと思います。例えば上で例に挙げたWeb制作で言えば「HPをリニューアルしたい」というやって欲しいことだけではなく「なぜHPリニューアルをする必要があると考えたのか」という部分です。受益者に安心して相談してもらえるように事業内容や活動実績をわかりやすく伝えられるようにしたいとか、財源的な課題があり寄付や会費を募りやすくしたいとか、背景の部分ですね。

団体支援について

続いて団体支援について。団体支援については先に「団体のビジョン実現に向けて必要な支援を、機能支援のいくつかを必要に応じて組み合わせながら行う」と定義をしてみたのですが、かなり大雑把な定義だと思います。団体支援こそ実際に取り組んでいる人がやっていることもさまざまで厳密な定義をすることが難しいと感じていますので、あまり細かい点に入りすぎず共通点というか本質的と感じる部分に絞って話をしていこうと思います。

機能支援との違い

団体支援的なことを行う際に、具体的なNPOの課題やその解決のために行うことや関わり方などは本当にさまざまになると思うのですが、先に解説した機能支援との比較で言うならば

- NPO側のニーズ自体が明確でない
- NPO側のニーズが明確だとしても、求めている支援内容の提供だけでは本質的な課題が解決しない

といったケースで、かつ解決されるべき課題が特定の機能ではなく、団体のビジョンや事業戦略、組織体制やチームビルディングなど組織全体に関わる大きなテーマであるような場合は団体支援に当てはまる、と私は捉えています。

例えばビジョン策定や事業戦略策定自体を一つの専門的機能と捉えると機能支援であるということもできますし、そのようにとらえて支援を行っている方もいらっしゃるかと思いますが、機能支援と分けている理由として支援者側からの専門性提供だけではなく一定以上の団体側の課題解決へのコミットが求められるという点も特徴として挙げられるかと思います。(この点は機能支援でもテーマによりさまざまなので、団体支援ならではの特徴とは言い難いですが)

あるいは、定義の文章にも入れた通り「機能支援のいくつかを必要に応じて組み合わせながら」という支援、つまり解決されるべき課題が複数あって、結果的に団体全体の変革に影響を及ぼすような形になるという捉え方もできるかと思います。(会計面では経理処理のやり方やフローを整えないといけないし、組織体制や会議体系など組織運営のルール化も作らないといけないし、ボランティアや寄付などの支援の募集や受付体制も整えなくてはならない…など)

「組織基盤強化」という考え方について

私はここでは団体支援という言葉を使いましたが、以前から業界で使われている言葉で「組織基盤強化」「キャパシティ・ビルディング」といったものもあります。これらも私が使っている団体支援とかなり重複する意味合いをもつものだと認識しています。

先に解説した機能支援も広い意味では組織基盤強化やキャパビル(キャパシティ・ビルディングをこのように略称で呼ぶ場合もありますね)に含めることもできるのですが、あえて組織基盤強化の必要性が強調されるのは、広報や会計といった個別具体的な支援テーマの提供を行って、それらのメニューの中からNPO側に任意に支援を受けるテーマを選んでもらうことだけでは本質的にNPOが自律的・自立的な状態にしていくことはできず、それぞれの団体が掲げるビジョンの実現にもつながらないといった反省的な経緯もあって、NPOの本質的な課題を特定して解決をしていくアプローチや、そうした組織の課題を特定し解決に向かっていける自律的な姿勢そのものを団体に身に着けてもらうといったことに重きが置かれていることがポイントであるように感じます。

例えば代表的な組織基盤強化助成である「Panasonic NPO/NGOサポートファンド for SDGs」では、助成のステップが大きく「組織診断」「組織基盤強化」の二つに分かれており、解決されるべき課題を特定すること自体にも注力すべきであるということが助成金の立て付け上からも明確に示されています。

団体支援を行う支援者が身につけたい視点と姿勢

ということで、NPO支援者として団体支援を行う上ではこのように組織を診断する視点を持ち、相手のNPOが目指していく方向に進んでいくために解決されるべき組織的な課題は何かを特定する力や、その課題を解決していくために必要な支援内容やNPO側による取組内容を適切にデザインし提案する力が必要になるでしょう。(こうしたことを行うのに具体的にどんな専門性が必要となるのか、については記事を分けて書いていきたいと思います)

まとめ。まだ明確にできていないことと考えるべきこと

さて、こうして書いてみると先に「機能支援を行う人材が最低限身につけたい視点と姿勢」で書いた”顕在化している機能的課題へのコミットだけで根本的な解決となるのかどうかを最低限判断できる目や、それを相手方に真摯に伝えるだけの倫理観”という部分と重複してしまっている点も出てきているように感じます。この辺り、切り分けや境界をどこまで明確にすべきかも、さらに書き進めながら考えていきたいと思います。現時点では私は「課題を診る目」と「解決すべき課題が何かをNPOと話す力」をかなり意識しているのだということが、自分で書きながらわかってきました。この辺りの新たに得た気付きからもまた考えるテーマや参照する議論を広げていけたら良いかなと思っています。

本日は以上です。

次回は分類視点の二つ目である「関わり方」による分類について考えてみたいと思います。

お読みいただきありがとうございました。

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NPOコンサルや伴走支援者になりたかった数年前の私のような方に向けて仕事をする中で感じたことや考えたことを書いています。 支援者育成やNPO支援の仕組み化などに取り組んでいくために、もしいいなと思ってもらえたら、サポートしてもらえると嬉しいです。